やすばすく

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すごい人

錦戸亮さんお誕生日おめでとうございます!

ここ数年、個人的に、ぐいぐいと、錦戸さんに対する「すごいなあ」の気持ちが、具体的な事象に向くようになってきたことを、感じています。前はもっと漠然と、「亮ちゃんってすごいなあ」って思ってた。素晴らしい演技ができて、かっこいい曲が作れて、二つのグループで並行して活動をして、すごいなあって。

それがもうここ数年は、「この歌詞の運び方痺れる!」「メンバーの魅力の引き出し方とそこに篭って零れる愛情!」「台詞の合間に眉をピクリと動かす一動作によって心の内が伝わってくるその演技力!いや演技と呼ぶのも躊躇われるほどの自然さ!」「遠慮とボディタッチのスイッチングの激しさ!」等々、ピンポイントですごい!亮ちゃんすごい!これもすごい!あれもすごい!って感嘆しきりです。

ひとつひとつのことに、みなぎるパワーを感じる、こう…元来のセンスとバランス感覚とがっしりとついてきた体力が同時に弾けてあっちこっちで爆発してる!みたいな、銀河の活動のようなイメージを持ってます。話が大きくなりすぎました。

 

亮ちゃんプレイリストを作っていたら、どんどん新しいことに挑戦して切り開いているイメージを持っていたのに、実はブレがないんだなあっていうことを感じました。好みの音色、とかそういうのが出るのかもしれないけれど、おしゃれでかっこよくて、でもどこか切なくて、誰かを見つめているようでいて自分と向き合っている、そんな主人公が亮ちゃん自身のイメージと重なって、より曲に引き込まれていくんだと思います。

ユニット曲ではそのメンバーとだからこそできること、を、最も突き詰めているのが亮ちゃんとすばるさんだと思っています。そしてそれがどの曲においても的確。ファンの求めるもの、欲しがってる方向性をドンピシャで突いて、さらにその上を行くプロデュース能力。100万のお星さまを叩きつけたい。関ジャニ∞の物語、錦戸亮の物語、(それがフィクションかノンフィクションかはわからないけれど)(ということを明確に提示しないところもまた痺れます)それを楽曲に織り交ぜる塩梅も絶妙。いち楽曲としてもかっこいいし、ファンとしての目線で見てもまた楽しい。曲作りにおけるエンタメ的なセンス、というとヤスくんや横山さんを思い浮かべていましたが、亮ちゃんのエンタメ総合力、えげつないでしかし!ってもうそれくらい惚れ惚れしてます。Tokyoholicをありがとう。本当にありがとう。関ジャニ∞がこういう曲を歌う日を待っていた。

 

天は二物を与えずと言いますが、二物も三物も、582物くらい与えてんじゃないかなっていう錦戸さんですけれども、与えられてないもの、の部分すら魅力になっているんですよね。「上手な食レポ能力」とか「上手な曲紹介」とか「成犬感」とか…いやそれは後天的なものか。むしろそれも与えられているものなのか。いやいや、そもそも、与えられている、というだけで済ませたくないなって思うのは、「天才」でも「秀才」でもないジャンルに錦戸さんがいるなあって感じるからかもしれません。(と言いながら口癖のように「天才かよ!」って言ってますけども…)手に入れたいものを手に入れる力、手に入れるために何をすればいいか、と、手に入れた後どうするか、そういうところまで頭と感覚が回る亮ちゃん、やっぱり、天才っていうか秀才っていうか、すごい人。

 

表にばばーん!と立つ姿も、クリエイティブとプロデュースの面でワクワクドキドキするものを提供してくれることも、これからも心から期待して楽しみにしています。

すごいぜ、錦戸亮

お誕生日、おめでとうございます!

かわいい

すばるさん、36歳のお誕生日おめでとうございます。

エイターテイメントジャムツアーでは、渋谷さんの左斜め下のアングル流し目にひたすらヒイヒイでした。伝家の宝刀…狙い定めて、自分の意思で、刀を抜かれるようになられた渋谷さんというそういうことをマルっと含めてもうひたすらヒイヒイです。キメ顔の後恥ずかしそうにはにかむのが最高に可愛いです。可愛いです。ヤスくんが、渋谷さんのことを、どこか「かわいいひと」と思う感じ、なんとなくですがわかるような気がします。もちろんかわいいという言葉だけで形容できるわけではありませんが、なんだか、かわいいし、かわいいなあ、ってにこにこ見ていることに、こちらもナチュラルでいられるような、そんな近年です。

 

まっすぐな楽曲、すばるさんの作る曲にはいつもそういう印象があって、さらっと聞くのが難しい。それは、すばるさんの曲や詞が、強いメッセージを含んでいて、聞いているこちらも、そのたびに何かしらを考えざるをえないからだと、そう思っていました。でもなんか本当私は見誤っていたなというか誤解していたなというか、それに気がついたのもジャムツアーでのこと。オーラス、福岡、9月10日の「生きろ」でのこと。

その日までに二度、公演に入って演奏を聴いていたし、曲自体は何度も聞いていたのに、あのオーラスの「生きろ」を聞いていたら、染み出るように涙が出てきました。

強いメッセージ、心を揺さぶるメッセージ…そんな先入観をとっぱらって、関ジャニ∞の奏でる「生きろ」に包まれたら、なんというか…私は私のままで感じればいいし、そうやって音楽を聞けばいいし、曲の持つ詞の持つメッセージに揺さぶられて、動き出してもいいし、立ち止まったままでもいい。勝手に、自分で自分に、何かを感じ取らなければいけない、とか、そういう鎖を巻いていたんだということに気づいて、いつからそうだったのか、知れないけれど、ようやっと自分の手でその鎖を外せた、ように思いました。あなたのままで聞けばいい。きっとずっと、そうだったのにね。

そうやって、私のままで聞いた「生きろ」は、私の中にあるいろんな感情を手のひらで掬い上げてくれるみたいな感覚がしました。とても大好きな曲になりました。すばるさん、ありがとう。

 

細い体躯に大きな瞳で力強く歌う、そんな渋谷さんはずっと、なにか伝説の生き物のような風に感じていたけれど、今でもきっとそんな感じ方もするけれど、冒頭で書いたような感じ方もできるようになってきたのは、あなたが見せてくれる「人間くささ」が、物語の中の人間くささじゃなくて、もっと、日常的で、そういうの、惜しげもなくというか、当たり前のように、ぽん、と隣に置いてくれるようなその感じ、その感じがあるからだと思います。(ち、ちっとも日本語にできない…!!!)

 

関ジャムのとあるセッションについて、ヤスがハモりで入ってきてくれたとき安心した、と語ったすばるさんに、ありあまる感慨が爆発しました。二人の間にある、信頼、絆、二人だけにしか通じない感覚、面白さと愛おしさ。お互いに、才能だけじゃなく、まるっと、まるまるっと「かわいい生き物」と思い合っているその、やすばを、やすばはもうきっとどこにもいかないしどこにも消えないし、そう思わせていてくれてありがとうって思います…形にこだわりすぎるワタシタチを、形から解放して、それでも今でも、むしろ今の方が、自然にある形にならないものを自然に感じられて、嬉しいので、どうしてくださいこうしてくださいなんてことはないので、そっと感じさせて、そっと見続けさせてもらえればいいなあって思ってます。やすばが大好きっていう話をしています。

 

その一歩一歩が力強く、だけど重々しいだけでない軽やかさすら感じさせて、その肩の力の抜け加減、関ジャニ∞のこれからに希望を見ながらも、凝り固まらずにいられるし、逆に緩みすぎずにもいられるのはそういう風に渋谷さんがいてくれるから。かわいいひとで、すごい人間。やっぱり、人間で、そうして伝説の生き物でもいいのかもしれない。

お体に気を付けて。お誕生日、おめでとうございます。

13

関ジャニ∞ 全国デビュー13周年、おめでとうございます!

今、テレビやラジオや雑誌で、毎日のように関ジャニ∞の姿を感じられること、ライブに行って心から楽しい時間を過ごせること、本当に幸せに思っています。ありがとう。

 

この一年、職場の人から「関ジャムおもしろいね!」と言ってもらえることが多くなってきました。番組の内容も面白いし、関ジャニ∞とのセッションもいい、と、毎週のように伝えてくれる方もいます。私は「ありがとうございます」と答えて、とても誇らしい気持ちになります。私も関ジャムを楽しんでいるし、そして、関ジャニ∞はとてもかっこよくて、魅力の溢れるグループだと思うからです。

2年前までは、メンバー何人かしか知らない、とか、一つのツアーで複数公演入ることに(もしくは遠征をすることに)驚かれるとか、「そんな高い理想持ってないでさっさと彼氏作りなよ」と言われたりとか(実際の、好みのタイプの話なんてまったくしていないのにね!)、あとは事務所全体のゴシップ的なものが騒がれているとそれについて聞かれるとか、そんなことが多かったように思います。(かっこいいよね!とか、あの曲が好き!と言ってくれるかたももちろん少なからずいました。)

私は、ファンとして、CDやDVDや雑誌を買って、聞いたり見たり読んだりして楽しんだり、あとはライブや舞台に行ったり、好き!という気持ちをツイッターやブログに書いたり、同じファンの人たちとそういう気持ちを共有したり、そんな風に過ごしていて、職場の人みたいな、ファンの”外”の人たちに対して、何か積極的な働きかけをしていたわけではなくて。ただ、関ジャニ∞にマイナスなイメージを持たれないように、過ごそうと思ったり、例えばライブのために休みをとる分、仕事を早めに多めにやったりとかその程度で。だから、本当に、本当に自分たちの力で、ファン”外”の人たち、お茶の間、の認識をそういった風に変えてきた、そんな関ジャニ∞がかっこよくて、誇らしいな(というのはなんか偉そうですが)と思ったのです。

 

日常に、関ジャニ∞があって、楽しい時の喜びを倍増させてくれて、苦しい時、しんどい時、その重みを和らげてくれています。アイドルの、発信するものが、自分の全てを救ってくれる、と、苦しみを全て無くしてくれる、と、そうは思っていません。発信してくれるものを、受信して、どんな形で自分の中に置くのか、それは自分次第であって、だから私は、関ジャニ∞を好きだ、という気持ちを、お薬みたいに使っている今です。好き、という気持ちが、どれほど自分にとって大事なものなのか、痛感しているから、その気持ちを、心の大事なところに置いておきたいなと思います。その存在に、ジェネリック、は、ないんだよなあ。

 

関ジャニ∞の皆さんが、これから健康で、楽しく、実りある日々を過ごせることを祈っています。そして、これからの関ジャニ∞も、楽しみにしています!

いつもありがとう!だいすきです!

幸せの青い鳥

安田章大さん、33歳のお誕生日おめでとうございます!

いつもたくさんの幸せをありがとう。

昨日、福岡で、数年ぶりに作ったうちわに、32年間のヤスくんへの感謝を書いて、それで、その気持ちがああ、本当にそうなんだよ、今まで生きてきたヤスくんにありがとうなんだよ、と、そういう思いでうちわを抱いてライブを見られたことに、とっても嬉しくなりました。私にとっての昨日の9月10日というのはとても幸せな気持ちをくれる記号でした。

いつも、ヤスくんのウインクひとつで、投げキスひとつで、いとも簡単に撃ち抜かれてしまう私は、今回のツアーこそは気を確かに持つのだ、と密かに思って向かったのですが、やっぱりいとも簡単に撃ち落とされていたので、もうこれからは、膝は砕けるものなんだって思って諦めようと思います。

だって、かっこいいんだもの。ヤスくんは、最高にかっこいいんだもの!目には見えないけど、あのウインクは、投げキッスは、舌なめずりは、実弾だよ!撃たれれば撃たれるほど胸に花が咲く実弾だよ!ハピネスハピネスハッピネス!

