やすばすく

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俺節 あらすじ(一幕)

俺節の素晴らしい台詞たち、素晴らしいシーンたちを記憶に残したい、と思って個人的記録として書き始めたんですけど、東京楽が終わったのでちょっとずつアップしてみようかと思います。間違ってる部分もあるかと思いますが、雰囲気で読んでいただければ…。個人的に好きな台詞、熱かった台詞は何度か確かめたので合ってるかなあと思います…(どの台詞だよ問題)

 


一幕

 

【駅】

 幕に映る吹雪。その前をゆっくりと歩いてくる腰の曲がった老婆、後ろから借金の取り立て屋が二人。孫一人育ててる婆さんのところへ取り立てに来るのも気分悪いんだわ、と嫌味を言われても老婆は「そんなもんだべかぁ!」とぼけたように受け流す。あの孫、ろくに人の目も見てしゃべれねえやつだったじゃねえか。せいぜい孝行してもらうんだな。そんな取り立て屋の言葉も聞かず歩き出す老婆、悪態をついて去っていく取り立て屋たち。

 吹雪の向こう、駅のベンチに俯き腰掛けるコージ。寒さに肩をビクン、と震わせたり、腕をさすったりしている。老婆はコージの元へ。「ばっちゃん!」立ち上がり駆け寄るコージ。「ばっちゃん、堪忍な…。」「東京は謝りながら行くとこじゃね。」背負っていた包みをコージに手渡す老婆。「これ…せびろ?…ぜんこどした?ばっちゃん!」「それさえ着てれば、おめも、一丁前の都会の人間だ。なんも恥ずかしいことはね。恥ずかしいことはねんだ…」「ばっちゃん…」「…おめ、一人か。おめに友達も作ってやれなかったな。」「そんなもん、ばっちゃんが気にすることでね。」ベンチに腰を下ろす老婆。「おめ、東京に何しにいくんだ。」「…オラ、もう負けたくね。笑われんのもこりごりだ。でも、オラんだって武器あるって気付いたべ。世の中、とっくりかえしてやれるもの!」力強い表情に決意が滲む。

 

【東京・北野プロダクション前】
 行き交う人々をキョロキョロと眺めながら、背広姿でカバンひとつを胸に抱いて歩くコージ。不安、喜び、好奇心が入り混じったような表情。舞台の中央に辿りつき、「海鹿耕治ともうします。なにとぞ、よろしくおねがいします!」と叫び、額を地につけて土下座をする。すぐ傍で談笑する男たち。しばらくしてその中の一人が土下座しているコージに気付く。「君、何してんの!?」弟子入り志望の人?邪魔だからもっとあっちでやって。そんな冷たいあしらいにも「はい!」と返事をして、舞台左端へ移動して再び土下座するコージ。

 しばらくすると北野が登場。付き人の女性に手を引かれながら『真夏の果実』を歌い、スキップで通り過ぎる北野に、目を丸くしながら抱きしめていたカバンをぽろっと落とすコージ。「北野波平先生でいらっしゃいますか!?」「おお、そうだよ~」「オラ、先生の大ファンで!」「そうか、それはありがとう!」そう言うと再びスキップで建物に入って行ってしまう北野。「弟子にしてけろ!!」叫んで後を追おうとするコージだが、取り巻きに止められる。「今どき演歌やりてえなんて変人、誰も弟子にしたくねえよ!」と笑われ、追い払われそうになるコージ。

 そこへ、「まあまあそうつれないこと言いなさんな!」ギターをかき鳴らしながら現れた黒い革ジャン、黒いパンツにリーゼントの男。「そいつ、かれこれ四時間はそこで土下座してたぜ。たいした根性じゃねえか!…ま、それを四時間見守ってた俺もたいした根性だが。」「優しい人だな…」「よく言われる。」戸惑いながらも、ぽうっとした表情でオキナワを見つめるコージ。「オキナワ!お前よくまた顔を出せたな!」オキナワと取り巻き(大橋)が揉める中、建物から出てくる北野。女性誌の取材なのに男ばっかりじゃないか!と怒っている。「おおオキナワじゃねえか!」と気さくに声を掛ける北野。財布泥棒なんかの相手する必要ないですよ、と止める大橋。「泥棒じゃねえよ!財布の中身をちょっと拝借しただけで…」「それを財布泥棒って言うんだよ!」

 そんな中で再び、「弟子にしてけろ!」と土下座するコージ。「後生です、人殺し以外なんでもします!」「北津軽郡から出てきました、ばっちゃん置いて、俺には歌しかねって出てきたんす。」ここにいる人間、全員歌しかないんだよ。と穏やかに断る北野。しかし食い下がるコージ、「北野先生以外に本気の人いるように見えねえですけど。」怒る取り巻きたち。「喧嘩売るつもりはねえんです!けんど、こん中で一人でも、本当に歌しかねえって人がいるなら…会ってみてえから、一歩前へ出てくんねえか!?」立ち上がり、勢いよく取り巻きたちの方へ踏み出すコージ。どよめき、後ずさる取り巻きたち。「お前面白えな!面白えよ!おい、北野のオッサン!一曲聞いてみて、それから決めたらどうだ。」「彼を弟子に!そして俺のこともそろそろ許してください。」ちゃっかり頭を下げるオキナワ。大橋が止めようとするも、「もうお前も、こいつの歌が聞いてみたくなっちゃってんだろ?」と説得して、コージに歌うチャンスを与える。

 「『なみだ船』でいいか。歌えんだろ?」「はい!」力強く答えるコージ。意を決して、オキナワのギターに乗せて歌い出す。「涙のォォォォォ…」力を込めた歌声で歌い出すが、北野たちの方を振り向くと、声が出なくなる。喉のあたりを押さえて挙動不審になるコージ。「…もう一回だな?」仕切り直そうとギターを弾きだすオキナワだったが、コージが慌ててギターのネックを掴んで演奏を止める。「なんだよ!!」「みんな、見てるからちょっと…。人前で歌うの、めぐせくて…」モジモジとはにかむ。「めぐせえってなんだよ?」そんな間に北野は立ち去り、大橋からはもう来んなよ!と吐き捨てられ、取り残されるコージとオキナワ。

 「なんなんだよお前!」「…いっつもだ…!いっつも同じこと繰り返してきた…」頭を抱え、地面に崩れ落ちるコージ。「まあ…そんなに落ち込むなよ。」励ますオキナワに、「オラじゃなくてアンタが歌えばよかったんだ!」と逆上するコージ。「俺はこっち専門だからよ!」(ギターを掲げる。)「北野は自前の作曲家集団抱えてるからよ、俺も入り込んでやろうと思って弟子入りしたんだけど、まあいろいろあって…クビだ。」「いろいろって…?」コージの疑問をさりげなく流し、「よし、飲みにいくぞ!」とオキナワが誘うも、土下座をしたまま、「ぜんこがねえす…。」「なんだよ!」オキナワの大声にビクッとするコージ。続けて「ついでに宿も…」と言い、恥ずかしそうに笑う。「ようし!俺の城に連れてってやるよ、東京で一番の場所だぜぇ。」カバンを投げられ、慌てて胸に抱くコージ。「迷子になんなよ!」とオキナワに先導され、戸惑いながら後についていく。

 

【みれん横丁】
 ボロボロの建物が寄せ集まった通りに、ボロボロのなりをした住人たちが姿を現し、『みれん横丁のテーマ』を歌い出す。「良いも悪いもあきらめて苦笑いで飲もう…」諦めとやりきれなさが漂う。オキナワが現れ、俄かに活気づく住人たち。「北野波平に許してもらえたのか!?」「俺の伝授した土下座はしたのか?」口々にオキナワに声を掛ける。オキナワは「懐のちっちぇー野郎ばっかだぜ。」と不満げかつどこか自慢げ。その後ろ、ついてきたコージは、白い粉を売りつけられそうになったり、足を踏んだと因縁を付けられたりと散々に絡まれ困っている。「見ねえ顔だな。」「身ぐるみはがせ!」もみくちゃにされて、オキナワが止める。「そいつは俺の友達だ!」「オキナワの友達でも、俺らの友達じゃねえからな。」
 再びもみくちゃにされそうになったところで、「落ち着きたまえ諸君!」登場したのは軍服を着た小太りの男。「陛下!」(実のところは結婚詐欺師。)お前たちも行く場所がなくて初めてここに来た時、仲間として受け入れてもらったから今があるんだろう?と住人たちを諭す。住人たちが落ち着くと、酒箱の上に乗り、親愛のしるしに、と、手に持っていた肉の串を渡す。「…ばんべきゅ?」集まってきた住人たちに囲まれ見守られながら、オキナワに促され、肉を口にするコージ。「…おいしいです!」一気に場の空気が和む。「それで、これは何の肉なんです?」車のブレーキ音。何かにぶつかる音。住人たちが一気に振り向く。「あっちで犬が轢かれたぞ!」「何犬だ?」「秋田犬だ!」「よーし、とってこい!バーベキューだ!」目を丸くして、みるみる青ざめるコージ。走り出した住人たちにぶつかりフラフラとよろける。これでコージも仲間だな!と喜ぶ住人たちを横目に、ゴミ箱の蓋を取り、勢いよく嘔吐する。ショックを受け、ぐったりとその場にへたり込むコージ。
 そこへ「おい!すっげえもん拾ってきたぞ!外人の女だ~!!」両手両足を掴まれ、運ばれてくるテレサ。俄かに沸き立つ男たち。「順番を決めよう!」陛下の一声でテレサの前に一列に並び、最前列の男がズボンを下ろす。「ちょ、ちょっと待ってクダサイ!」慌てるテレサ。「ちょっと待って!…病気持ちかもしれない!」と騒ぎ出す最前列の男。「よし、コージに味見させよう!お前、ズボン脱げ!」と明るく提案するオキナワ。えぇっ!?と戸惑って後ずさりするコージをまたもやもみくちゃにしてズボンを脱がせようとする住人たち。
 大騒ぎになっているところへ三人組のヤクザが登場する。「おーいたいた!悪いな、こいつはうちの商品なんだ!」下っ端がテレサを掴まえる。「お前ら、まさか一緒になってこいつを逃がそうとしてんじゃねえだろうな?」否定する住人を、コージの目の前すれすれで殴り飛ばす下っ端。驚き怯え、倒れ込んだまま動けないコージ。引き摺られ、連れていかれるテレサ。「助ケテ…誰か助けてクダサイ…」泣き声のように救いを求めるが、誰も動こうとしない。ひとり、コージだけが、うずくまり呻き声を出して葛藤した末、「ちょ、ちょっと待ってください!」と声を上げる。「あは、なんだかうまく言えないけど…このままその人連れていかれるの、オラなんか嫌だなぁ。」へら、と笑いまじりに立ち上がるコージ。慌ててコージを諭すオキナワ。「東京じゃああいう方たちに逆らわない方がいいんだよ。お前の田舎でもそれは同じだろ?」「んだな。どこでも一緒だな!」途端に牙をむいて殴りかかろうとするコージ。オキナワが止めるも、「なんかムカつくなぁ!」と、腹を立てた下っ端に殴られる。「おい、もっとやってやれ。」という親玉の一声で、殴り飛ばされ、蹴りを入れられるコージ。止めようとしたオキナワも殴られる。「テレサ!勝手なことをすると、見ず知らずの方々にも迷惑がかかるんだぞ!」「はい、すいません、すいません、帰ります、帰りますカラ…」目の前で痛めつけられるコージたちの姿にショックを受けるテレサ
 フラフラのまま、オキナワに首根っこを掴まれ、一緒に土下座をして謝るコージ。「すいませんでしたぁ!」「すいませんでしたぁ…」立ち去り際、オキナワに蹴りをまた一つ、コージには唾を吐きかける下っ端。コージの体に力がこもる。「まてぇ…」「…あン?今俺に言ったか?」「謝れぇ…」「なんでお前に謝らなきゃなんねえんだよ!」再び殴られるが、ゆらゆらと気迫がのぼるように立ち上がるコージ。「オラにでね。せびろに謝れ。ばっちゃんのせびろに謝れ!」「…殴りすぎて頭おかしくなったんじゃねえの?」「オラこの背広にくにしょってんだぁ。これだば二度とばっちゃんに顔合わせられねえべさ!」殴られても殴られても立ち上がるコージ。「謝れ!やんだば、殺せぇ!」背後から頭を激しく殴られ、目を回しながらもなんとか耐えて、ふらふらと鉄柱に身を預ける。
 「今度はオラの番だ。今度はオラが、オラの武器で、おめぇらを殴るべ。」目を閉じ、天を仰ぐコージ。「……凍てつくようなァァ…港でェひとォりィィ…」気迫のこもった声で、『港』を歌い出す。思わず動けなくなるヤクザたち。息をのんで見守る住人たち。「あんたのォォォ…帰ェりィをォォ…待ァァァってェ…おりますゥゥ…」オキナワの方へ手を伸ばすコージ。ハッとしてギターをたぐりよせ、コージの歌に合わせてかき鳴らすオキナワ。「あァ~ァァ、北の港町」住人たちもコージの思いに引っ張られるように共に歌う。「冬待つゥ…おォォ、んンゥ、なァァァァァ!!」絶叫のように歌い終え、目を回して体を投げ出し、倒れ込むコージ。我に返ったように再びコージに殴りかかる下っ端たちを止める親玉。「…二番まで聞いたら、謝っちまうとこだったぜ。」助けなきゃ、と言うテレサを引き摺り、連れて行くヤクザたち。それと同時に、コージ!と駆け寄る住人たち。「死んだかぁ…?」「よし、身ぐるみはがせ~!」飛び掛かるのをオキナワが止め、「治療だ!」とコージを担ぎ上げ、横丁の奥へ運んでゆく。(5/30「しょんべんかけとけ!」6/1「酒かけとけ!」)一人残ったオキナワ、興奮した顔を浮かべ、みんなの後を追いかける。

 

【ストリップ小屋】
 『カスバの女』を歌うマリアンと、周りで踊る踊り子たち。テレサが慌てて裾から現れ合流する。おかしなビブラートをかけ歌い上げるマリアン(踊り子たちもすごい揺れてる)だったが、ショーが終わると「誰も聞いてないよ!」と怒りながら楽屋へ引き上げる。一方こちらも怒っているエドゥアルダ。「見タ!?見タヨネ!?あれ絶対そうダヨネ!?正面のオッサン、盗撮してたヨネ!?」「エドゥアルダちゃん?ここのお客さんほとんどオッサンだから~」とアイリーンが嗜めようとするも怒りが収まらない。「ワタシが股をパカーッ!と開いたら、カバンをグググーッ!と近ヅケルノ。あれ絶対カメラ入ってタヨ!」「そういう時はサ、あえて、こっちから近づいていくンダヨ!」マリアンの言葉に皆が集まり注目する。「そしたら相手もアタシのアタシを覗き込んでくるから、しょんべんひっかけてやればいいノサ~!!」「そんなに都合よく出まセンヨ~!」とアイリーン。「三十年も踊ってたら、舞台の上でできないことなんてナイネ~!」張り切って踊り出すマリアン。踊り子たちに向けてM字開脚、から腰を振りあげる。明るい雰囲気の中、「あれェ?マリアン姐さんってなんしゃいでしたっけェ?」「シャシャシャシャオ!!」シャオの爛漫な疑問にその場が凍り付く。恐る恐るマリアン(M字開脚したまま)を見る面々。「…その質問に答えたら、世界から戦争が無くなるっていうんなら、教えてあげてもイイケド。イイケド~!」腰を振りあげながら答えるマリアン。
 「だ、大丈夫デスッ!わ、私トイレ…!」シャオが慌てて扉を開けると、小屋主が立っている。「ま、マネジャ…」「お前も無断外出かぁ?」「違いますトイレデス!」弁明するも、手持ちのティッシュ箱で頭を叩かれるシャオ。「ダメだ!ウクライナみたいなことになりかねないからなぁ!エビバディ!わかってますか!?そこのブラジルコンビ!」突っかかろうと近づくマリアン、止めようとするエドゥアルダ。マリアンも思い切り叩かれる。「フィリピン、アンダスタン!?」「ファイ!!」全力で返事をするも叩かれるアイリーン。「福建省!」「ハイ!」やっぱり叩かれるシャオ。小屋主はテレサにも詰め寄ろうとするが、橋本が立ちふさがり宥める。「橋本さん…君は僕の味方だよねぇ?」「い、いえいえいえいえ!」橋本の胸倉をつかむと乱暴に口づけ、挙句グーで殴って卒倒させる。どでーんと仰向けに倒れる橋本さん。「エビバディ、アンダスタン!?」「…ハイ」「ハイッ」「ファイ!!」「…グッ!」満足げに楽屋を去る小屋主。
 「橋本さん!!」駆け寄る踊り子たち。「バカなことするからこれダ!」テレサを責めるエドゥアルダ。「ハイ。」「まだまだお金稼ぐんデショ!?」「ハイ…」「そのために仕事頑張るんデショ!?」「ハイッ…!」マリアンの叱責のたびに様々な「はい」で返事をするテレサを、「はい、はい、はーい!ッテ!」「日本人ミターイ!」と揶揄するアイリーンとシャオ。「…ワタシはお金を稼ぐヒト。家族はお金を使うヒト…」堪えきれずつぶやきを漏らすテレサ。「そんな言い方!」咎めるようなマリアンの声にハッとする。「スイマセン…」「別に私に謝らなくてもいいけど…」「いえ!皆さんにも、一度、ちゃんと謝りたいと思ッテ…」床に平伏すテレサ。「このたびの件につきましては、すべてワタクシの不徳の致すところでゴザイマス!」土下座で謝罪する。踊り子たち、しばし呆気にとられた後、「…テレサ堅いヨー!」「どっかのシャチョさんに冗談で教えられたんじゃナイノ~」と笑い出す。「もういいんだよ。お腹空いた!出前頼ム人!」エドゥアルダの提案に、皆ドヤドヤと畳の上に集まる。テレサを励ますように注文を聞くエドゥアルダ。(5/30「おまかせ」6/1「辛いの」→エドゥ「辛イノッテ!!」6/8「麻婆豆腐」→エドゥ「蕎麦屋に麻婆豆腐アッタッケ…?」6/10「コンニャク」→「コンニャクコンニャク!?コンニャクなんかナイヨ!!」6/18「もんじゃ焼き」→「もんじゃ焼き。ねえよそんなもん蕎麦屋にバカ!!」(エドゥさんノリつっこみ))
 ワイワイと話す踊り子たちに背を向け、座り込んだまま小さく鼻歌を歌うテレサ。それは『港』のメロディー。それに気が付き、ニヤニヤと近づいてテレサを囲む踊り子たち。「…いいメロディーダネ!」とマリアン。パアッと明るい顔になるテレサ。「この曲、知ってマスカ!?」「名前は知らないけど…演歌、ってやつダネ。」「エンカ……」うっとりとその言葉を口にする。「…エエンカ?」「エエノンカ?」自らの胸をわさわさと触りながらふざける踊り子たち。大声で笑いながら暗転。