気持ちよさそうにギターを奏でる姿に嬉しくなるし、細胞総動員で表現をしようと動く体に、見惚れるし、吸い込まれるし、笑顔も、涙も、驚いた表情も、挑発するよな表情も、あったか~いもつめた~いも、激しいも穏やかも、ライブの最中だとか、思い出している最中だとか、そういうたくさんのヤスくんに、好きっ!好きっ!って、ぽっぽぽっぽと花が開く、これまた花が咲くんですよ、これがまた。これがいわゆる「自担に似る」ということなんでしょうかね。違うでしょうかね。違うでしょうね。

似てる、んじゃなくて、似てない、から惹かれるんだなあと思います。ヤスくんのことは、ファンになって何年目だろう、いまだに、というかますますとわからないです。ヤスくんの脳をぱっかりと割って見てみても、きっと私には何もわからないし、でもそこに広がる宇宙は見たこともない世界で、そう思うからヤスくんをずっと見ていたいと思うんだと、思います。

かと思えば、例えば「ヤス何言ってるの(笑)」という場面にはヤスくんの言わんとすることがすんなりとわかった(という感覚になった)り、ものすごく各々で解釈をして、受け止めようとするそれは、似てるとかじゃなくて安田担の慣習でしょうかね。それは誰担さんでも一緒なことか。でも、ヤスくんが表現しようとしていることが、伝わらずに切り捨てられたりしているのは、とてももどかしいからやっぱり、「わかる、わかるよ!伝わってるよ!」って、したくなるんです。よ、ね~。

 

舞台『俺節』、毎公演毎公演、その時間のすべて、海驢耕治の命を全うする姿に、何度でもどれだけでも心を揺さぶられました。コージの命を見て、コージの歌を聞いて、それでも思い返してみれば、安田章大の体を通って出てくる歌が、震わせる空間に居られたことを幸せに感じていました。大千穐楽で、袖からひょこっと出てきて、張り上げた声で安田章大の言葉を聞かせてくれた時に、とてもホッとしたのを覚えています。コージとヤスくん、コージを見ているつもりでヤスくんが混じり合っていたのかもしれない、でもなんだか、やっぱり舞台の上のヤスくんはコージだったんだな…とそんな風に感じていたから。あそこで安田章大を見せてくれたことは、お客さん、としてではなくてファンとしてありがたいことでした。

何書いてるのかわからなくなってきた…っていうのは毎年書くのでもう割愛してもいいような気がしますがやっぱり今年もわからなくなってきたので書いときます。迷走しないと気が済まないらしい。

 

俺節俺節でね、初めてヤスくんにファンレターを書きましたよ。舞台のことだけを、なるべく簡潔に、丁寧に、おかしくならないように…。観劇のたびにおてがみBOXに手紙を入れる、あの瞬間の緊張ったら。下書きをして、字を間違えるたびに便箋をぐしゃぐしゃと丸めて、何度も書き直して、たくさんの「安田章大さま」宛の手紙の中に自分の手紙を紛れ込ませるのがもう、ドキドキで、ああ出してしまった、おかしなことは書いていないだろうか、字は綺麗に書けただろうか、って毎度後悔みたいな高揚してた。届いたか届いてないか、目に入ったのかどうかはわからないけど、思いを伝え(ようとす)るというのもいいもんだな、なんて思ったりもしました。俺節がもたらしてくれたものの番外編でした。

 

そう、そうそう。俺節ではヤスくんの体を通って放たれる歌声が震わせる空間にいることが幸せと感じたように、ライブの時にはヤスくんの弾いたギターに震える空気に肌が触れることがそれだなとあらためて思いました。なんだか思い込みの激しい人みたい。私が。実際そうなのでしかたがない。

 

今は、ヤスくんの作曲した曲をプレイリストにして、聞きながらこれを書いています。ヤスくんプレイリスト、名づけてYASUDISC(センス)を作りたいなあと前々から思っていて、いや、プレイリストにするはするんですけど毎年、あまりにも曲の色も質感も幅が広すぎて、うまいこと順番にしてまとまりのあるものにしようってしたら難しすぎて、また今年も挫折ののち、ソロとか共作相手とかでまとめて並べたんですけれど、まあほんとうにテーマパーク。あちこちのぞく世界がどこもかしこも魅力的で、楽しくて。

初めて聞いた時にはびっくりすることも多いのです。一度では受け止めきれず、びっくり高揚するうちに曲が終わってしまって、聞けば聞くほどはまっていってしまうのです。これもまた、わかりきることなんてできない安田章大の宇宙!でもそこには論理的な何かが隠されているのかもしれない!わからないけど!そこにミックスされる、感覚的なものの配分が、安田章大の宇宙!

これからも非常に楽しみにしています。「義務になったらもうやめたほうがいい」という言葉が頼もしいです。宇宙の片鱗を、これからも存分に見せつけてほしいです。

それと同時に、ヤスくんの歌唱もいつだっていつだって大注目していますよ!曲の中の歌声をはじめとする様々な表現…と話しはじめればまた長くなってしまうのですが…今回は…端的にいえば…わたし鏡やアイスクリームの歌い出しに、今でも胸が高鳴り、鼓動が揺れるように、「ん~まっ♡」に関してはこの先もきっとずっと、腰を砕かれ続けるんだろうなって思ったということです。いつでも開いてときめきの湧き出す宝箱をいただいた、そんな心持ちで御座います。

 

音楽番組で初めて、『今』を歌うヤスくんを見て、ああ、幸せの青い鳥だ!と思いました。ファンとアイドル。関係性を問われて、ファンとアイドル。それ以上でも以下でもないと説明してしまえばそれまでだけど、でも、青い鳥、という表現は私にとってとてもしっくりとくるものでした。ヤスくんの姿を見たり、ヤスくんの生み出したものに触れて、色んな感覚や感情が生まれます。そんな中で、そのすべてがすべて、綺麗で温かなものだとは限らないにしても、やっぱりそこで、ああ、これって、幸せだ、ということに気がつくんです。

辛い時、苦しい時、悲しい時、ヤスくんの笑顔に元気をもらいます。楽しい時、嬉しい時、そこにヤスくんが関わっているともっともっと高揚した気持ちになります。すぐに卑屈で否定的になってしまう私にとって、それはとてもとても、とても大きな力です。だから、そんな風に、思ったり、感じたり、気づかせたり、してくれるヤスくんに、いつもたくさん、たくさんたくさん感謝しています。

 

あんまりいろんなことを願っても神様…的な…ところに届かないかもしれないので、今年はとにかく、ヤスくんが健康でありますようにってお願いしています。痛いとか、身体が辛いとか、そういうのが少しでも少なくありますように…!

ヤスくん、お誕生日おめでとうございます!大好きです!

俺節 二幕

二幕

 

 

【盆踊り・アパート】

 楽し気な太鼓と鉦、手拍子の音。「そ~れっ!」の掛け声と共に幕が上がり、櫓の上には和太鼓、その手前のステージにはコージとオキナワ、周りをぐるりと囲み踊る浴衣姿の人たち。にこにこしながらコージが歌うのは『ドンパン節』。皆盆踊りを楽しんでいる。曲が終わり、ありがとうございました!の言葉と共に謝礼を受け取るオキナワとコージ。ほくほくと笑顔を浮かべ、中身を数えてはしゃいでいるところへ大野がやってくる。「ししょー!」「お疲れ様です!」嬉しそうに頭を下げるコージ。手を伸ばし謝礼を催促する大野に、とぼけてみせるオキナワだが、「俺の紹介した仕事だろうが。」と言われてしぶしぶ封筒を渡す。中身を取り出し数える大野をハラハラと見つめていたオキナワ、大野の取り分を抜いて返された封筒の中身を見て、悔しそうな様子。そんなオキナワを慰めるように笑いかけるコージ。大野が立ち去ると慌てて追いかけようとするオキナワ。「どした?」「いや、次のコンテストの話だよ…!」じゃあ別のコンテストに出ればいい!とのんびりしているコージに対し、オキナワは焦っていた。次のコンテストは優勝すればデビューできる。もしデビューできるようになって、それから師匠に報告するのは居心地が悪い。だから先に出場することを決めて、師匠に報告したいと思っていた。「…デビューしたからって、流しより偉いってことにはならねえべ。」「なるよ!」

 

 「…そんな焦るなよぉ。流しでも風呂付のアパートに住めるよ。」軽やかな足取りで歩き出すコージ。「テレビもエアコンもないけど、」鍵を投げてよこすオキナワ。おっと、と鍵を受け取り、アパートに向かうコージ。ドアを開けようとするとちょうど中からテレサが出てくる。満面の笑みを浮かべ、「素敵な人もちゃあんといる。」不思議そうにしながらもコージにつられて笑顔になるテレサ。「おかえりコージ。」「ただいまぁ。どこかでかけるの?」部屋があまりに暑くて、換気のためにドアを開けたというテレサ。首にはタオル、手にはうちわ。踊り子の頃とは違った生活感が滲み出ている。「オキナワ、エクスプラーゼ!」「エクスプラーゼ!」母国語で挨拶する陽気な二人。「お疲れ様、肩でも揉もうか?」「いや、テレサだって疲れてるから…」労いながらテレサの肩を揉むコージ。(5/30は肩揉みなかったかも)仕事の話をされた途端、うんざりした表情で話しだすテレサ。「今日も九時間ピクルスピクルス…サンドウィッチにピクルスピクルスをピクルス…」ノイローゼのように繰り返す。ピクルスのにおいしない?と気にして自分の髪の毛をコージに嗅がせたり、そうこうしている間にハッと何かをひらめいた様子。一旦アパートの中に入っていく。顔を見合わせるコージとオキナワ。(ピクルスアドリブ部分 5/30ピクルス連呼するのみ。 6/1ピクルスのにおい…と自分の髪のにおいを嗅ぎうんざりするテレサ。部屋に入るとコージ「オラ、ピクルスついてる?」と気にしてオキナワに尋ねる。 6/8「ちょっと嗅いでミテ。」とコージに自分の髪のにおいを嗅がせるテレサ。コージ、嗅いでみて「…ピクルスぅ?」と笑う。 6/10髪の毛嗅いだ後、テレサが部屋に入ると「イチャイチャしてるぅ。」と嬉しそうにオキナワに報告するコージ。 6/18髪の毛嗅いだ後「ピクルス?…でも好きだよ。」と伝えると照れたテレサに叩かれるコージ。部屋に入った後「叩かれたぁ…」ちょっと困り顔でニヤける。 6/30「ピクルスピクルス…でも明日は休み!」うきうきと部屋に入るテレサ、「明日休みだから浮かれてる。」とテレサ(の入ったドア)を指さしオキナワににこにこ報告するコージ。)

 

 すぐにまたドアが開き、後ろ手に缶ビールを隠し持ったテレサが現れる。鼻唄なんて歌いながらもったいぶってコージを見つめ、微笑み返すコージに、じゃーん、と二本のビールを見せる。喜ぶコージに一本を手渡す。オキナワも「ちょうど飲みたかったんだよビール…」と手を伸ばすももう一本はテレサの手の中、二人は顔を見合わせプルタブを引く。「かんぺ~!」と缶を軽く合わせてゴクゴクと飲む。「俺の分はないですよね~…」といじけるオキナワに気づき、慌てて「オキナワも、飲むか?」と自分のビールを渡そうとするテレサ。「いいよいいよ!俺は外で飲んでくるからよ…」と断るオキナワに、今度はコージがビールを差し出し、「オラたちは、二人で一本でいいすぃ~」とテレサと顔を寄せ合いデレデレと笑う。「…いただくよ!」半ばやけくそでコージの手から缶を受け取るオキナワ。一方の二人は、テレサが手にしているビールを「お先にドウゾ。」とコージに差し出すが、理由をつけてコージはテレサに先に譲ろうとする。(5/30「テレサが飲んでるとこが見てぇなあ…」 6/1(かしこまった言葉遣いでビールを勧めるテレサに)「テレサかたいよ?」 6/8(テレサ「暑かったでしょ、コージがお先にどうぞ。」を受けて)「暑くてもテレサがどうぞ!」 6/10「飲んでるテレサを見てみたいの。」 6/18、30も、飲んでるテレサが見たい、という内容。6/18はビールを譲り合う中で手が触れ合ってしまい、「手ぇ、触ってるね。」と嬉しそうに言うコージ。)