 

【みれん横丁】
「I love you~♪OK~…暇、すぎるぜェ~~~♪」横丁の階段に腰掛け、ひとり弾き語るオキナワ。階段の上から住人(人殺し)が現れる。「オキナワかぁ。コージどした。」「放火魔に紹介してもらって働きにいったよ!」どこかふてくされている様子のオキナワ。「お前も働け~!」「俺はまだ250円も持ってんだよ。」「どうしたそんな大金!?」「俺とコージがデビューすりゃ、この何百倍も稼げるんだぜ!」話しながら表情が明るくなるオキナワ。「だけどコージはあれから一度も歌えてねえじゃねえか。」人殺しの言葉で再び面白くなさそうな表情に。「…めぐせえんだとよ。」「めぐせえ?」「恥ずかしいんだってよ!呆れるわ。」言い捨てるオキナワに、諭すように語り掛ける人殺し。「…オキナワ。俺この横丁でそんなやついっぱい見てきたぜ。自分に自信がなくて、なんか生きてるだけで恥ずかしいんだよな。お前が一人前にしてやれよ。」
 階段上、二人が話している反対側から、工事現場用の上着を羽織ったコージと住人たちがガヤガヤと帰ってくる。「くせぇか!」と嬉しそうにニオイを嗅がせているコージ。住人たちともすっかりと馴染んでいる。「オキナワ~!こっちさ来て、労働者のかぐわしきにおいを堪能しろよぉ~。」上着の前をがばっと広げ、体を揺らしてニオイをアピールするコージ。「や~だよっ。」「なしてさぁ~!この、汗と泥とこのホコリのにおいこそ、この横丁のにおいだべな!」(両腕でガッツポーズをするように天を仰ぐ。)コージもすっかりこの横丁の仲間だ!あの歌歌おうぜ!と住人たちから声があがり、『みれん横丁のテーマ』を歌い出す。が、歌が始まった途端、はにかんで所在なげにするコージ。おいどうした、お前も歌え!と再び歌い出す住人達だったが、コージは困り笑いで逃げ出し、店の壁に身を寄せる。「プロ目指してるやつはこんなとこで歌わねえかぁ!」「いや、オラは…」「こいつめぐせえんだとよ。」と呆れ半分で助け舟を出すオキナワ。
 そこへフラッとギターを背負った一人の男が現れる。「あれ…大野のダンナじゃねえか!?」歓声を上げ、我先にと階段を降りて男に駆け寄る住人たち。ぽかん、とその様子を見つめるコージと、面白くなさそうに階段を上りコージの傍で胡坐をかくオキナワ。人殺しも階上から住人たちを見ている。大野に歌を請う住人たち。陛下が歩み出、鎮めようとする。「お前たち!ダンナはプロとして歌ってらっしゃるんだ!タダで歌ってもらおうとするなんて失礼だろう!ダンナはいくらでやってるんでしたっけ?」「三曲千円。」「よし、金を集めよう!私が300円カンパする!」おお、というどよめき、そして各々取り出したお金を陛下に預ける。「集まりました、326円!」(金額が違う日あり)「足りねえじゃねえか!お前ら日銭稼いできたんだろう?」「いや、飯代は残しとかねえと…」へへへ、と笑う住人たちに、「じゃあ歌なんか聞いてる場合じゃねえな。」と呆れて立ち去ろうとする大野、しかし住人たちが縋りつく。「ただ飯食って荷をひくだけなら馬や牛と一緒だ!昼間の俺たちは動物だよ、畜生だよ!でも日が暮れて、一杯やりながら歌を聞く…その時ようやく人になれるんだ。牛や馬は歌聞かねえからな!」「ダンナ、俺たちを人間にしてくれ!」
 住人たちの悲痛な叫びに、しばしの沈黙の後、「…五木ひろしでいいか?」とギターを構える大野。わあっと歓声を上げる住人たち。五木ひろしの『暖簾』を歌う。皆じっくりと聞き入っている。階上で訝し気な顔をしていたコージもまた、歌が始まると表情が変わる。大野の歌に聞き入り、くしゃくしゃの泣き顔になっていく。歌が終わり、住人たちが熱い拍手を送る中、コージが呟く。「オキナワ…あの人、変わった人だな…」「確かに、髪型と眼鏡と顔のバランスが絶妙だな。」淡々と返すオキナワに、「そうでなくて!まだ挨拶もしてねえのに、オラのために歌ってくれた…」感無量の様子で話す。だが住人の一人が「ダンナ!俺嬉しいよぉ…俺のために歌ってくれて…」と声を上げると、驚き、納得のいかない顔をするコージ。他の住人たちも次々と「バカいえ!ダンナは俺のためだけに歌ってくれたんだよ!」「いや、俺のためだ!」「俺だけのために歌ってくれたんだよ!」と主張し争い始める。コージも手を上げて入っていこうとするが入れず。(片手を振ってみたり、両手を振りながらぴょこぴょこと跳び上がってみたり。)そのうちにもみくちゃにされる大野。オキナワも階下に降りてさりげなくその混乱に混ざりこむ。
 大野が住人たちを振り払って立ち去ると、「なんだよ、みんなしがねえ流しの歌ありがたがっちゃってよぉ。」と悪態をつくオキナワ。「いい歌だったけどなぁ…」ほわん、としゃべるコージに、「コージ!飲みに行こうぜ!」と声を掛ける。「でも、ぜんこがねぇ。」自慢げに財布を掲げるオキナワ。「それ…!」「おい、お前!財布盗んだだろ!」どかどかと怒りながら戻ってくる大野、サッと財布を隠し体を硬直させるオキナワ。大野は別の住人をスリだと勘違いして追いかけていく。軽やかに階段を上るオキナワ。「たまにはぱーっとよぉ!景気のいい店行こうぜ!」「へぇ?」戸惑うコージ。人殺しが「じゃあ、お言葉に甘えて…」とついてこようとすると、二人でそちらを振り返り、手を振ったり苦笑いをしたりしてやんわりと断る。

 

【ストリップ小屋・舞台】
 すでに照明を薄暗く落とした店内。営業終了のアナウンスにも構わず、中央に張り出すステージ脇に丸椅子を並べ、何かを待つ客の男たち。その声に応えステージへひらりと上がる小屋主。「お待たせいたしました!当店自慢の踊り子ちゃんたちと夢の60分!トゥナイトがっちりはめまショー!」盛り上がる客たち。そこへオキナワとコージがやってくる。「オキナワ、この店…?」不審げな顔をするコージを、強引に丸椅子に座らせるオキナワ。小屋主の卑猥な紹介と共に幕が上がり、ステージにエドゥアルダが登場する。凄みのある形相で客を睨みつけて回るエドゥアルダ。「エドゥアルダちゃん、笑顔っ!」小屋主に小突かれ、自己紹介と共に無理やりな笑顔でポーズを決めるエドゥアルダ。だんだんと険しくなるコージの顔。舞台上のエドゥアルダを見ないようにしながらも、興奮して手を伸ばす隣の男の腕をはたいて止める。(オキナワ、代わりに手を合わせて謝る。)コージだけが嫌悪と憤りを滲ませる中、「まずは五千円から!」エドゥアルダの競りが始まる。金額が徐々に上がっていくと、立ち上がって帰ろうとするコージ。「オキナワ…見損なったど。」「まあまあ、職業に貴賤なしって言うだろ?」「でもこんなのおかしいべ!」怒りをあらわにするコージを宥め、肩を掴んで再び着席させるオキナワ。そうこうしているうちに競りは進み、「八千円!」「他にありませんか?ありませんか?それでは、そちらの野球帽のお客様、エドゥアルダちゃん、お買い上げ~!!」野球帽の男に、蹴とばされながら共に舞台の裏へ消えていくエドゥアルダ。
 次に呼び込まれたのはテレサ。「…けえる。」舞台上のテレサを見ることもなく、再度立ち上がり、ずんずんと出口へ向かうコージ。競りが始まる。小屋主が最低額を言う前に「一万円!」と声が上がり、盛り上がる客席。オキナワに呼び止められ、憤怒の形相で振り返るコージ。舞台上に不安げに立つテレサの姿を見て表情が一変、目を丸くして驚愕し、食い入るようにテレサを見つめながら、一段ずつ階段を降りて舞台に近づく。競りは過熱して行き、タンバリンを首にかけた男が一万五千八百円をコール、他の客は悔しそうに財布を覗きながらも、それ以上の額を付けることができない。コージも頭を掻きむしり焦りの表情を浮かべるが声が出ない。「では、一万五千八百円で、こちらのお客様に決定です!」小屋主がそう告げた直後、「…一万六千!!!」一瞬静まり返る店内。皆が、叫んだコージを振り返る。「オラが、一万六千円払うべ、だから…」顔を見て、それが横丁で自分を助けようとした男だと気づくテレサ。「ではこちらのお客様に決定ということで…」小屋主が言うと、タンバリンの男は猛然と怒り出し、さらなる高値をつける。コージも負けずに「二万!!!」噛みつくように値を上げていく。(細かく額を刻もうとする男に対し、一度に数千円単位で値段を上げていくコージ。)両者睨み合い、周りの客も盛り上がり、一気に白熱する店内。客の一人がタンバリン男に「兄ちゃん、五千円くらいだったら貸すぜ!」と助け船を出すも、「三万!!!」コージの勢いは止まらない。慌てて止めに入るオキナワ。「おいコージ無理すんなって!お前そんなもってねえだろ?」それでも興奮し舞台に向かおうとするコージ。小屋主に本当に金を持っているのか疑われ、言葉に詰まるコージ。代わりに、そんな金は持っていない、と謝るオキナワ。「…ではこちらのお客様、一万五千八百円で落札でございます!」小屋主がタンバリン男の方に身を翻し、競りが決着を迎えようとしたその時。
 「貸シマス!!!」…静寂。手を上げて勢いよく叫んだ、舞台上のテレサに、ソロソロと皆の視線が向く。「…ワタシ、貸シマス、お金。」再びそう告げ、コージを見、手のひらを向けて、あなたに、と示す。テレサの不安でいっぱいだった表情が、強張った笑顔に変わる。見つめ合い、頷くコージ。舞台に片足をドン!と乗せ、手の平をめいっぱい広げて威勢よく叫ぶ。「五万!!!!!」再び静寂。客も小屋主も展開を見守る中、タンバリン男が口を開く。「…それは無理だよ~~~!そこで俺が『六万!!!』って言ってもさぁ~~、なんか違うじゃん!気持ちがそっち向いちゃってるじゃん!!」情けない声で抗議する男。テレサとコージは見つめ合い、束の間喜びの表情を浮かべる。「テレサ、それはねえよ…」と小屋主がテレサを咎め、腹を立てたタンバリン男は、「いいよいいよ!その子、金持ってないんでしょ?こうなったら嫌がらせで抱いてやるよ!」ステージ上に一万五千八百円を叩き付ける。改めてタンバリン男の落札を告げる小屋主。テレサの肩を抱き、舞台裏に連れて行くタンバリン男。コージを振り返り、後ろ髪引かれながら暗闇に姿を消すテレサ
 諦めきれない様子のコージ。金を拾うため小屋主が屈んだ隙をついて、幕の裏に駆け込んでゆく。すぐに、タンバリン男と腕を掴み合い再び舞台上に出てくる。「なんなの君は!」「堪忍してけろ!」「怒ってないから、ついてこないでよ!」「歌で、堪忍してけろ!」「歌ぁ?」「五万円ぶん歌うから、それで堪忍してけろ!」男の胸倉を掴んで嘆願するコージを、店員が二人がかりで引き摺り出そうとするが、タンバリン男がそれを止める。「いいよいいよ~!俺、聞いてみたいもん。五万円分の、う・た!」明らかに馬鹿にしている男。「歌ってみろよ、青年!!!」店員を振り切り、力のこもった形相でオキナワのもとに歩み寄るコージ。「オキナワ!…北国の春。」「…ああもう、どうなっても知らねえぞ!」
 ギターが鳴り響く。瞼を閉じ、意識を集中させるコージ。目を開き、「しらかばァ~、あおぞォらァァ、みィな~あみかァぜェ~」グッと力を込めて歌い出す。周囲の人々も息をのんで聞き入る。…が、客たちの方を振り返った瞬間、喉が詰まったように声が出せなくなるコージ。「……っ!」コージが歌えないと見るやいなや、店内の緊張が解け、「おい、連れてけ!」再びつまみ出されそうになる。コージは暴れ出し、他の客や小屋主を巻き込んでの掴み合い、殴り合いが始まる。殴られ倒れては立ち上がるコージ(相手の股間を掴んだり、腕に噛みついたりと泥くさく戦う)、援護しようとするオキナワ、その隙にタンバリン男に連れて行かれそうになるテレサ。小屋主までもが手にしているマラカスで客を蹴る殴るの大騒ぎ。舞台袖からその様子を覗いていたアイリーンが姿を現し、倒れたコージをさらに殴ろうとする男の後頭部をカバンで思い切り殴って助ける。橋本はテレサに駆け寄り、アイリーンと二人で男から奪い返し、コージとオキナワも誘導して裏へ逃げようとする。その寸前、コージは倒れていたタンバリン男の胸倉を掴み、その耳に向かって「あのふゥゥるさとへ、かえろかなァァ~!かァァァえろォかァなァァァ!!」叫ぶように歌う。なんなの!うるさいよ!と苦悶する男を床に打ち棄てて、踊り子たちとオキナワと共に裏へと姿を消すコージ。

 

【ストリップ小屋・楽屋】
 壁に耳を付け、外の騒ぎを聞いているシャオとマリアン。シャオが様子を見に行こうとドアを開けるとアイリーンが顔を覗かせ、意味ありげな笑顔を浮かべる。直後コージ、オキナワ、テレサ、橋本が部屋に雪崩れ込んでくる。アイリーン、橋本、シャオはすぐまた外の様子を見に出ていく。「ここにいれば、外よりは安全ダカラ…」テレサに言われ頷くコージ。露出の多い衣装姿のマリアンを見て、慌てて目を逸らす。「どうぞ、座ってクダサイ。」振り向いて、じっと見ていたマリアンと目が合うテレサ。「はッ!」と鼻で笑うマリアン。オキナワ、それを見て「はッ!」とマネしてコージに鼻で笑ってみせ、ためらうことなく座敷に腰掛ける。一方はにかんで部屋の端に立ったままのコージに、急いで座布団をはたいて階段に置き、どうぞ、と勧めるテレサ。おずおずとそちらへ向かうコージ。自分の分も用意されると思い立ち上がるオキナワだったが、テレサはコージのことしか見ておらず、あえなく同じ場所にまた腰を下ろす。「さっきは、アリガトウゴザイマシタ。」「ううん、オラは何も…」「お茶、飲みマスカ!」「あっ、おかまいなく…」お互いもじもじと照れ笑いしながら会話する二人。
 勢いよく楽屋のドアが開く。入ってきたのは目の周りに大きな痣を作り、衣装も破れボロボロな姿になったエドゥアルダ。「あンの、変態野球帽!!」怒りを込めて叫ぶ。「お疲レサマ~!」驚く様子もなく声を掛けるマリアン。しかしコージは目を丸くし、勢いよくエドゥアルダに駆け寄る。「大丈夫だべか!?」「ダレ!!??」思い切り不審がるエドゥアルダ。オキナワが間に入り、コージを引き離す。「オキナワ、あの人怪我してる!」「そうだな。」「救急車…救急車呼ぼう!」「呼べねえんだよ!」「なして!」「不法就労だからだよ。」「いいのいいの!よくあることダカラ!」マリアンが割って入る。「客もみんなわかってんダヨ、私たちが何も言えないッテ。わかっててやってんダヨ。」(その後エドゥアルダと手当てをするマリアンのやりとり 6/8マ「唾つけたからすぐ治ルヨ」エ「お姐さん唾ツケタノ!?痛いし汚イヨ!!」6/18エ「唾ツケタノ!?ばっかじゃネエノ!?」) 
 「わかんねぇべ…」もどかしそうにオキナワに詰め寄るコージ。踊り子たちは皆違法滞在者で、病院に行けばすぐに見つかり強制送還となってしまう。「ここにいちゃいけねえ人たちなんだよ。」オキナワの言葉に、表情が悲しく和らぐコージ。「…じゃあオラたちと一緒だな。」「一緒じゃねえよ、俺たちは合法!」「でも、どこにいても、いちゃいけないとこにいる気がしてるべ…」「…言ってる意味がわかんねえよ。」コージの言葉に苛立つオキナワ。「ワカリマス。」静かな空気の中、テレサの声が響く。「ワタシ、ワカリマス…」コージの傍へ歩み寄るテレサ。「ア…アノ、ふ~るさと、が、かえるかな、か~える~かな~」ぎこちなく、しかし伸びやかな歌声で『北国の春』を歌う。驚きながら喜ぶコージ。「その歌知ってたの?」「いえ、さっき初めて聞きマシタ。」「上手だよぉ!ちょっと違うけど。」にこにこと褒めるコージ、嬉しそうなテレサ。(6/18 コージの足をわざと爪先で踏んでみるテレサ。驚いて笑うコージ。)「違うトコロ?」「ふるさと、”が”じゃなくて、ふるさと”へ”だ。」「ふるさと、ってどういう意味?」テレサから問われ、「えっと…ふるさとは、…なんて訳したらええべ…。えへへ、わっかんねえなぁ~」と、頭を掻きながら笑って答えるコージ。今度は教えられた歌詞を、ちょっぴりコブシをつけてみたりしながら歌うテレサ。「ん、」と優しく相槌を打ちながら見守るコージ。歌い終えるとパチパチと胸の前で拍手を送る。
 和やかな空気が流れる中、「ヤメテ!その歌ヤメテ!!!」と叫ぶエドゥアルダ。驚きそちらを見遣るコージたち。楽屋のドアが開き、アイリーンが顔を出す。「ダイジョウブ~?」と尋ねると、再びドアを閉める。黙ってしまったエドゥアルダに歩み寄るテレサ。「すいません、ちょっとうるさかった、デスカ?」「ふるさとっていうのは、帰りたくても帰れない場所のこと。あんたでいうウクライナダネ。」代わりに答えるマリアン。エドゥアルダは座り込み、膝に顔を埋め震えている。コージが「でも、この曲は…」と反論しようとすると、「帰って!もう外へ出ても大丈夫デショ。」マリアンに突き放される。返す言葉もないコージ。「テレサ、あんたまだまだ稼ぐんデショ?お父さんの借金、ホンダのカブ、弟の学費、まだまだ稼いで、家族助けるんデショ?それじゃあこんな男、仕事の邪魔になるだけダヨ!」テレサも何も言い返せず俯いている。「あんたも、中途半端に優しくしないでくれるかナァ!こっちはそういう心、とっくに捨てて戦ってンダヨ!」マリアンの言葉にショックを受けるコージ。