 そんな二人を眺めていたオキナワ、「…やっぱ俺外で飲むわ。」と身を翻そうとする。「なしてさぁ!」引き留めようとするコージの肩を抱き、「俺がいたら乳くりマンボが踊れねえだろうよ!」と小声で囁くオキナワの言葉に慌てるコージ。「まだテレサとパツイチ決めてねえんだろ、この童貞野郎が!」そうけしかけるオキナワだったが、コージは「おっ、オラ、しょんべん!」と股間を押さえて部屋の中へ逃げ込む。ドアを閉める前にへへ、とオキナワへ笑顔を向けるコージ。話を遮られ不服そうなオキナワ。

 

 そんな二人を見て、「……喧嘩か?」神妙な面持ちで声を掛けるテレサ。なんでもない、と話を切り上げようとするオキナワだったが、「…コージ、歌に集中できてナイネ。私でもワカル。」というテレサの言葉を受けて、「それも問題だけどよ。」とコンテストのチラシを見せる。次のコンテストは優勝すればデビューができること。でもコージは出なくてもいいと言っていること。「焦んなよ、だってさ。…焦って必死こいて走ってよぉ、それでやっと世間の皆様と同じペースで生きていけるのかと思ってたけどよ、俺たちは。」表情が翳るオキナワに、「…読メナイ。」チラシを返すテレサ。苦笑いのオキナワ、『みれん横丁のテーマ』を弾き語る。「ど~かたしご~とでひが~く~れて~…」その歌声を聞き、「それ、いい歌だネ。」と声をかけるテレサ。「おっ!嬉しいねえ!俺の作った曲なんだ。しょ~んべ~んの…」再び歌い出そうとするオキナワを止め、「オキナワ、曲作れるの!?」と驚く。「今さらかよ!…コージにもよ、作ってやりてえんだよ。でも無名の流しがオリジナルやったってよぉ…」しょんぼりするオキナワ。

 そこへコージが戻ってくる。「いんや~しょんべん飛び散ってしまったぁ!」ヘラヘラと笑いながらズボンを直すコージに、テレサがチラシを差し出す。「コージ、次のコンテスト出て。賞金とデビュー、両方もってオイデ!」姐さん女房さながらのテレサの迫力に、気圧されながら話すコージ。「オラは出たくねえなんて言ってねえよ?オキナワが…」「お前だよ!…まあ、お前が出るっていうんなら師匠には今度でもいいよ。」「はぁ~~い」「はぁ~いって軽いな!」コージの気の抜けた、子供のような返事に呆れ顔のオキナワ。一方チラシに目を落としたコージは、「…あれ?これ、アイドルの人も出る見たいだよぉ。」とテレサに呼びかけ、一緒に覗き込む。「スペシャルゲスト…寺泊行代?」コージの手からチラシを取り上げ、立ち去るオキナワ。テレサと顔を見合わせ、肩をすくめるコージ。
 ドアを開け、どうぞ、とジェスチャーテレサを先に入れるコージ。優しいジェントルマン。コージが部屋に入りドアを閉めるのと入れ替わりに、舞台上にはフリフリの衣装を来た寺泊行代が駆けだしてくる。

 

【コンテスト】

 ポニーテールにスポーティーな白いミニスカート衣装のバックダンサーを従え、現役アイドルさながら、可愛らしく『デリケートに好きして』を歌い踊る行代。歌い終わると司会者の案内で階上の審査員席へ向かう。続けてコンテストの審査員の紹介。市議会議員の悪巧、音楽プロデューサーの戌亥、漫画家のマンボ(多分)が順に一言自己紹介をする。(アドリブが多い。悪巧「好きな色はワイロです」「びっくりするくらい金持ってます」、戌亥「どーもー、鈴木雅之です」「どーもー、THE ALFEEの桜井です」それを受けてマンボ「THE ALFEEの高見沢です」等々…)最後に紹介されるのは行代。「あの伝説のアイドルが、満を持してこの、スーツの青山駐車場特設ステージに舞い降りました!当時は、十七歳でしたっけね?」「…う~ん?」ぶりっこのように首を傾げる。「寺泊行代ちゃん、三十九歳で~す!」「よろしくおねがいしま~す!」

 

 紹介が終わると、呼び込みと同時(より食い気味)にステージにずんずん現れるコージとオキナワ。表情が固く、緊張した面持ち。司会者がコージにマイクを向ける。「演歌では珍しい二人組です。では、意気込みを…」「津軽からきました、お」「おっとここでお時間のようです!」勢いよく話し出すが遮られ、肩透かしを食らったような顔のコージ。「今日はどんな曲を?」「十九の春を、バタヤン調で!」オキナワがぐいっと前に出て、ギターをアピールしながら答える。「それでは歌っていただきましょう!どうぞ!」

 互いに目を合わせ、頷き、オキナワがギターを弾き始める。コージも目を閉じて歌に入り込む。「あたすがァ、あなたァにィ、惚れェたァのはァ~、ちょおどォ、ずうくんのォ、春でェしたァ~…いまさらァ、りえんとォォ、言うなァァらばァァ、もとォのォ、ずうくゥにィ、しておおくれェェ~…」(『十九の春』)

 ジャンッ!とギターでキメて、バッ!と同時に審査員席を振り返るコージとオキナワ。司会者が優勝者の名を告げる。「優勝は、地元の高校生、ヨシコちゃんで~す!」ダブルピースで元気に現れるヨシコ。どう見てもヤンキー。両手に賞金と、デビューの証、金のレコードを抱えている。階上から手を振り、「あそこらへんにいるの、全部地元のダチっす!」と嬉しそう。「ではヨシコちゃんに今の気持ちを聞いてみたいと思います!」「サンキューっす。このあとうまいチューハイ飲めそうっす。」「こ、高校生らしい可愛らしいコメントでしたね!」慌てる司会者からマイクを奪い取り、審査員席に向かって身を乗り出すヨシコ。「おい!お前!…初めて父親らしいことしたじゃねえか。」しーっ、と人差し指を立てて慌てる悪巧。「厳正なる審査にて優勝したヨシコちゃんに盛大な拍手を~!」「お前ら!この後つぼ八いこうぜ!」賑やかに去っていくヨシコ。(公演が後半になってくると「バイク買って!チャンプロードに載ってたやつ!」と追加のおねだりをしたり、つぼ八部分で「一、二、三!ヨシコヨシコヨシコヨシコ~!!!」と掛け声で煽る等アドリブ満載。)

 

 がっくりと肩を落とすコージとオキナワ。「出来レースじゃねえかよ!」憤怒するオキナワを、「次、次!次があるべ!そうムキになるなって。」と諭すコージ。しかし、「お前がそんなんだから優勝できなかったんじゃねえの!」と言い返されてしまう。言葉に詰まるコージに、オキナワも少しハッとした様子で、それでも静かに熱く語り出す。「…もう他の人の歌、歌うのやめようぜ。自分たちの歌で勝負してえよ。俺たちのオリジナル曲作ってさあ!」沈んでいたコージの表情がみるみる明るくなり、「それやるべ!」と興奮してオキナワを見上げる。オキナワもまた高揚し、コージに握手を求めようとするが、オキナワが右手を差し伸べるとコージは左手を差し出すので握手ができず、「なんっで右と左が出ちゃう…」ともどかしそうにずっこける。(オキナワが開いた手を差しだすとコージがチョキを出して「なんでジャンケン!!!」「なんで勝っちゃてんだよ!」とツッコまれる日もあり。)

 

 「よし、作戦会議だ!」「おう!」調子を取り戻し歩き出す二人に、「おつかれさ~ん!」声を掛ける男。それはコンテストの審査員、音楽プロデューサーの戌亥だった。振り返ってみるが、冷やかしだと思い「…行こうぜ。」と再び歩き出すオキナワとコージ。しかし「俺はお前らに一票入れたんだぜぇ~?」という戌亥の言葉にピタリと足を止める。そして先ほどとは違った熱量で眼差しを向ける。「おやおや、途端にギラついちゃって。お前らあれだろ?賞金よりデビューが目当てってタチだろ?」「…だったらなんだよ。」つっけんどんに返すオキナワ。「だったらしちゃおうよ、デビュー!えっ、逆になんでしないの!?声もいいし、顔だって悪くナ~イ、切れてナ~イ!」軽妙に捲し立てながらコージに近づく戌亥。「ほら笑ってみて?いいね~!じゃあもっと口をこう、アヒル口にして…いいよいいよ~!じゃあ手をこうやって、ジャミロクワイ。」言われるがままにくしゃっと笑い、頑張ってアヒル口をし、戌亥と一緒にジャミロクワイのポーズ(肩をすくめて腕を下にピンと伸ばし手首を外に曲げて手のひらを下に向ける)を決めるコージ。「だども優勝できなかったんで…」そう呟くと、「だから今こうしてスカウトしにきてんでしょうがよっ!」と言い放つ戌亥。(ステップを踏んだりエアドラムを叩いたりシェキナベイベー!と叫んだりとてもゴキゲン。)

 驚きと喜びが込み上げるコージとオキナワ。「ついに来たべチャンス!」手を取り合って跳ねるように喜ぶ。「よし!じゃあ一杯やりながら話そうか」と戌亥に誘われ、完全に浮かれて肩を組んだり指を差し合ったりしながら後に続く二人だったが、振り向いた戌亥は怪訝な顔で二人を見る。「…ここからは、ビジネスの話になるから。」「はい!」元気よく返事をする二人。しかし戌亥はオキナワに向けて、「伴奏の人は、ちょっと…」と告げると、切り替えたように明るくコージに話かける。「中華料理つってもよ!広東料理っつう獣くさ~いやつなんだけど、いけるか?」慌てて、「オキナワも一緒に!オラたち、いつも二人で…!」とオキナワと寄り添ってみせるコージ。(オキナワ、公演後半ではアヒル口で戌亥にアピールする。)「演歌で二人組なんて聞いたことねえだろ!」「それは…だったら、これからオラたちが!」「だいたい、お前ひとりだったら優勝できてたんじゃね~の?」戌亥の言葉に、黙り込んでしまうオキナワ。「…でも!オキナワは、いつもギター弾いてくれて!東京さきて、はじめて優しくしてくれて!宿もかしてくれて、ぜんこも…!」必死に、それでも嬉しそうに、オキナワのことを話して説得しようとするコージ。しかし、「コイツがお前にとっていい友達なのはわかった。…で?」と、戌亥の反応は冷たい。「…で、って、なあ、オキナワ!」オキナワに駆け寄るも、「…で?」と、オキナワにまで突き放される。「ええ…?」呆気にとられるコージ。一気にテンションの下がる戌亥。「なあ、俺はややこしいのは嫌いだ。そっちでナシ、つけたらまた連絡してくれや。」コージに名刺を渡し、立ち去る。どうしていいかわからない様子のコージ、「…オキナワ!」と名刺を渡そうとするが、オキナワは黙ったまま、目も合わせず立ち去ってしまう。コージは名刺を見つめてしばし立ち尽くし、肩を落として歩き出す。

 