 楽屋のセットが下がって行き、何もない暗い空間、オキナワとコージだけが立ち尽くしている。「…コージ、行くぞ。」「だども!」「わかってるよ。…帰れないからこそ、歌う歌だよな。」「ああ…」肩を落とすコージに、声を荒げるオキナワ。「お前がしっかり歌えばきっと伝わったよ!…でも、お前は歌えなかっただろ。」悔しそうにそう言い残し、コージを置いて立ち去る。悔しさ、悲しさ、虚しさを浮かべた暗い顔で、ふらふらと歩きだすコージ。スナックのセットが登場し、店のソファに崩れ落ちるように座ると、テーブルにつっぷしてしまう。

 

【スナック】
 カウンターには二人の男性客がスナックのママと話している。テーブル席には突っ伏したままのコージ。そこへ、千鳥足のオキナワがトイレから戻ってくる。「そもそもそもそもだな!しょもしょも、オメーは何がしてぇんだ?ん?しょもしょも!」(志村けんのバ〇殿のような話し方のオキナワ。酷く酔っている。)「だからぁ!オラは歌手になるんだぁ。」こちらも酔っ払い、舌足らずなコージ。ヘラヘラと笑いながら、おかわりを注文する。「あんまり飲みすぎないでね?」心配(日によって迷惑そうに)するママに注いでもらった酒をさっそく喉に流し込み、オキナワとぐだぐだと話し始める。「なれねぇよ~このままじゃ!しょもしょも!なんで歌えねぇのに歌おうとするの!」二人ともふにゃふにゃになりながら笑い合う。
 そこへ、「こんちー!」ギターを担いだ大野が、中央の階段を降りて店に入ってくる。その後ろからもう一人客が来店。「大野さん入ってくとこ見えたから。」「おっ、嬉しいこと言ってくれるねぇ。」「大野さん、こいつに一曲歌ってやってくれよ!」「あいよ!」「いい!歌なんか聞きたかねえよ!」自分の会社がうまくいかず、大企業への恨み言を呟く客と、それを励まそうとする客。そんなやりとりの中、ギターを奏で始める大野。曲は水前寺清子『いっぽんどっこの唄』。歌が始まれば聞き入る客たち。コージもうっとりした(酒のせいもあって目がかなりとろんとしている)表情でその歌を聞く。歌が進むにつれ、再び感極まって今にも泣きだしそうに顔を歪める。歌が終わると、「…まただ!…なして、オラが歌ってほしい歌がわかったんだぁ…」そう言ってふらふらと立ち上がり、大野の元へ歩み寄る。「いや、お前じゃなくてあちらのお客さんのために歌ったんだぞ?」オキナワのツッコミも届かない。
 大野の目の前に立つと、感動を伝え、「すいません、弟子になります。」と、ふにゃふにゃした口調で告げて頭を下げる。突然のことに混乱する大野。「弟子にしてくださいは言われたことあるけど、弟子になりますって、聞いたことねえよ…」「よろしくお願いします。」ヘラヘラと頼み込むコージ。「弟子はとらねえよ。」断られ、「どうしてだべかししょ~!」と大野に詰め寄ろうとするコージを、「すいませんこいつ酔っぱらってるんです~」と止めるオキナワ。「あっ!横丁の人間だろ?連れて帰れよ。」(6/18 コージの腕を掴んで「へ~い」と手を上げさせるオキナワ。されるがままの酔っ払いコージ。)しかし、「跡継ぎだよ、跡継ぎ!」客もコージの側につき、冗談半分のように大野を説得する。「ダメだ!」「なんでだべししょ~」と大野に泣きつくコージ。「俺はお前の師匠じゃない!」「ししょーだ!」「師匠じゃないと言っているだろう!」「ししょーだ!」「師匠ではない!」「ししょーだししょーだししょーだ!」「ではないではないではない!」「ししょーだって言ってるべ!!!」ヒートアップの末、大野を思い切り殴ってしまうコージ。勢いよく倒れ、「何なのお前!!」とコージの熱量に怯えて叫ぶ大野。
 ハッとして謝りながら説明しようとするコージ。「あの!オラ、北津軽郡から…じゃなくて!えっと、ばっちゃんが!…ええと…だから…。なのにだめで!今…」うまく言葉が出てこず、頭を掻きむしるコージ。「ああ…あああ…ぁああーーー!!」突如叫ぶと、階段の裏へ走り去ってしまう。驚いて固まる大野や客たちに、へら、と笑って誤魔化して、コージを連れ戻しに行くオキナワ。だが直後、コージ自ら再び飛び出してくる。そして力を込めて歌い出す。「凍えそうなカモメ見つめ泣いていました、あァ~ァァ~…津軽海峡、冬ゥ景色ィィィィ…」(石川さゆり津軽海峡冬景色』)ポカン、とする周りの人たち。さらに「何があァってももういいのォ~~」(石川さゆり天城越え』)と歌い続けるコージをオキナワが止める。「お前が歌える時と歌えない時の違いを教えてくれよ!」怒鳴るように訴えるオキナワ。「そんなのオラにもわかんね!」泣きそうになりながら怒鳴り返すコージ。
 座り込んだまま黙っていた大野が言葉を発する。「…言いたいことがうまく言葉にできなくて、やっと喉から出てきてみたら、歌になっちゃったんだろ?」「…そうです。」涙声で答えるコージ。「お前、そんなんじゃ生きづらいだろう?」「…はい。」「ただ、それは俺も同じだ。」何か、想いを巡らせる様子の大野。再び口を開く。「…給料はねえぞ!」ハッとして、顔を上げるコージ。「…はい!」「あれこれ聞かれるのは嫌いだ。質問は最低限にしろ。」「はい!」「悪いが、俺の言うことは絶対だ。」「「はい!!」」しれっと隣に立ち、一緒に返事をするオキナワ。驚いたように隣のオキナワを見るコージ。「お前も?」「俺たち、コンビでやらせてもらってますから!ししょ~~」急に態度を変えて、ゴマすり声を出すオキナワ。「…ついてこい。俺のショバ、案内するわ。」ニヒルに笑い、出口へ続く階段を上る大野。顔を見合わせて喜び、勢いよく抱き合うコージとオキナワ。コージが改めて「ししょ~!」と呼ぶと、振り返り、手で”ついてこい”と伝える大野。わぁっ、とまた顔を見合わせ、続いて階段を駆け上っていくコージ。「悪いけどつけといて!」と言うオキナワに、「今日はおごるわ!」と客も共に喜んでくれている。「ありがとよ!」二人の後を追うオキナワ。

 