【サンドイッチ工場】

 「困るんだよテレサくん!」「スミマセン!」工場の白い作業着を来た男を追いかける、こちらも作業着姿のテレサ。「このたびはすべてワタクシの不徳のいたすトコロ…」「そのお得意の謝罪も私には通用しないからね!」「どうしたの!?」様子を見ていた工場の従業員たち(どうやら二人ともオネエ)がたまらず止めに入る。「見たまえ、テレサくんの作ったサンドイッチの、ピクルスの入れ方の横着さったらないよ!」パンを開いて見せながら怒る男。「おかしいだろう!」「ちっともおかしくなんかないわよ!」「あんたのしゃべり方の方がおかしいわよ!」ね~っ、とテレサを庇う従業員たち。「ありがとうゴザイマス…」少しホッとするテレサだったが、「課長に報告。テレサくん、クビだから!」そう言い放つ男に、「待ってクダサイ!」と縋るテレサ。そこへ課長が現れる。「はいはいはいはい!どうしましたそんなに騒いで!」テレサのピクルスの入れ方が…と報告する男だったが、「そんなものパンに挟んでしまえば一緒です!」と一蹴される。「か、課長がそんなこと言い出したら…」「皆さん仕事に戻って!」手を叩き話を切り上げる課長。従業員たちに行くわよ!と両脇を抱えられた男は引きずられるように去っていく。「安全通路を通ってくださいね!床がバターまみれだから。」声を掛ける課長。

 

 「…アノ、ありがとうゴザイマシタ。」頭を下げ、仕事に戻ろうとするテレサだったが、「…与作は木~を切るぅ~…」突然『与作』を歌い出す課長に驚き振り向く。「彼氏さん。演歌歌手目指してるんだってね?奇遇だなあ、僕も演歌が大好きでね、是非応援したいなぁ~。」パッと笑顔になるテレサ。「ハイ!聞いたらとっても、喜ぶと思イマス。…では。」そう言って背を向けるが、「それで君もこうやってバイトをして彼氏のことを支えてるってわけですかトントント~ン。」歌を交えて続ける課長に、再び振り向き歩み寄る。「ハイ…まあ、お給料安いのでイパーイイパーイデスケド…」拳を上げながらユーモラスに言ってみせるテレサ。はぁっ!と驚き、抱えていたバインダーを落とし、突然うろうろとせわしなく動き回る課長。「そうですかそうですか、いや、まさか君の方から切り出してくれるとは…」怪訝そうにそれを見つめるテレサ。「ここ、お給料、安いね。おいくら?」詰め寄られ、困った様子で黙ってしまう。「…外人さんねえ、時々ビザが切れてる人が混じったりしちゃうからね。調べさせてもらったよ。君の状況は、入管に報告すればイッパツで強制送還だったよ。それより私とパツイチする方がいいでしょう?ねえ…おいくら?!」迫る課長を、「チガウ!」と衝動的に突き飛ばすテレサ。市場のマグロのごとき勢いで床を滑る課長。「ば、バターが!」服を払いながら立ち上がる。「ワタシはそんな女ではナイデス。」きっぱりと断るテレサ。しかし、「君が自分をどう思っていようと傍から見たら売春婦だよ!」と怒鳴られ、身体を縮こませる。「君を雇ってるだけで私も捕まっちゃうんだよ。まあ、もし警察にバレたら、私は知らなかったで通せるけど、彼氏さんはダメだろうね。デビューもなくなるだろうな。」テレサの顔が不安に染まる。「…みんなで黙っていれば、みんながお咎めなしってわけです。」俯くテレサに、うって変わって優しい声音で近寄る課長。「誤解しないでくださいよ、今日明日の話をしてるわけじゃありません。私も給料日前なんでね…」テレサの腕を取り、袖を捲り上げると、鼻を近づけ、白い腕から手首までをくんくんと嗅ぎ、「しゅうぃーん!」と滑り出すように離れる。引き攣った顔のテレサ。「あっ!それまでに病院は行っておいてくださいね。性病はノーよ!」テレサを指さし、そう告げると機嫌よく立ち去る課長。悔しそうに袖を直し、唇を噛んで立ち尽くすテレサ。舞台手前にはスナックのママが現れ、「やっぱり器用に、生きられないね~…」と『鳳仙花』を歌い出す。暗闇へ立ち去るテレサ

 

【スナック】

 ママが歌う中、スナックのセットと共に男性客が現れ、『鳳仙花』をデュエットする。もう一人の男性客が後からマイクを奪い、サビを歌う。盛り上がるママと客たち。スナックにはピカピカのカラオケマシーン。次はどの曲を、と盛り上がる中、大野とコージが会話をしながら店を訪れる。「人の心の機微を読まないヤツだねえ…。こんちー!」ハッとして振り向くママと客たち。「お、大野さん…!」カラオケマシーンに気付く大野、店内に緊張感が流れる。「まいどどうも!…あっ、どうです、よろしければ一曲!」「バカ、やめろ。…ビール。」悪気なく勧めるコージを止め、大野はピリついた空気を無視するように店に入り、席に着く。コージも大野の向かい側に腰を下ろす。「…ご、ごめんなさいねぇ~!」努めて明るく切り出すママ。「何が。」近隣の店もみなカラオケを入れたから、うちの店も入れざるを得なくて…と言い訳ながらビールを運ぶママを、「ごめん、ママ、今日俺コイツと話があってきたんだわ。」と遠ざける大野。ぽかん、とそのやりとりを見つめながら、大野にビールを注がれ、逆に大野のグラスにもビールを注ぐコージ。

 「大体お前、成功するつもりでいるから後ろめたくなるんだろうがよ。お前と別れた方がオキナワは幸せになれるかもしれねえだろ?その可能性も分かった上でお前、オキナワの人生背負う覚悟があんのか?」「それは…」「背負わなくていいんだよ。だから自分で決めろって話。大体、相談にきてる時点で、華やかな世界に憧れてんだろ?」はにかむコージ。図星の様子。「でも、オラ…後ろめたいままいきたくねくて…」「…本当に清く正しく美しく、一片の後ろめたさもなく、それで望んだものが手に入れられるのなら、この世に演歌なんて必要ねえよ。」大野の言葉に、コージは思わず立ち上がる。「じゃあなおさら歌だけは正直に…!」「そうだ、歌には絶対に正直でいろ。歌さえあればまっすぐに生きられる。逆に、歌に縋るしかねえんだ俺たちは。縋るのはオキナワじゃねえ。」そう言われ、納得したような、だけど悲むような顏で、肩を落として大野の向かいに座るコージ。少し考えた後、「…わかりました…。テレサにも相談して!」と顔を上げる。「お前俺の話聞いてたかぁ?」呆れる大野。「おあいそ!」ママに声を掛ける。

 

 客と何やら話して、気まずそうな笑顔で歩み寄るママ。「今日はお代、大丈夫だから…」しかしその一言で大野から穏やかさが消え、再び緊張感が張り詰める。「なによそれ。どういう意味よ。」「どういう、って…」「…もう来んなってか。餞別か。」「そんなこと…!」「そうだろうがよ…」自嘲するように呟く大野に誰も声を掛けられずいると、「…そうだろうがよ!」声を荒げ、カラオケマシーンに殴りかかろうとする。「機械なんかと歌って何が楽しいってんだよ!」客二人がかりで止めても暴れ続ける大野。ママがいたたまれず、「大野さんだって嫌でしょう!」と叫ぶと、ピタリと動きが止まる。「…来てくれるのはありがたいよ、嬉しいよ!でも…これからは…誰も頼まなくなるから!」おい、と客がママを止めようとするも、大野は酷く傷ついた様子でその場に座り込む。心配そうに見つめていたコージが、「師匠、行きましょう。」と声を掛けるも、大野は顔を背ける。「一人で帰れ。」「…じゃあ…。また、連絡します。」頭を下げるコージに、「もういい。…どうして、俺を置いてけぼりにしていくやつの相談に、何度も乗らなきゃなんねえんだよ。」そう言い放つ。複雑な表情を浮かべ迷った末、頭を下げて「ありがとうございました…。」と告げるコージ。階段を上がり店を出ようとしたところで、「コージ!」大野に呼び止められる。「…あいつと本気で繋がってると思うなら、また会えると信じて、さよならをしろ。」その言葉に、グッと涙をこらえて頷き、店を出ていく。

 

【アパート】

 電車の音が遠くに響く、暗い部屋の中。窓からの月明かりと、開いた冷蔵庫の室内灯がオキナワの姿を浮かび上がらせる。洗濯カゴから自分の衣服を拾い上げギターケースに入れる。一旦閉めようとして、思い出したように布団の方に向かい、枕を抱えてぽんぽん、と抱き心地を確かめ、それもケースに放り込む。淡々と荷造りをし、今度こそギターケースを閉めた時、テレサが帰ってくる。「オキナワ?…コージは?」「さあな。」しばらくの沈黙の後、テレサが意を決して口を開く。「邪魔、カナ?」「え?」「…私、邪魔カナ?」「…邪魔なのは俺の方だろうがよ。」自嘲気味に、けれど穏やかな声で答えるオキナワ。テレサも少しだけ笑顔を浮かべながら、洗濯物を畳み始める。「…邪魔になりたくないカラ、ワタシ、誰かの重荷になりたくなくて。…家族が私の重荷だったカラ。…ヒドいデショウ?ヒドいケド、辛かったの。」泣きそうになりながら続けるテレサ。「いい人たちダヨ。嫌な人たちなら裏切れた。ケド、いい人たちなんダヨ。…コージにも、私のために何かを頑張って欲しくナイ。自分のために、生きてホシイ。」テレサの言葉を受け止めて、オキナワは微笑む。「…これからすることが間違いじゃねえってあらためて確信したわ。」ふとギターケースを見遣り、また、その奥に立てかけたままのギターに気付くテレサ。「オキナワ、ギター…!」「…ギターケースひとつにおさまっちまう程度の暮らしだったわ。」「オキナワ…!」立ち上がり、オキナワを説得しようとするテレサ

 そこへ、コージが帰宅する。「ただいま!…あれ、オキナワ?どっかいくのか?」「コージ!」手を伸ばし、ギターを示すテレサ。それだけですべてを察し、俯いて黙り込むコージ。ギターケースを抱えたオキナワがコージの横を通り抜ける瞬間、「………へば。」悔しさ、悲しみ、どうしようもない思いを押し殺すようにそう声をかける。一瞬立ち止まり、それでも振り返らずに部屋を出ていくオキナワ。

 

 ドアが閉まり、テレサが声を上げる。「…コージ!」「わかってる!わかってっから…。ひとりじゃなきゃデビューできないって言われた。」部屋の隅に座り込むコージ。「オラ、デビューすっから。デビューしてお前を幸せにする。」無理に笑ってそう告げるが、テレサは納得がいかない。「…オキナワは?オキナワ仲間でしょ!?」「そんなに背負い込めねえ!…そんなに誰もかれも幸せにできねえべしゃ…」俯いてしまうコージ。「…コージ、ワタシ…」「テレサだけは、離さねえから。おめえがいればオラ、戦えっから…」そういってテレサの両肩を掴む。

 舞台手前には派手な身なりの女(ナホ先生)、『逢いたくて逢いたくて』を歌い始める。「愛した人はあなただけ、わかっているのに~…心の糸が結べない、二人は恋人~…」崩れ落ち、床に手をつき泣き出すコージ。困惑して背を向けていたテレサも、そんなコージを見て、後ろから優しく抱きしめる。それでもコージの涙は止まらない。部屋から出てきたオキナワ、ふと立ち止まり振り返るが、悔しそうに足をダン!と踏み鳴らして去っていく。

 

【スタジオ】

 「切なくて~…涙が出ちゃう~…」歌い終え、投げキッスをしたり客席にチラチラと手を振ったりしながら階段を上るナホ先生。階上には音楽スタジオ。曲が終わると同時にコージが現れ、向かい合ってお辞儀をする。「…こんな感じ~!」にゃは、といきなりノリの軽いナホ。「じゃ、歌ってみよっか。」「はい、先生。」コージの返事に、「んっ、ん?う~ん?」とどこか違和感を感じている様子。「先生?」「うん、う~ん?…コージくん、ここに通い出してどれぐらい経つっけ?」え~と…と思い出そうとするコージ。「そろそろ、先生、って呼ぶの、やめてみよっか?」「じゃあ、なんて呼べば…」途端に楽しそうにはしゃぎだすナホ。「えっとね!う~んと、んとね~…な・ほ!」「…なほ先生?」「ううんううんううん!ナ、ホ…」突如艶めかしい声音でコージに迫る。おろおろと後ずさるコージ。