【大野の”ショバ”/工事現場】
 階上に料理屋のセット。店内にはスーツ姿の三人の男女。青森の訛りが出て、慌てて標準語に直してしゃべる若い女性と、気を使ってあれこれと話をするが空回りし続ける上司の男。そしてその気遣いをことごとく無視する若い男性。かみ合っていない様子の三人を見て、こういう場合はどんな歌を歌う?と問いかける大野。「若い人たちがつまらなそうで、上司の人は形無しだぁ。」「ここは若者の好きな歌謡曲!」コージとオキナワが答えるが、大野は違うという。「あっ、流しだ。珍しいなぁ。君たちは知らないかもしれないけどね。一曲お願いしてみようか。」そう言うと、大野に声を掛ける上司。相変わらず興味のなさそうな若者たち。大野が歌い出す。曲は森進一『おふくろさん』。若い女性が、ハッとして大野を振り向く。
 「…それでどうなったんだ?」階下には工事現場のセット、作業着姿の住人二人。コージが階段を駆け下りながら、その後の様子を語り出す。若い女性に訛りがあって、下ろしたてのスーツを着ていることから、まだ故郷から上京してきたばかりなのだと思い、『おふくろさん』を選んだ。歌に感動した若い女性はゆっくりと立ち上がり、上司の男と見つめ合うと、腕を絡め、肩に頭を預け、寄り添いながら店を出ていく。「私の気持ち、わかってくれるの、係長さんだけだ!…って、二人で夜の街に消えていっただ…」股間を押さえ、ニヤニヤと笑い合うコージたち。
 そこへ買い物に出てきたテレサと橋本が通りかかる。テレサの姿を見るやいなや、嬉しそうにそわそわとし始めるコージ。テレサもコージに気付き、ゆっくりと歩み寄り二人で話し始める。(照明が当たっていない時にも小声で言葉を交わしている。)
 階上では大野とオキナワが次の店へ移動する。大人数で騒ぐ学生グループ。ごめんね、今日は客層が違って…と店員が言うように、歌を聞くような雰囲気ではないが、グループの中の一人が大野に気付いて歌をリクエストする。大野が選んだのは、ちあきなおみの『紅い花』。スポットライトがコージとテレサを照らす。「あえて、小さい声で歌うノ?」「小さい声で歌うと、みんな聞こうとして自然に静かになるんだって!」嬉しそうに会話を楽しむ二人に、橋本が水を差す。「テレサちゃん、いこ。」急かされ、名残惜しそうに立ち去るテレサ。見送るコージ。しかしテレサはすぐ引き返してきて、「また、偶然会いたいデス。」と告げる。「うん…。」と頷くコージ。今度こそ立ち去るテレサと、仲間たちの元に戻りひやかしを受けながら(それすらも嬉しそう)引き上げていくコージ。
 大野とオキナワは次の店へ。店内には個性的な動物たちを連れた男女。「うわ、くっさ!」「今はやりのペットバーってやつだな。コージ、お前なら何を歌う?」階下ではコージが現場用の上着を羽織り、ヘルメットをかぶって出てくる。「それで?お前はなんて答えたんだよ。」仲間に問われ、「ん~、よくわかんねかったぁ~」のんびりと答えるコージ。それからフェンスの前で座り込み、談笑しながらテレサが通りかかるのを待つ。(日によって隣に座る住人の腕時計(実際はつけてない)を覗き込んでみたり、身を乗り出して通りの向こうまで覗き込んでみたり。終始落ち着かずそわそわとしている。)
 そこへ再びテレサと橋本が現れる。囃し立てる仲間を「しーっ」と人差し指を唇に当てて牽制し、しかし表情からは隠し切れない喜びを零しながら、立ち上がってテレサを待つコージ。ヘルメットを脱いで腕に抱え、髪の毛をわしゃわしゃと整えたりしながらそわそわ。テレサが目の前にやってくると、また嬉しそうに二人でおしゃべりを始める。(コージ、テレサの服を指さして褒め、胸の前で小さくぱちぱち拍手をしている。)
 照明が上段のペットバーを照らす。ワニを連れた女が気になるオキナワ。「あの…噛まれてますよ?」「噛むわよ。ワニだもの!」リクエストを受け、大野が歌い出したのは、瀬川瑛子命くれない』。再びコージとテレサ。「命くれない。死ぬまで一緒って、愛の歌だべ。」「ワカッタ!ペットと、ずっと一緒?」「んだ!」笑い合う二人。大野が歌い終わり、オキナワと共に店を去る。ライトは闇の中、階下のコージたちを照らす。
 「師匠の歌は、すぐに客の心に入り込む。」「…コージは?歌わないノ?」困ったようにはにかむコージ。「…オラの歌は、のどまで出かかるけど、そっから先はなかなか出てきてくれねえんだ…」「コージの歌は、シャイ、ネ。」「?…わっかんねぇ。」照れ笑いをするコージ。するとテレサは、伸びやかな歌声で『北国の春』を歌い出す。(最初に歌った時よりずっと上手になっている。)「その歌歌って、怒られねえの?」「あれからみんな歌っテルヨ。」「そう…」嬉しそうなコージ。
 「ねえ、コージのふるさとはどんなトコロ?」ワクワクした様子で尋ねるテレサ。「オラのふるさとは……雪が、いっぱい降るよ。」(手を広げて動かし、雪が降る様子を表現するコージ。)「同ジ!ウクライナも雪、いっぱい降ルヨ。」「とーーっても寒くて!」(自分の腕を抱きしめ、凍えるマネをする。)「同ジダヨ!」「でも、」盛り上がる二人だったが、ふとふるさとを思い出したのか、しんみりと遠くを見つめるコージ。「…すごく、…いいとこだったよ。」「…同ジ、ダヨ。」少しだけ悲しそうに、微笑み合う二人。少しの沈黙。「…私のふるさとの山梨県もさあ!雪いっぱい降るよ!さむいよ~。一緒だね!!」明るく水を差す橋本。コージとテレサ、困ったように笑う。「あと、信玄餅がおいしいよ!あっ!食べる!?いつも持ち歩いてるから!」(胸元から信玄餅の包みを取り出す。)「人肌にあったまってるよ!」コージに強引に包みを渡し、食べ方を教えようとする橋本。「橋本さん、行きマショウ!」テレサに止められ、はい、と信玄餅を残して離れる。一緒に立ち去ろうとするテレサを呼び止めるコージ。「あの!…次は、その…偶然は嫌だな。ここで!待ってるから…」「…私も同じこと言おうと思ッテタ。」笑顔を交わし、信玄餅は食べないで、と耳打ちするテレサ。頷くコージ。(6/18 コージ、「どうすれば…?」と信玄餅を持て余し自らテレサに尋ねる。)二人を見送りながら、手に持った包みを遠くへ放り投げる。(気持ち良いほどに躊躇なくノールック。)

 

【スナック】
 場面は再び、コージたちが大野に弟子入りをしたスナック。ちょうど大野の歌が終わり、拍手をする客たちとコージ、オキナワ。客から代金を受け取って大野に渡すコージ。弟子らしさが板についている。階段を新しく客が降りてくる。「あ~終わっちゃったか~!」「タダ聞きすんなよ~」客も和気藹々とし、店全体が明るい雰囲気。後から来た客がリクエストをするも、「ちょっと出すもん出してくるわ!その間弟子がつなぐから。」と言い残してトイレへ行ってしまう大野。
 驚いて慌てるコージ。階段の手すりを握りしめながら客の様子をじっと見る。「コージ落ち着け、これはただのつなぎだ。」自らも緊張した様子で声を掛けるオキナワ。「大丈夫、今、あのお客さんが何を歌ってほしいか、予想してるところ!」客たちの「旭なんてどうだ?」「おっ、いいねぇ~」という話し声。「…わかったぁ!」興奮した様子で振り向くコージ。「あのお客さんたちが歌ってほしいのは、小林旭だ!」「…お前の予想を信じよう!」「『北へ』でいいか?」さっそく音合わせを始める二人。「はァ~~~!」(超高音)「高いよ!聖歌隊にでもなるつもりか!」「ハァァァ~~~!」(低くうねる声)「しゃくるな!!」そんなやりとりの間に、北野と大橋、連れの女性の三人組が来店するが、二人は気づかない。
 「いいかコージ、小さい声でもいいから、人前で歌うことに慣れろ。」コージに言って聞かせるオキナワ。頷くコージ。「へば。」小林旭の『北へ』を歌い出す。最初は落ち着いて、高音では盛り上がるように、丁寧に歌うコージ。客の拍手に、顔を見合わせて嬉しそうに笑顔を浮かべるコージとオキナワ。コージは客の方へ駆け寄り、手を差し伸べながら歌って場を盛り上げる。一番を歌い上げ、また大きな拍手をもらい、興奮した様子で喜ぶコージとオキナワ。
 しかしテーブル席に座って歌を聞いていた北野たちは拍手もせず、白けた様子。「この店の流しって、コレ?」嫌味な口調で尋ねる大橋。「いえ、いつもは…」と答えるママ。「先生の馴染みの流しがこの店にくるって聞いたから来たけど、のど自慢の若造のカラオケだった。店、間違えたみたいだわ。」「はぁ…」困惑した様子で大橋から代金を受け取るママ。立ち去ろうとする一行に、「あれ?お前大橋じゃねえか!」気づいて声を掛けるオキナワ。「呼び捨てにするな!」「ということはそっちは…北野波平だな!」どよめき、階段を上りかけていた北野に注目する客たち。おもむろにサングラスを外し、堂々と挨拶する北野。「どうも、北野、波平です!」すらすらと自己紹介の口上を始める。「先生、こいつらファンの方じゃないんで。」止めに入る大橋。「あ、そうなの?」「オキナワですよ。」「おお!オキナワかぁ!お前元気にしてたか!」「なんだよ北野のオッサン、俺らの顔忘れちまったのかよ~!」「オッサンって言うな!」苛立つ大橋。フランクなオキナワに対し、コージは北野に頭を下げた以外は、店の隅で恐縮したように身を固くしている。行きましょう、と大橋に促されて再び階段を上ろうとする北野。
 「…待ってけろ!」突然叫び、階段に駆け寄るコージ。「北野先生はどう思っただ。オラの歌、…のど自慢だと思ったか。」不安と自信の入り混じった表情で北野を見上げる。「悪い悪い、こいつは口が悪くてね。口が悪いし臭いしで困ってるんだよ。」えっ!と慌てる大橋。北野はコージに語りかける。「『名もない港に桃の花は咲けど 旅の町には安らぎはないさ』と君は歌った。情景がよ~く浮かんだよ。表現力はあるようだね。」そう評価され、コージの顔がパアッと明るくなるが、「だが、その情景の中に君の姿が見えなかった。」切り捨てるような北野の言葉に困惑の色を浮かべる。「君は誰のために歌っていたんだ。」「それはもちろん、お客さんのために!」前のめりになって答えるコージ。「ではお客さんのために歌っていたその時、君はどこにいた?」「どこ、って…」「質問の意味がわかんねえよ!」割って入るオキナワ。「では質問を変えよう。お客さんのために歌うとはどういうことかね。」「心を込めて…」胸に手を当て、自信を持ってそう答えるが、北野は笑ってあしらう。「心を込めて。よく聞く言葉だ。では今君が込めた心とは、具体的にはどんな心のことだね。」尋ねられ、答えられないコージ。「歌の景色の中には君の姿が見えなかった。客のために歌いすぎたんだ。流しの悪い癖だ。」話の途中、大野が帰ってくるが、北野の姿を見て再び姿を隠す。「君の歌の中には君がいない。以上だ。」断言する北野。誰も言い返せず、店内は静まり返る。呆然とするコージ。北野は身を翻すと、店を出るべく階段を上り始める。
 …と、思ったら再びコージたちを振り返り、「君の歌は、差出人の書いていない手紙のようだったよ。そんな手紙、気味が悪くて読む気になれやしない。君の歌の差出人は、もちろん君であるべきだ。だったら堂々と差出人に君の名前を書いて出したまえ!」階段を降りながら、演説のように語りを続ける北野。「まだ、続きますね?」諦めた様子の大橋。「客のために歌うことの何が悪いんだよ!」思わず反論するオキナワに北野は猛然と詰め寄る。「客のため?何様だ!自分の無い歌が、誰かのためになるもんか!」「でも…!自分自分じゃ、客の心はどうなるんだよ!」「客は歌い手の背中に自分を重ねる。歌い手の中に自分を見るのだ。だから歌の景色の中にはまず君が立つべきだ。歌の中に嵐が吹き荒れるならびしょ濡れになるべきは君だ。歌で大地が割れるなら奈落の底に落ちるべきは君だ。歌で誰かが死ぬのならば君が死ね!…だが、その屍を見て、客は涙を流して悲しむだろう!」北野の気迫に、誰も言葉を発することができない。「…歌は、君自身でなければいけない。今歌っている歌を否定されたら君自身が否定される、そんな歌を、歌いたまえーーー!」両腕を広げ大演説を締めくくる北野。息をのむように、黙ったままのコージたち。「…先生、そろそろ。」大橋に促される北野だが、「場を白けさせてしまったお詫びに、一曲歌わせていただこう。」そう言うと、おもむろに「ち~らし~♪寿司~な~ら~♪」軽妙に某CMソングを歌い出す。(しかもとても上機嫌。)「先生!余計、変な空気になるので…」「そうか、残念だなぁ~」渋々出口へと向かう。最後にもう一度、思い出したように振り返り、「北野、波平でした。」そう言い残して立ち去っていく。自然とママや店の客から拍手が沸き起こる。一方で悔しそうに俯くコージと、そんなコージを心配そうに見つめるオキナワ。「…俺はお前が、お前の歌を歌ってるとこ、ちゃんと見たことあるからな。」そう励ますが、打ちひしがれるコージには届いていない様子。