 

 そこへ、「おう!やってっか~!」と戌亥と行代が現れる。「先生、コージを宜しくお願いしますよ~!」ナホの尻を撫で、適当な歌を歌いながら適当に鍵盤を鳴らす戌亥。その後ろに立つ行代をまじまじと見て、「あ…!」と口を押えて指をさすコージ。「お、知ってんのか。」「知ってます!コンテストで…」「寺泊行代さんだ。」突然有名人を紹介され困惑するコージ、つんとした態度を崩さない行代。「おいおい、コンビ組むんだから仲良くやれよ~!コンビが仲悪いのは昭和までの話だ、平成も二年目なんだしよお!」「その平成に、演歌?」戌亥を咎めるように言い放つ行代。そこにコージがおずおずと割って入る。「あの…コンビ、ってどういうことだべか。」「お前は行代とデュエットでデビューするんだよ。」「…デュエット!?」「訛るな!そうだよ、お前ひとりでデビューできるとでも思ったのか?」「したばってん、だったら別にオキナワでも…」戌亥に気圧されながらもそう食い下がるコージ。ナホに向かって「ほんと、相変わらずだよね~」と話しかけながらコージに近づく行代。「安心しなよ。私、やんないから。」肩に手を置きそう言ってのけると、奥の出口から出ていく。それを追う戌亥。

 

 二人きりになり、レッスンを再開しようとするナホとコージ。「前から思ってたんだけどぉ、その背広…真夏にそんな暑そうなの着てたら、ちょっとおかしくない?一回脱いで歌ってみたら?」と背広を脱がそうとするナホ、抵抗するコージ。「それに、訛りだって。」と続けるナホに、「オラ、くにの言葉もこのせびろも、恥ずかしいとかおかしいとか思ったことねえべ。」そう言い切るコージ。しっかりとした意思を持った顔つき。「んもう…ウブなようで頑固!そういう人…好き!ナホって呼んで…!」目の色が変わり、再度コージに迫るナホ。後ずさりしながら逃げるコージ。

 

 スタジオを出て、屋外の喫煙所。煙草をふかす行代の元に戌亥が歩み寄る。灰皿を挟んで隣に立つ二人。「吸う?」自らの煙草を差し出す行代だったが、戌亥はポケットから取り出した煙草を吸い始める。それを見て、自嘲気味に笑う行代。「そうだったそうだった。アンタに教えてもらった煙草だった。」しばし煙草をふかす二人。「お前がアイドル崩れはもう嫌だって言うからやってんだろ。」「…それで?あの坊やと何やらされんの?」切り出した行代に、前のめりに語り始める戌亥。「CMソングだ、引っ越し屋の。」「どこの会社!?」思いがけない大きな仕事の予感に、行代も前のめりになるが、「引越しを~するなら~教えてよ~」戌亥の歌を聞くとがっかりして、再び白けた顔になる。「それ、全国区じゃないよね?流れるとしてもせいぜい地方局のラジオくらいだろうし、タイアップだと営業かけづらいし、デュエットだと紅白にも出づらくなるし…!」「先のことは俺が読む!ベテランの悪い癖、出てるぞ。」ムッとする行代。「何それ。バカな若者の方が騙しやすい?」「板の上で見世物になるには、隙間のある人間じゃなくちゃならねえ。その隙間に客は自分の思いを乗せる。託す。…バカな若者は隙だらけだ。だが、大人になりゃ、みんな隙間を恥ずかしがって埋めたがる。」「悪いこたないでしょう。」「…行代。コージと組め。あいつは隙間だらけだ。あいつの隙間には人が集まる。お前はそれを踏み台にしていきゃいいんだよ。」ゆっくりと顔を近づけ、額と額を合わせる二人。

 

【ビジネス街】

 スーツの男女が忙しそうに行き来するビジネス街の一角。大荷物を搭載した自転車をこぎながら、鼻唄混じりに現れる殺し屋。フラフラと運転をし、通行人にぶつかりそうになる。謝り、自転車を降りて停めたところで、すぐ脇の建物からオキナワが出てくる。「オキナワ!」声を掛けると、ややためらいがちに振り返り、近づくオキナワ。「よお、おっちゃん。こんなとこまで来てんのか。」「オキナワ、お前、仕事は…?」「…元の仕事に戻ったよ。」「元の仕事って…ギターは?!ギターはどうしたんだよ。」「オキナワ!」若いチンピラ風の男が声を掛けてくる。「行くぞ。」「…おう。」男に続いて立ち去ろうとするオキナワを呼び止める殺し屋。「オキナワ!…お前は、あの横丁じゃしっかり者に見えてたけど、俺たちと同じ半端者だってわかってたぜ?いつでもあの横丁に帰ってきていいんだぞ?」立ち止まって聞いていたオキナワ、グッと何かを飲みこむように話し始める。「…気軽に優しくするなよ、おっちゃん。これでもそういう言葉信じちゃう人間なのよ。…信じて裏切られて、人並みに傷ついて。いけねえいけねえ俺は犬ころだったって気付くわけ。」吐き捨てるようなオキナワの言葉。「おいオキナワ!」男に呼ばれ、「…アオーーーン。」そう、遠吠えをしてみせると、走り去ってしまう。

 

【スタジオ・ホテル・借金取り】

 引き続きレッスン中のナホとコージ。「コージくん…その背広のせいで売れなかったら、おばあちゃん悲しむよ?」そう指摘され、黙ってしまうコージ。「訛りのことも一緒。」コージの背広を脱がせ、マイクスタンドに掛けるナホ。言われるがまま、再びレッスンが始まり、コージは『一番星ブルース』を歌い出す。「男のォ、旅はァ、ひとりィ、旅…女のォ、道はァ、かえェり道ィ…」

 

 コージが歌う階上の反対側、ピンクがかった紫色の照明が照らす先には、スーツ姿の課長と小奇麗なワンピースを着たテレサの姿。課長に促され、困ったように笑いながらそっと課長の腕に自分の腕を絡めて寄り添うテレサ。二人は暗闇に消えていく。

 

 コージの歌は続いている。照明の色が変わり、階下に現れたオキナワを照らす。仲間と共に借金の取り立てを荒々しく行うオキナワ。仲間に止められても、「借りた相手が悪かったな!」と借金をした男を殴り続ける。

 

(同時進行で三つの場所の様子を見せている。三か所を照らす照明の色はそれぞれに異なり、また他の場所でのやりとりが始まるとコージが歌のボリュームを絞る(マイクではなく喉で)ことで、歌に乗せながら他の場所の様子も強調できるような演出。)

 

 「一番星空からァ…俺のォ心をォ、見てェるだろォォ…」スタジオでは喉の調子を窺いながら、ナホと目を合わせ頷くコージ。歌は続く。

 

 舞台の奥から、バスローブ姿のテレサが走り出る。「ヤッパリ、出来マセン…!!!」後ろを振り返りながら逃げ惑う。Yシャツに下はトランクス、あられもない姿の課長が怒りながらテレサを追いかけてゆく。

 

 階上左手、逃げるオカマを追いかけて現れるオキナワ。「ショバ代は払ったじゃないの!」ボロボロになりながら逃げるオカマを蹴り飛ばし、さらには背後から胸元に手を差しこむ。掴みだしたのは白い粉の入った袋。「おクスリ代もちゃあんと奉納してもらわなきゃなあ?」覚せい剤を奪い取り、さらに暴力を振おうとするのを、仲間が羽交い絞めにして止める。その隙に逃げていくオカマ、仲間を振り払い追いかけるオキナワ。

 

 「一番ぼォし消えるたびィ…俺のォ心がァ…寒ゥくゥなる~…」思いを全て乗せるように、力のこもった歌を歌い続けるコージ。

 

 バスローブの前を握りしめながら走り出てくるテレサ。舞台前方まで逃げてくるが、足がもつれてその場に尻もちをついてへたりこんでしまう。手に握られた灰皿のようなもの。追いかけてきた課長は頭を殴られたのか、額から血を流している。「お前の彼氏もダメになるぞ!」「前にも同じことを言う人がイマシタ…」「どこにいっても一緒だよ!」怒鳴りながら近づく課長、歯を食いしばってまた逃げ出すテレサ

 

 仲間たちに連れてこられ、輪の中へ転がされるオキナワ。「いるんだよね、ストレス解消のために仕事するやつ。危なっかしくて見てらんねえんだわ。」そう言うと数名でオキナワを棒で殴り、蹴り飛ばす。何とか立ち上がりながら縋るオキナワ。「なぁ、犬コロ同士、仲良くやろうぜ…」それでも仲間の暴行の手は止まらない。

 

 オキナワは暗闇に飲みこまれ、コージの歌うスタジオが照らされる。「一番ぼォしィ消えるたびィィ…!俺のォ…心がァ…寒くゥなるゥぅ~……」歌いきったコージ。「力入りすぎ~!全然集中できてない!」ナホから指摘されると、「試しにこれ着て、もっかい…」と掛けてあった背広を取る。しかしナホがそれを取り上げる。「も~、そんなにおばあちゃんの思いが大事!?」言葉を返せないコージに、諭すように話を続けるナホ。「…コージくんさぁ、自分の思いだけで精一杯な人でしょ?余計な思い背負い込んでちゃ、持たないぞ!」指を刺され、ぐ、と息をのむコージ。

 

【夜道】

 機嫌よく談笑しながら階上、夜道に現れる北野と大橋、付き人の女が三人。またもや真夏の果実の話をしている。道の中央で立ち止まり、客席に背を向けるとおもむろに立ち小便を始める北野。(客席に向けてしようとする日もあり。)大橋も便乗するように並んで小便を始める。目を覆う付き人たち。暫し小便をしたところで、「あっ、先生、誰か来ます!」慌てて切り上げる大橋。しかし北野は堂々と用を足し続ける。現れたのはオキナワ。角材を引きずり、怪我だらけの体はボロボロ。目つきは暗く淀んでいる。「…オキナワ!」後ずさる大橋。「立ちションも立派な罪ですよ。通報しちゃおっかな~」不穏な笑みを浮かべて絡んでくるオキナワを、あっちへ行け!と肩を押して追い払おうとする大橋。軽く押しただけだったのに、大げさに転んでみせる。「いってぇ!!!こりゃムチ打ち全治三か月かな…」「お前、恐喝する気か!」「強請るなんて!一緒に坂道転げ落ちてくれるやつ、探してるだけだよ。」いまだ用を足し続けている北野の顔を覗き込み呟くオキナワ。「…止まらないんですか!?」と声を掛ける付き人。ようやく小便が終わり、ズボンを直しながら、「そりゃあ手口が随分とチンピラだなあ、オキナワ。」と臆することなく応対する北野。「こんなもんじゃないぜ。もっとデカいネタ用意してんだ。…これを持って、警察行って自主してやろうか?」ニヤリと笑い、オキナワがポケットから取り出した透明な小袋。中には白い粉が入っている。奪い取り、中身を軽く吸って確かめる大橋。「これは…!」「思ったよりずっとチンピラでビビっただろ?北野波平の弟子が覚せい剤所持、なんて知れたら世間はどう思うだろうなぁ?」大橋から取り戻した袋をちらつかせながら北野を脅すオキナワ。「勝手に捕まってろ!先生がお前と無関係なことなんてすぐにわかるさ。」そう反論する大橋だったが、「事実はどうあれ、週刊誌は飛びつくぞ!」というオキナワの言葉に追い込まれる。「…っそんなスキャンダル、いくらでも逆手にとってネタに変えてやるわ!先生はなあ、以前愛人たちと全裸で賭け麻雀をしていたのを撮られた時だって…」「大橋!」開き直って反撃しようとする大橋を北野が制止する。脅しにも全く動じる気配がない北野。オキナワから角材をさらりと奪い、「よし!オキナワ、俺の家に来い。そこでゆっくり話そうじゃねえか。」と提案する。不敵な笑みを浮かべるオキナワ。角材でゴルフのスイングをしてから、歩き出す北野についていく。「ナイスショーット!」付き人達が声を掛ける。(公演後半では「はいれ~~~っ!」)