 

 【ストリップ小屋・楽屋】
 ラジオから流れる明るいアイドルの曲。(プラネット・ギャラクティカ『今夜はプラネット』)わいわいと談笑する踊り子たち。「最近みんな明るいネー!」ふんっ、ふんっ、と脚を高く上げながら言うマリアン。テレサが明るくなった、という話になるとすかさず手を上げるアイリーン。「ファイファイファーイ!橋本さんに聞いたんだケド、」「アイリーン!」橋本の制止も聞かず、マリアンに駆け寄って嬉しそうに続ける。「テレサ、買い物のたびにこないだの男と会ってるんダッテ~!」眉を顰めて振り返るマリアン。「青森の男なんダッテ~!」続くシャオ。「演歌歌手目指してるンダッテ~!!」エドゥアルダまで乗ってくる。あたふたするテレサ。「ミンナに言ッチャッテル!!!」「ごめ~ん…」手を合わせる橋本。「ゴメンナサイ、マリアン姐サン…」「別に、謝ることじゃないよ。」一層盛り上がる踊り子たち。(小躍りしてる。)テレサも安堵の表情を浮かべるが、「男と会うなとは言ってナイヨ。惚れるなって言ったンダヨ。」マリアンの言葉に再び表情が曇る。「…でも、テレサが好きなら、ねぇ!」励まそうとするアイリーン。「この仕事を続けるなら、あんな男、邪魔になるだけダヨ。」そう切り捨てるマリアン。気まずい沈黙が流れる。場を納めようと、エドゥアルダが陽気な調子で口を開く。「…ま、まあ、巡業もあるしネ!」箱根、名古屋…テレサたちは踊り子の一団として、各地の小屋を渡り歩いていた。「いいじゃないねぇ、遠距離恋愛で、ねぇ?」なんとかテレサの恋を応援しようとする橋本だったが、「追いかけさせるのかい?全国回って体売ってるような女、追う男なんてロクなもんじゃないネ!」とまたもやマリアンに一蹴される。「どのみち、無理な二人なんダヨ…」割り切ったような、でもどこか寂しそうな顏で呟くマリアン。
 「…マリアン姐さんは、恋したこと、ありまセンカ?」そう尋ねるテレサに、「ナイヨ!恋なんてしたことナイヨ!」背を向けて座り込んでしまうマリアン。言葉に詰まるテレサだったが、エドゥアルダはマリアンの言葉を聞くと、微笑んで話し始める。「嘘ヨ。姐さんもいっぱい恋して、いっぱい失敗したからこそ、今こうやって話してくれてるンダヨ。」胸が詰まるような表情でマリアンの背中を見つめ、「姐サン…!」駆け寄るテレサ。「私も、失敗したいデス。失敗してから考えマス。」床に崩れ落ちながら、泣きそうな声で続けるテレサ。「もう何年も、失敗できないことばっかりだったんデス…。お金のためニ、家族のためニ…。私、今失敗がしたいんです!」切実に言葉を紡ぐ。けれどマリアンは取り合わない。「話しても無駄ダネ!さあ皆、仕事の前に荷物をまとめておくんダヨ!箱根は海も温泉もあるヨ~!」テレサを無視して、明るく踊り子たちに話しかける。踊り子たちもはい、と返事をして明るく振る舞い支度を始める。エドゥアルダはテレサの肩に優しく手を置いて、ゆっくりと立ち上がらせ、慰めながらテレサを支度に誘う。そんな中何か複雑な気持ちを抱えている様子の橋本。コートを羽織ると、仲間たちを一瞥し、一人歩き出す。下がっていく楽屋のセットに代わり、みれん横丁のセットが現れる。

 

 【みれん横丁】
 住人たちがたむろする横丁の一角の階段(住人たち、「犬は、噛むなぁ…」などと話している。)、橋本は恐怖を感じながら、身を護るようにコートの前をギュッと締める。そして意を決して、住人たちに話しかける。「あのっ!」「おう、どうした姉ちゃん。」「さては殺してやりてぇほど憎んでる男がいるんだな!?それならこの人に頼めば、ひとり五万でやってくれるぞ!」「まいどあり!」勝手に話を進めていく住人たち。「ち、違います!!あの…海鹿耕治さんは、こちらにいらっしゃいますでしょうか…」「コージ!?コージは友達だよ!」「友達は、七万はもらわねえと殺せねえなぁ…」「殺してほしいわけじゃありません!!」話が進まずやきもきする橋本。そこへ横丁の奥から、頭を掻きむしりながらコージが飛び出てくる。それを追いかけて出てくるエドゥアルダ。「だからァ巡業なんだッテ!」橋本を見つけて駆け寄り、肩を揺さぶりながら問いただすコージ。「巡業ってほんとだべか!?」「だから本当だって言ってんダロ!信じてナイノ!??」声を荒げるエドゥアルダ。
 混乱し、オキナワに縋りつくコージ。「オキナワ、どうする!?」「どうするったって…あの人はヤクザの商品だ、俺たちじゃどうにもできねえんだよ。」諦め顔のオキナワになおも縋りながら、何かを閃くコージ。「連れ出そう…オキナワ、連れ出そう!」「そんなの無理だよ!」一方、予想外の場所で落ち合った橋本とエドゥアルダ。「エドゥアルダちゃんも来てたの?」「テレサがかわいそうダカラ。あの男を焚き付けに来たンダヨ!」
 コージを諦めさせようと説得するオキナワ、諦めないコージ、そこへ覗き魔が割って入る。「でもよコージ、あいつら不法就労だろ?見つかりゃ強制送還だぜ?」「覗き魔さん…」切なげに覗き魔を見つめるコージ。「しかもパスポートは小屋主が取り上げてんだ。逃げたところでパスポートが無けりゃよお…」「覗き魔さん……どうしてそんな詳しいんだべか?」「…ずっと覗いてたんだろ。」ぺろ、と舌を出して再び覗き業務に戻る覗き魔。「な?どっちに転んでもうまくいかねぇってことだ。」とコージを宥めるオキナワ。それを聞いて、エドゥアルダが苦しそうに口を開く。「…うまくいかなくたっていいンダヨ。あの子に失敗させてやりてえンダヨ。薄々だめだって気づいてることでも、飛び込ませてやりテエノ。…ねえ、一緒に失敗してあげてくれないカナァ?」コージにそう問いかける。「……オキナワ。」「だめだ。」「オキナワ!」「だめだって!」取り合わず、階段の方へ去っていくオキナワをなんとか振り向かせようとするコージ。「一人じゃどうにもなんねから、オキナワぁ!」「やっぱり出んのな、声!テレサのことになると!」呆れたように突然振り返って応じるオキナワに驚くコージ。「…あぁもう、これもデビューへの試練ってことかよ。おい、みんな集めてくれ!作戦会議だ!」意を決して声を上げるオキナワ。「オキナワぁ…!」目を潤ませるコージ。手を取り合い喜ぶエドゥアルダと橋本。「これは、大勝負だぞ!」