 

【アパート・夜】

 降りしきる雨の音。コージがアパートに帰ると、暗闇の中、テレサが正座で佇んでいる。「いたの?なんで電気つけねえの?」不思議そうに問いかけながら靴を脱ぎ、背広を脱いで壁に掛けるコージ。「イイヨ、暗いままで。」テレサの声はどこか沈んでいる。「…なんかあった?」「ドウシテ?」「暗い顔してるから。」「見えないデショ。」「声でわかるよ。」微笑みながら、ちゃぶ台を挟んでテレサの向かいに正座するコージ。(お互い客席の方を向いて座っている。)「…コージも、何かアッタ?」「オラは、何もねえよ。」はにかんで答える。

 しばしの沈黙の後、テレサがコージに向き直り、静かに口を開く。「…コージ、なんで抱カナイ?」きょとん、とテレサを見つめるコージ。「抱くって…何を?」「ワタシを。」突然の問いかけに、困ったように頭を掻きながら照れ笑いを浮かべるコージ。「へへ…、おかしいべ、オキナワがいるのにだって、」「もういないヨ。」「……」「なに?」「何でもね。」何か言いたげなコージだが、言葉が出てこず、もどかしそうにまた頭を掻く。「……ハイ。」諦めたように呟き、立ち上がるテレサ。冷蔵庫に向かい、缶ビールを取り出すと、立ったままコージに背を向けて飲み始める。

 

 テレサの言葉に意を決したコージ。勢いよく立ち上がると慌ただしくYシャツとズボンを脱ぎ捨て、肌着にトランクス、靴下という格好になると、テレサの背後に駆け寄る。気配を感じて振り向き、驚くテレサ。おもむろにテレサの両肩を掴むコージを、「ちょ、ちょっと待って、零れるカラ…」と嗜めると、台所にビールを置くテレサ。向き合った二人は吸い寄せられるように口付ける。傍らの布団にテレサを横たえると、コージが馬乗りになり再び唇を合わせる。一旦テレサの上半身を起こし、ワンピースをはだけさせて、ゆっくりとテレサを布団に押し倒してその胸に顔を埋めるコージ。(6/8の時点で、ビールを置いたテレサが自ら布団に仰向けになり、「こぼれちゃう、カラ!」と準備万端でコージを迎え入れるというコメディみのあるシーンになっていたが、最初は二人のまっすぐな気持ちだけが痛いほど伝わってくる緊迫したシーンでした。)

 

 コージの甘い吐息が部屋に響く中、「一万円!」「一万六千円!」テレサを競っていた男たちの声と顔が浮かび上がる。動きが止まったかと思うと、跳ね起きてテレサから離れ、ちゃぶ台の向こうで座り込んでしまうコージ。

 テレサも驚いて起き上がるが、俯き、悔しそうな表情を浮かべるコージの心中を察する。「…私、キタナイ?売春婦の体は汚くてイヤ?ずっとそれで抱かなかった?」俯いたままのコージ。「……黙っチャッタ。」悲しみを誤魔化すようにおどけてそう言うと、脱ぎ掛けだったワンピースを脱ぎ捨てて肌着姿になり、ふてくされたように横になるテレサ。「嫌なんてことは絶対ね。それは絶対にね!」真剣にそう告げるコージだったが、「でもタタナイ!」起き上がり言い放つテレサの言葉に再び口をつぐんでしまう。「…いいんダヨ、コージはデリケート、ダカラ。頭に浮ぶヨネ、私がどんな仕事をしてたか…」責めてしまったことを悔いるように、優しくコージを慰めるテレサ。悔しさが頂点に達し、泣き出しそうになりながら口を開くコージ。「情けねぇ…こんなに自分のちんぽ情けねぇと思ったことはねぇ。だって、すっげえ抱きてえんだ、おめえを。」立ち上がるコージ。自分の下半身を睨み付け、拳を振り上げる。「このヤロー!いうこと聞け!!!あっ…」全力で下半身を殴りつけたため、あまりの痛みにうずくまって苦しむコージ。「コージ…!」「抱けっから!…ちんぽがなくても抱けっから。オラ、おめえのこと、なんもかんも抱くから。…今だけじゃね。過去も未来も全部抱くから。抱けっから!」思いの篭ったコージの言葉。見つめ合い、立ち上がり、互いの体に腕を伸ばしながら静かに熱く口づける二人。テレサを布団にゆっくりと押し倒し、部屋は暗闇に包まれる。雨音とピアノの旋律が流れていく。

 

【アパート・朝】

 肌着姿で布団に横たわり眠るコージ。口元が嬉しそうに緩み、時に笑顔も浮かんでいる。(股間を押さえている時も。)そんなコージの傍でぼそぼそと世間話をする警官が二人。目を覚まし、その姿を認めると、途端にパニック状態になるコージ。「あ、起きた。」「あんたら誰だ!?」「私たちはテレサさんに…」その名を聞き、ハッとするコージ。「テレサテレサ!」見回すも部屋の中にその姿はなく、宥めようとする警官の言葉も耳に入らずに慌てるコージ。そこへ、出かけていたテレサが帰ってくる。「テレサ逃げろ!!」そう叫びテレサに駆け寄ろうとするコージ。警官に二人がかりで止められながらも暴れ、わめき、テレサを逃がそうとする。しかしテレサは落ち着いた様子で、「コージ、大丈夫ダカラ。私が呼んだの。」と伝える。それを聞いて、スイッチが切れたように動きを止め、へなへなとその場にへたりこむコージ。「このお嬢さんのおかげで、君は何も知らないことになってるから、安心して。」警官の言葉に混乱する。「…コレ、お米と缶詰、あとレトルトカレー買ってきたカラ。」手に持っていたビニール袋から、食糧を棚に移してゆくテレサ。「…わかんねえよ、なにこれ。」力なく呟くコージ。「コージの迷惑になりたくないカラ…」優しく穏やかにテレサが告げると、立ち上がって詰め寄るコージ。「なにが迷惑よ!ねえ。どんな迷惑がかかるのよ!ねぇ…迷惑だっていいよ。テレサのいいも悪いも全部背負うつもりで…!」「それがダメなの!…私のために何か頑張るコージ見たくナイの。コージは、自分のためだけに生きて。」何も言い返せず、膝をつくコージ。テレサは自分の胸にさげていた十字架のネックレスを外し、コージの掌に握らせる。「昨日のコトは、いい思い出になったヨ。…アリガトウ、コージ。」十字を握らせた手にキスを落とし、笑顔を見せて、警官と共に部屋を出ていくテレサ

 

 呆然と、手の中の十字架を見つめるコージ。「…テレサ…。テレサテレサ…!」我に返り、部屋を飛び出す。ほどなくしてテレサの腕を掴んで部屋に戻ってくる。「コージ!」両膝を付き、テレサを見上げるコージ。その表情はうかがい知れない。骨が浮き出て、コージの痩身を思い知らせる背中。ゆっくりと微笑んで、コージに語りかけるテレサ。「…この顔。この笑顔。もしもこれからコージがワタシを思い出してくれる時があるなら、この顔で思い出シテ。悲しい顔忘れてホシイ。」身をかがめ、コージの額にキスを贈る。ゆっくりとコージから離れていくテレサ。手を伸ばすコージ。テレサの姿が玄関の向こうに消え、項垂れるコージの背中だけが部屋に残る。ふと、テレサがふたたび玄関から顔を覗かせ、壁を叩いてコージを呼ぶ。「売れてネ、コージ。立派な歌手になってけろだ。」にっこり笑って、今度こそ立ち去るテレサ。「…テレサァ!」追いかけるコージだったが、警官たちに捕まり、部屋の中まで引き戻される。なおもテレサを呼び暴れるコージは、みぞおちを殴られ一瞬、意識を失うように布団に倒れ込む。立ち去っていく警官たち。うずくまり倒れていたコージは、震えながら転がって仰向けになり、手で顔を覆う。コージの嗚咽が部屋に響く。ドラム、ギター、ベースの軽やかで切ないイントロが鳴る。『引越しをするなら教えてよ』を、震える声で歌い出すコージ。

 

 「くすみ…かけた…この部屋で……過ごす…時は…終わり…」言葉の合間、合間にしゃくりあげながらも、その歌声は力を帯びていく。「別れ…決めた…この期にも…いさぎ…悪いと…思うけど…」悲しみにのたうちながら歌うコージだったが、ふと、意を決したような表情に変わる。起き上がり、前を向き、涙声ではない、悲しみを力に変えるような歌声を響かせる。「明日になれば…戻らない、二度と…だから今夜は、笑ってみせてよォォォ…」手を伸ばし、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも、一層力強く、一層思いの篭った歌を歌い続ける。「引越しをォォするなら、教えてよォォォ…どんなァァ遠くへ、離れてもォォ…今はァ…かァどォが立ァつこォともォ…後でェ話せる…時ィがあるだろう…」歌い上げ、再び嗚咽を漏らし、全身を悲しみに染めるコージ。曲が流れるまま、舞台は暗闇に包まれる。

 

【スタジオ】

 『引越しをするなら教えてよ』の旋律がピアノで奏でられる。弾き終えたナホ、すっきりとした顔で歌い終えたコージに、笑顔を浮かべ、せわしなく拍手を送る。「いいよいいよ~!コージくんすっごいよくなった!マル!マル!白鶴~?」「…マル?」「そ~う!!!」大喜びしているナホに合わせて頭上で大きく丸を作るコージ。(「武蔵?」「丸!」や「おじゃる?」「丸!」など、ナホ先生のアドリブが炸裂。)はしゃぐ二人を、壁にもたれてつまらなさそうに眺める行代。「コージくん、変わったね!」「…そうかな!」ナホに褒められ照れるコージ。「すっかり訛りも消えちゃって!」「より多くの人に伝えるには、訛りなんて余計なものだからね。」標準語でさらりと言ってのける。やる気のない行代に向かって、「行代さんもちゃんと練習してくださいよ!」と声を掛けるが、息を吐きかけて「二日酔いなの。」と吐き捨てる行代。酒臭い息に顔をしかめて手で払うコージ。ナホは行代に向けて、コージの変かを熱心に説く。「コージくん、一生懸命変わったんだよ。見て!このジャケット!麻よ、麻。ヘンプ!ちょっとみせたって、着てみせたって~!」ナホが肩に掛けたジャケットに颯爽と腕を通し、渋いキメ顔で遠くを見遣るコージ。「すご~い、どこからどう見ても都会人だね!オメガドライブかと思った~!」拍手喝采のナホに対し、「ねえ!歌い方も変えた?」と問いかける行代。(公演後半になると、『引越しを~』のサビメロディーに乗せて替え歌をする。)「あ、わかっちゃった?!」ナホに促され、サビを一節歌い上げるコージ。布団の上でぐしゃぐしゃに泣きながら歌っていたのとは別人のように、軽やかで爽やかな歌声を鳴らす。「…なんかあった?」コージの変わりようを不思議に思っている様子の行代。コージは晴れやかに、しかし僅かに寂しさを滲ませながら、「…背負うものが無くなって、身軽になったんです。」と答える。「それ、女と別れた男がいいがちな台詞よね~。」「あっは!違いますよ!」「いいの!それでいいの!そのほうがいいの!!」笑って否定するコージの肩を掴み、鼻息荒く迫るナホ。「才原ちゃん!」「テヘッ!」行代に止められ、おどけながらコージから離れる。「…今は、自分自分って、集中して頑張ろう、って。」前向きに答えるコージ。

 

 そこへ戌亥が現れる。こちらも酷い二日酔いのようで、スタジオに入ってきた途端その酒のにおいに顔をしかめるコージとナホ。気分が悪いらしくいつもの勢いがない。「おう、やってるか~…」「戌亥さん!行代さんがちゃんと練習してくれないんです!」「練習が必要な歌じゃねえだろ。」戌亥の答えに怪訝な表情を浮かべるコージ。「おい、出前頼むか。経費でおとせっから。うまい排骨麺食わせる店があんだよ。えっと、メニューはこっちかな…」「あっ、内線こっちにありますよ~?」フラフラと部屋を出ていく戌亥に声を掛けるナホだが、諦めて肩をすくめる。

 「…ねえ、どんなデビュー想像してた?」不意に問いかける行代。「期待してたのと違った?」「…デビューはデビューです。」はにかみながら答えるコージ。「…あんた、踏み台だってよ。」行代の言葉を聞くと、顔つきが鋭くなる。「デビューして一発当てたらコンビは解散、そんな算段だよ、戌亥は。ねえ、踏み台になるってどんな気持ち?」鋭く、しかし敵意ではなく決意を感じさせる表情で、コージが答える。「…踏んづけられるのはいつものことだべ。それでも、行く道行くしかねって気持ちです。」

 

 沈黙。不穏な空気を感じ取ったナホが間に入る。「まあ、恵まれたデビューができるのなんて、ほんの一握りの人間だけなんだから!」黙ったままの二人。「…行代ちゃんは?どんなデビューだったの?」明るく行代に話を振るナホ。「……寺泊行代、十七歳でっす!好きな色はピンク!好きな食べ物はプーリンでっす!夢はふわっふわの雲にのって世界一周すること~でっす!」身振り手振りを交え、デビューしたてのアイドルさながら、くるっと回りながら自己紹介する行代。ポーズを決めた後、スタジオに広がる沈黙に、行代の重いため息が落ちる。「…デビューの時の自己紹介、かな?」取り繕うように明るく声を掛けるナホ。「五歳の頃から考えてた。コタツの上で何度も何度も練習してさ。」「でもすごいよ!コタツの上からレコ大のステージまで上り詰めたんだから!」「…そうして今は、特設会場という名の駐車場で歌っていまっす!」自虐的にそう言ってのけ、先ほどと同じポーズを決める行代。

 「でもっ、俺、歌ってる時の行代さんは好きですよ!こう、パーッと光ってて…」うっとりと瞳を輝かせながら、歌う行代の姿を思い浮かべている様子のコージ。「っはは!歌ってる時、は!」ハッと緊張感を持つナホ。「へ?」一拍遅れて、自分の失言に気付くコージ。慌てて、「あのっ!これは、そうじゃなくて、あの…!」と弁解しようとするが、上手く言葉が出てこずに頭を掻きむしるばかり。そんなコージを見た行代は、怒るどころか爽快な様子で笑い出す。「本当に、隙だらけ、だね。」言われた意味が分からず首を傾げるコージに、「やれやれ、私も本気出さなきゃって気になっちゃうよ。よろしく、相棒!」そう言うと笑顔で手を差しだす行代。「…!はいっ!」力強く握手を交わす二人。間から拍手をするナホが顔を覗かせる。「がんばろーねぇっ!」励ましながらコージに迫る。ナホの勢いに押されながら、スタジオを後にするコージ。残った行代は一人、遠くを見つめている。階下に収容所のセットが現れ、照明がそちらに映ると、ゆっくりと身を翻し立ち去る。

 

【収容所】

 二人の刑事が話しながら歩いてくる。「供述と踊り子の人数が違うんスよね~。」「それはお前あれだろ、仲間をかばいたかったんだろうよ…」「そういうもんっすか~」小さな取調室に入って行きながら、小さな机を前に座っているテレサに声を掛ける。「すいませんねえ、せっかく自首してくれたのに。」「イエ…」「テレサさんの供述のおかげで、外国人ブローカーの壊滅まであと一歩なんです!本日も、ご協力、よろしくお願いします。」

 

【北野邸・地下牢】

 四畳半に檻をかけたような地下牢にたたずむオキナワ。北野の女付き人三人組が、ツカツカとヒールを鳴らして歩いてくる。ポニーテールの女がカンカンカン!と箒で檻を叩き、その音に驚き振り返るオキナワ。「お夕飯ですぅ~!」手に持った盆から丼を取り上げ、檻の中のオキナワに渡す、長髪の女。かわりに空になった恐らく昼食の丼を渡すオキナワ。「おい、北野のやつどういうつもりだよ!立派な監禁だぞ!」「先に恐喝してきたのはそっちでしょう!」「いいから北野を出せよ!」「先生は地方公演中でいらっしゃらないんです!」言い合った末、檻の中へ持っていた箒を投げ入れるポニーテールの女。「これは北野先生からです。ご自分の部屋の掃除くらい、ご自分でなさってください!」オホホホホホ!と一斉に高笑いをする女たちに一瞬怯えるオキナワ。女たちは再び、ツカツカと去っていく。オキナワは手に拾い上げた箒を見つめる。「…誰が掃除なんかするかよっ!」と一旦は投げ捨てようとするも、「…とはいえ暇だからやっちゃうけどね~…」と大人しく掃き掃除を始める。

 

【料亭】

 「わーっしょい!わーっしょい!」と賑やかな掛け声。屈強な男たちに胴上げをされながら座敷の周りを移動する戌亥。座敷にはそれを見て楽しむ行代、コージ、上座にはテカテカに固めた髪に色眼鏡、いかにも嫌な金持ち、といった雰囲気の男と、連れの若くて下品な笑い方の女が座っている。男は行代とコージのデビュー曲にタイアップをつけてくれた引越し屋の社長であり、その接待の最中であった。掛け声に合わせて上下する戌亥を見上げながら、手拍子で笑顔を浮かべるコージ。胴上げが終わり、ふらつきながらもヘラヘラと笑う戌亥。「おいコージ!お前もやってもらったらどうだ!」「いや、オラは…」はにかんで受け流すコージ。

 社長に酌をする行代。「憧れの行代ちゃんにお酌してもらえる日がくるなんて…頑張って良かった…!」と感極まって涙ぐむ社長。「俺はよぉ、父親が一代で築き上げた会社継いでよぉ、トンビがスズメ産んだって散々馬鹿にされてよぉ、それでもなんとかやってきたんだ」「団地ブームでさあ、そのころ引越しをするのなんか新婚の夫婦ばっかりだからね!エレベーターもないからね!?そんな中花嫁道具の桐ダンスを持って階段を一歩!」『一歩!』(突如大ボリュームで男たちによる合いの手。よく揃っている。)「一歩!」『一歩!』「うんとこしょ!」『どっこいしょ!』「…そうしてコツコツやってきて、憧れの行代ちゃんにCDを出してあげられるようにまでなりました」(拍手)社長と男たちの息の合ったやり取りに肩をビクッ!と跳ねさせて振り返り、社長と男たちを交互に見るコージ。とても驚いている。

 

 そのタイアップソングの話になると、「歌詞がよくないよね!くすみかけたって…暗いよ~!」と文句をつけだす社長。戌亥は必死にフォローに回る。「CMで使われるのはサビの部分だけですので!」「それにデュエットってさあ~」「行代も歌が得意というわけではありませんから、そこを補うという形でですね…」「野郎のパートが多くないか?」「一番は二人の掛け合いでして、二番は行代のソロとなっております~」戌亥の説明にも納得のいかない様子の社長。じろりとコージを見遣る。「そもそも、あの子必要?なんか地味だしさぁ~」標的にされたコージの顔が強張る。「それは、今後勉強させていただくということで…おいコージ!社長にお酌しろ!」「…はい。」へらへらと笑みを浮かべて立ち上がり、社長の隣に移動するコージ。「では、失礼しま…」酒を注ごうとした瞬間、社長にグーで頬を殴られる。唖然とするコージ。「…ぶわっはっはっは!」「あはははは!」こらえきれず吹き出す社長と連れの女。「リアクションしてくれないとさぁ~!殴った俺が悪者みたいになっちゃうじゃないの~!」驚きながらも合わせてへら、と笑おうとするコージ、すかさずフォローに入る戌亥。「それも今後勉強させていただくということ、でッ!?」今度は戌亥を殴る社長。しかし戌亥はゆっくりと体勢を戻しながら「ぼ~く~ど~ら~え~も~んで~す」とモノマネをして(途中から「マダミア~~~ン」に変わった)社長は満足げに大笑いする。

 

 ひとしきり笑った後、「着ぐるみでいこうか!」と宣言する社長。驚く戌亥、行代、コージ。「うちのマスコットキャラクターに、カブトムシのブットくんっていうのがいるんだよ」「ブット!」(突如高音で叫ぶ連れの女。)「それ着て歌ってもらおうか。」少しの沈黙ののち、「…コージ、お前、どうだ?」と尋ねる戌亥。コージは気持を飲みこみ、明るい笑顔を作る。「なんでも…やらせていただきます!」コージの答えに上機嫌になる社長。「ま、メインはCDじゃなくて写真集のほうだからね!」という社長の言葉がひっかかるコージ。「写真集ってなんですか…?」「それは行代の話だからよ。お前はCDだけで我慢しろよっ!」戌亥に言われ、納得いかないまま席に戻るコージ。連れの女が「私も写真集だした~い」と甘えると、「だって君、脱げないでしょ?」と社長。「脱げるわけないじゃ~~ん!脱いだら終わりだもん。」行代を真っ直ぐに見ながら言い放つ女。「…ちょっと待ってください。脱ぐとか脱がないとか、何の話をしてるんですか。」コージの表情に不信と怒りが見え始める。「だからお前には関係ないって…」「誰が脱ぐんですか!」宥めようとする戌亥に噛みつくコージ。

 その様子を見て、「…ちょっと、どうしたのこの子、不機嫌になっちゃったみたいだけど」と嫌悪感を表す社長と、ハッとした顔をして立ち上がる女。「私わかっちゃった!」無言でコージと行代の顔を交互に見比べる。「…えっ、何そういうこと!?君たち、付き合ってんの!?」驚く社長に、「そんなわけないじゃないですか~!」と笑って否定する行代と、こちらも笑顔で手と首を振るコージ。しかし疑いは晴れず、苛立つ社長。「こういうのって恩を売ってあわよくばタレントだって抱けちゃいます、っていうためにやってんだからさ~」三人に不穏な緊張感が走る。「そのためにさ、俺でも抱けそうな落ち目のタレント必死で考えてさ、それで選んだ行代ちゃんなわけなんだからさ~」「…何言ってるんだべあんた!」ついにコージの怒りが爆発する。「私がいいって言ってんだからアンタは黙ってて!」止めようとする行代。しかしコージは止まらない。「本気出すって言ったじゃないですか!」「だから本気出したんじゃない!」「こんな男のために脱ぐのが、行代さんの行く道ですか!」「…あれ?俺、今侮辱された?侮辱されたよねえ?」「いやいや、そんなことは…」一気に機嫌が悪くなる社長と、宥めようとする戌亥。「それがやりたいことならなんにも言いません。それが、五歳の頃からコタツの上で見た夢なら。だども!」今度は戌亥が止めに入る。「コージよ!今世間ではヘアヌードが解禁されたばっかで流行りがきてんだよ!」「流行り廃りの話をしてねえっすよ。惚れた腫れたの話です!」「おい、この子担ぎ上げちゃって!」社長が男たちに指示すると、あっという間に担ぎ上げられるコージ。しかし体制を立て直し、担がれた状態でなおも叫ぶ。「そんなのおかしいべ!そもそも惚れた女なら、あんたが止めるのが筋でしょう!」コージの気迫に、わらわらと崩れてコージを下ろす男たち。「惚れた女だからだろうがよ!惚れた女だからこそ、必死で魔法かけ続けてんだよ、こいつのために…」

 