 

【みれん横丁・夜】
 すっかり暗くなった深夜の横丁。荷物を担いで小屋主の後に続く踊り子たちを、街灯が頼りなく照らす。「ろくでもない一座だったな。もう二度と呼ばねえよ。」「あんたも最低な小屋主だったヨ!」小屋主のぼやきに、マリアンが呟く。「まともな小屋主なんかいるのかよ…っておい、今言ったの誰だ!?」振り向いて踊り子たちに詰め寄る小屋主。サッとテレサの陰に隠れるマリアン。(6/18 隠れた上で「くされチンピラよ!」とさらに罵倒するマリアン。)「何揉めてんだよ!」ヤクザの親玉が現れ一喝すると、身を縮こまらせて頭を下げる小屋主。「なんでもありません!お疲れ様でございます、こちら、パスポートです。」手にしていたセカンドバッグを親玉に渡す。
 するとアイリーン、シャオ、橋本と目を見合わせて小さく頷くエドゥアルダ、突然芝居がかった声で話し始める。「この辺、最近痴漢が多いらしいのヨネ~~」ね~、と調子を合わせる踊り子たち。テレサとマリアンだけが、何が起こったのかわからず怪訝な顔をする。「触らせてやりゃあいいじゃねえか。」と返す親玉に、「痴漢のせいで、おまわりさんいっぱいイルノヨ~。…ワタシはビザ切れてるし!シャオなんて偽造パスポートだから見つかったら一発でアウトだヨ!!」「何が言いてえんだよ!」凄む親玉。「だから!裏道使って行きましょうよってだけのハ~ナ~シ~~~。」負けじと、額同士をくっつけるほどの超至近距離で睨み付けるエドゥアルダ。しばしの睨み合いの末、「…わかった!案内しろ。」「あっ、ハイ~!」親玉の言葉に態度を一変させ、腰が低くなるエドゥアルダ。不審がるマリアンに小声で「勝手なことしてゴメン!」と一言告げると、「こちらでごじゃいましゅー!あんよがじょうず、あんよがじょうず!」と手拍子をしながら一行を横丁の奥へと誘導する。(6/18 あんよがじょうず、に続いておにさんこちら、と歌うエドゥアルダ。)「この横丁、前にも来たことありませんでしたっけ…?」手下が気付きそうになると、シャオやアイリーンも一緒になって囃し立てながらごまかして誘導を続ける。
 と、その時、突然ライトが点き、そこにはそれぞれにプラカード、スコップや標識、武器のようなものを掲げた住人たちの姿。拡声器を持ったオキナワが階上に現れ、呆気にとられるヤクザや小屋主をよそに「反対だ!反対だ!なにもかも反対だ~!!!」と叫ぶ。それを合図に「反対!反対!」と住人たちが一斉に叫びはじめ、じりじりと一行に詰め寄る。「で、デモですかね?」「明け方二時だぞ!?」戸惑うヤクザたち。舞台手前、右側の建物の窓がそろ~っとスライドし、コージが恐る恐るデモの様子を見ている。ヤクザたちに見つかりそうになるとサッと隠れ、またそろ~っと顔を覗かせる。オキナワが拡声器に声を乗せる。「諸君!この中に部外者が紛れ込んでいる!」どよめく住人たち。「我々の意思に賛同してくださる協力者だ!ありがたく、寄付をいただこう!」そう告げると、一斉に住人たちが飛び掛かり、ヤクザたちはもみくちゃにされる。
 そのタイミングを見計らって建物から走り出るコージ、「テレサ!」名を呼び、手を伸ばす。驚くテレサ、橋本たちに守られながらコージの元へ駆け寄る。踊り子たちもコージの隠れていた建物の下、階段付近に避難する。手を取り合う二人。「テレサ!」「コージ!」「行こう。」「ドコヘ!?」「どこでもいいよ。さぁ!」テレサの手を引き、走り出そうとするコージ。「パスポート!」エドゥアルダに言われ振り返り、「オキナワ、パスポート!」大声で叫ぶコージ。「あいよ!」階上から指示を出すオキナワ、もみくちゃの団子状態の中から、セカンドバッグを抱えた小屋主が押し出され、ふらふらと前に出てくる。そこへ駆け寄ったのはマリアン。自分のバッグで小屋主を一発、二発、強烈に殴って倒し、セカンドバッグを奪い取る。歓声を上げる踊り子たち。「言ってくれればもっと上手いやり方あったヨ!!」咎めながらもバッグからパスポートを取り出し、テレサの胸に押し付けるマリアン。パスポートを受け取ると、手を握ったまま再び駆け出すコージ。舞台から降り、客席間の通路へ走り出る。
 「テレサァ!その男もダメになるぞ!」親玉の声に、足を止めるテレサ。突然止まったテレサに驚き振り向くコージ。「ジャパニーズマフィアはしつこいぞ。その男も一緒にダメになる。それでもいいのか、ウクライナァ!!!」顔から血の気が引いたようなテレサ。「…っ、行こう!」再びテレサの手を取って駆けだそうとするコージ。しかし、テレサはその手を振りほどく。「…やっぱり行ケナイ。」「えぇ…?」何が起きたのかわからない、そんな表情でテレサを見つめるコージ。「テレサ、自分の意思で戻ってこい。そしたら許してやる。」親玉の言葉に、グッと気持ちを飲みこみ、苦しい苦しい表情を浮かべ、ゆっくりと身を翻すテレサ。ゆっくりと一歩ずつ、ヤクザたちの方へ歩き出す。「テレサ、なして!!」コージの声に足を止め、静かに答えるテレサ。「……家族、大事ダカラ。まだまだ、お金稼がなきゃいけないカラ。」「仕事なら他にあるべ!」「コージも大事、ダカラ…」「オラのことはいいから。テレサはどうしたいんだべ!」「…私が我慢するのが一番、コージ大事にできるみたい、ダカラ…」そう告げて、また歩き出すテレサ。「テレサ、だめダヨ!!!」エドゥアルダたちの呼びかけもテレサを止めることはできない。手を伸ばし、名前を呼び、それでも自ら背を向けたテレサをそれ以上追うことのできないコージ。頭を抱え、苦しみ、もがく。舞台上ではテレサが親玉の目の前まで来て、しかしそこから進むことを躊躇っている。「さあ、もうちょっと、もうちょっとだテレサ。」呼び寄せようとする小屋主。痺れを切らした親玉が「テレサァ!」と叫ぶ。「あああああ!!!」言葉にならないコージの絶叫、たまらずオキナワが「コージ、全部吐き出しちまえ!!」そう呼びかける。次の瞬間。
 「生まァれる…まえェかァらァ…結ゥばれていたァァ…」コージの想いが歌になって飛び出す。『命くれない』…テレサの動きが止まる。「あなたァ…お前…夫婦みィちィ…!」胸に手を当て、テレサに手を伸ばし、歌い続けるコージ。「いィィのちくれェェなァいィィ…いのち、くれなァい…ふゥたァァりィ連れェェェェ…」テレサだけを見つめるコージ。コージを見つめるテレサ。周りのすべてが二人を見つめる。親玉の方に向き直るテレサ。その表情は晴れやか。静かに頭を下げ、(他の日には敬礼や、スカートの裾をつまんで膝を曲げ、)くるりと身を翻しコージの元へ駆けてゆく。コージもまたテレサに駆け寄り、腕を広げてその体を受け止める。仲間たちの歓声に包まれ抱き合う二人。「そうはいくかよ!」殴りかかる手下たち、再び始まる乱闘、なんとかテレサの手を掴み、舞台後方へと逃げるコージ。ヤクザたちが飛び掛かろうとしたその時、コージ、テレサ、踊り子たち、住人たちが一斉に歌い出す。「人目を忍んで隠れて泣いた…そんな日もある傷もある…」皆の歌声が、気迫が、徐々にヤクザたちと小屋主を舞台手前へと追い込んでいく。コージはしっかりとテレサの手を握っている。「命くれェェなァいィィ、命、くれなァいィィ…!ふたァり連れェェェ…!」ついに舞台から転げ落ちる男たち。「今のうちに!」顔を見合わせて頷くと、通路へ降りて走り去るコージとテレサ、後を追うオキナワ。「アディオス、テレサ!」エドゥアルダが祝福を送る。手下たちも急いで追いかけようとするが、「もういいデショ!」マリアンの叫びがそれを止める。「…テレサの分まで私たちが稼ぐからさ。」親玉が手下を呼び戻す。マリアンの言葉に応じるように、覚悟を決めて(諦めのようにも見える)笑うエドゥアルダ、不安そうな表情を浮かべるアイリーン…踊り子たちもそれぞれの思いを持って再び歩き出す。「…二人とも、幸せになんなきゃ、嘘ダカラネ!」コージたちの走り去った先を見つめながら呟くマリアン。その背を足蹴にする親玉。『命くれない』の終わりの伴奏が流れ、幕が下りる。