 戌亥の言葉を聞き、それまで黙っていた行代が口を開く。「…綺麗にお化粧してもらってさ、キラキラの衣装着せてもらって、満員の客席でちやほやされて。魔法の時間でしょ?田舎から出てきた女の子がさ、十二時過ぎても輝き続けるためにはさぁ、ヘアーの一つも出さなきゃ無理なんだよ!」そう言うと食卓に片足を乗り上げ、連れの女を睨み付ける。行代を見つめ、ふんっ、と鼻で笑う女。「本当に魔法なら、そんな必要なんてないでしょ!」コージの反論に、戌亥は声を荒げることをやめ、静かに答える。「じゃあ、呪いだな。」行代も続く。「いくつになってもスポットライトを浴びたい、そういう呪いにかかっちゃったのよ。」「夢見る、呪いだよ…」ムーディーな曲にムーディーな照明。寄り添う二人にスポットが当たる。

 「こっちは呪われる覚悟でやってんだ。着ぐるみひとつで奥歯噛みしめてるやつに、邪魔されたくねえんだよ!……というわけで社長、どうかよろしくお願いします!」すぐにゴマすりモードに切り替わり、社長に頭を下げる戌亥だったが、「無理だよぉ!!!付き合ってるやつらのために金出せるわけないでしょ!!!…帰るぞ。」「社長!」「一生呪われてろよ!」慌ただしく動き出し、組体操のようにして社長のために車を形作る男たち。コージは頭を掻きむしり、焦りながらもどうしたらいいかわからない様子で戌亥や行代と社長のやりとりを見つめる。縋りつく戌亥や行代を無視して車に乗り込む社長。その様を見て驚く戌亥と行代。「社長!このたびは、大変、お見苦しいところをお見せして失礼いたしました!」「何卒、宜しくお願い致します!」土下座をする二人にも構わず、車は発進する。社長たちが去り、暗闇に包まれる舞台。残された三人にスポットが当たる。「あのッ、オラ…!」二人に声をかけようとするコージだったが、戌亥は悔しそうに嗚咽を漏らしながら立ち去っていく。行代は静かに、しかしはっきりとこう告げて戌亥の後を追う。「あんたさぁ、踏み台にすらなれないんだね。」強い強い怒りの篭った声。顔をぐしゃぐしゃにして泣きながら、走り去るコージ。

 

 エンジン音が響く。街に走り出てきたコージ。車を待ち受けると、体当たりで止めて社長を引きずり下ろす。驚く社長を勢いよく殴り、止めようとする周りの男たちに振り回されながら蹴り飛ばし、暴れるコージ。そのまま暗転。

 

【北野邸・地下牢】

 牢の畳に胡坐をかき、呟きながら箒をギターに見立ててつまびくオキナワ。どうやら曲を作っている様子。そこへ北野が現れる。箒をギターに見立てるなんて、よっぽどギターが好きなんだな、と言われ慌てて箒を置き、「出してくれよ」と懇願するオキナワに対し、北野は悠々と答える。「恐喝犯を出すわけにはいかねえ。だが、一人前の作曲家なら別だ。どうだ、俺のところで曲を書いてみねえか。いい曲があればこの北野波平が預かってやろう。」「…お前まさか、そのために俺を閉じ込めたのかよ!一か月も!」「もう、ひと月か…。何もすることのないこの座敷牢の中で、でも何をしてもいいこの座敷牢の中で、お前がしたのは歌を作ることだった。そろそろ自分がそういう人間だということを自覚しろ。」北野の言葉に顔をしかめるオキナワ。「俺は貴様のような負け犬を見捨てることはしない。貴様のような人間のために演歌はあるからだ。だから演歌の王様北野波平は貴様のことを決して見捨てない!」「貴様貴様ってさっきから…!」突如牢に近づくと、鉄柵を握り持ち上げようとする北野。驚いて止めようとするオキナワを振り切り、ついには柵を破壊し持ち上げる。「うわあ!」北野が振り回す柵にぶつからないように避けてまわるオキナワ。「俺は嬉しいんだよ!あああ~~!!!」「怖いよ!」北野は柵を投げ捨て、オキナワに思い切り顔を近づけて『365歩のマーチ』を歌い出す。「じぃ~~んせいは!ワンツーパンチ!汗かきべそかき生きようよぉぉぉ~~~!」オキナワの肩をがっちりと掴む。「…あなたは、いつも素晴らしいィ…希望のォ虹を抱いてぇいるゥ~~~~……」力の限り歌い切り、大の字になって倒れる北野。オキナワはその迫力に気圧され尻もちをついている。

 

 目を閉じ、倒れたままの北野。オキナワがぽつりとつぶやく。「俺、おっさんみてえなやつ、もう一人知ってるわ。面白ぇやつだったよ、そいつも。」「…そうかぁ。会ってみたいもんだなぁ。だがその前に、歌を完成させろ。」立ち上がり、箒に駆け寄るオキナワ。手に取ると、未練を断ち切ろうとするように箒を振りあげ、打ち棄てようとする。しかし振り下ろすのを躊躇い、「…ぅォォおおおおおおお!!!!っドーーーーン!!!」ギターを抱えて振り返る。「かっこいいぞオキナワ!まるで俺のようだァ!」北野の声を受け、箒をかき鳴らすと響くギターの音。北野も壊した柵を担ぎ、オキナワに歩み寄る。ジャジャン!というギターに合わせ見栄を切る北野、背中合わせのオキナワも凛々しく顔を上げる。

 

【収容所】

 「え~…バレーニク?」「ア~惜しいネ!”ヴァレーニキ”。」「ヴァレーニキ」「ソウソウ!」和気藹々と盛り上がる二人の刑事とテレサ。ハイタッチをしたり、先輩刑事とは銃で撃つフリ撃たれたフリをしてふざけあったり、とすっかりと打ち解けた様子で、テレサの祖国の話をしている。「でも行ってみたいな~、ウクライナ。」「お前、その顔でヨーロッパかよ!」刑事のやりとりに思わず吹き出すテレサ。「だって!食べてみたいじゃないすか、ヴァレーニキ!」先輩刑事と同じようにテレサを撃つフリをしてみる後輩刑事だったが、テレサは一転、ぼんやりと寂し気な目をしている。後輩刑事を叩く先輩刑事。「…もう一か月になりますか。祖国に帰りたいでしょう。」肯定も否定もしないまま、微笑んで立ち上がるテレサ。部屋の端、舞台では中央にある階段に歩み寄り、腰掛ける。そんなテレサを心配そうに見守る刑事たち。「…先輩、何か一個ぐらいいいんじゃないですか、他は無理でも、この部屋の中だけでも!」「…ああ、おう、そうだな!」「テレサさん、何かありません?食べたいものとか、したいこととか!」

 

 後輩刑事の提案に、ふと柔らかい表情を見せるテレサ。「…エンカ。」「…演歌?」「エンカ、を聞きたい。」そう言うと、「しらかばァ~…あおぞォォら…みィなァみィかァぜェ~…」澄んだ声で歌い始める。驚きながらも拍手を送る刑事たち。「うまいうまい!」「北国の春、かあ…いい歌ですよね!」切なげに遠くを見つめるテレサ。「…歌詞の意味を知らない時カラ、この歌が大っ好きデシタ…」「メロディーもいいですからね~」「きっと、この歌じゃなくても、好きになっていたかもしれまセン。」言葉を紡ぎながら、テレサの表情に愛おしさが満ちてくる。「歌詞とか、メロディーとかでなく、気持ち、が飛んできたンデス。ワタシ、あの人が歌っている時の、気持ち、を好きになったンデス…」「あの人、って…」「…千昌夫だろう。」刑事たちのやりとりを気にせず、うっとりと語り続けるテレサ。「あの気持ち、あの人が歌っていた気持ちは、ワタシの気持ちデシタ…。じゃあドウシテ、ワタシ、の気持ちが、あの人の中から出てきたんデショウ…」誰に語りかけるでもなく遠くを見つめるテレサ。「…お前、千昌夫の連絡先知ってるか。」「さあ…」テレサの力になれず、肩を落とす刑事たち。

 

【みれん横丁】

 パチパチと焚火の音。みれん横丁はどこかもの寂しい空気を漂わせ、ぽつぽつと姿を見せている住人たちにも覇気がない。そこへ、これまた覇気のない顔をした大野が現れる。「大野のダンナじゃねえか!」住人が声を掛ける。「ここもなんだか寂れちまったなぁ。」「地上げ屋がこんなところまできてさぁ…再開発をするからって立ち退き要請されて、仲間も少なくなっちまった。」「景気の悪い話だなぁ。……じゃ。」「おい、ダンナも何か用事があって来たんじゃねえのか?ダンナもダンナで、ずいぶんと景気の悪い顔してるぜ?」呼び止められると、気まずそうに振り返る大野。「…仕事、紹介してくんねえか…!」それを聞いて、落胆したような表情を見せる陛下。「ダンナにそんなこと頼まれる日がくるなんてなぁ…」世間はカラオケブームで流しの歌う場がなくなってしまった、と嘆く大野。「コージも帰ってきたばっかだしよお…」

 「コージが?コージもいるのか!?」驚く大野の背後から、「いますよぉ~~~!」と間延びした声が聞こえる。辺りを見回すがコージの姿は見えない。「ここです、ここ!」ガサッ!とゴミ袋が飛び散り、ゴミの中に埋まっていたコージが顔を出す。「コージお前、デビューはどうなったんだよ!」「…デビューは、なくなりました。」えへへ、と照れるように答えるコージ。住人たちが口を挟む。「コージ、偉いとこの社長を殴ったんだとよ!」「そんなことするやつだとは思わなかったぜ~」険しい顔で問いかける大野。「…テレサは?」「…国に、帰りました…。」「…そうか…」「はい…」しばしの沈黙。「…オラに残ったのは、冴えない仲間と、落ちぶれた師匠だけです!」努めて明るく話すコージ。「落ちぶれたとは失礼な!」「僕の人生、終わりです…」そう言うと今度はがくん、と項垂れる。「終わりだ、と言ってさっぱり終われるならいいけどな。」大野の言葉に頷く住人たち。「…じわじわと衰えていくから嫌なんだよなぁ。」ニヤリと笑う大野、体を震えさせる住人たち。「やなこと言うなぁ!」

 

 ふと、顔を上げるコージ。「じゅーうぶん、歌いますた。で、届かなかったんです。力不足です。意外とさっぱりとした気持ちです。」ヘラヘラと語りながらゴミの中から立ち上がるコージ。「お前、それ、本当に歌を歌ったのか?」大野の問いかけにも笑みを浮かべて答える。「へ?歌いましたよ!知ってるでしょ、流しで散々一緒に歌ってきたじゃないですかぁ!…それに結構コンテストとかも出てたんですよ?」ふらふら、バーベキュー中の住人
に近づいて串を掴もうとするが避けられ、むくれるコージ。「…俺はプロの流しとして、曲のレパートリーは二千曲はある。…だけど、それって歌か?」きょとん、と大野を見上げるコージ。「歌じゃないならなんなんですかぁ。」「たぶん、楽譜だな。俺の頭の中にあるだけなら、それは楽譜だ。俺の口から零れ出して、初めてそれは」「歌になる!」陛下が答えるが、大野は続ける。「いや、音になる。お前の耳に届く。まだ歌じゃない。お前の心に届く。惜しい!でもまだ歌じゃない。お前が日々の暮らしのあれこれに打ちのめされて、歯を食いしばっているような中で、頭の中にいつの日か俺が発した詞とメロディーが鳴り響いた時、初めて歌になるんだ。」笑みが消え、思い詰めたような表情を浮かべるコージ。「…コージ、自分の歌が果たして歌だったのかなんて、すぐにわかるもんじゃねえぞ。何年後、何十年後かにそれは初めてわかるかもしれない。じゅうぶん歌ったなんて簡単に言うな。」厳しくも温かい大野の言葉に、泣き出しそうになるコージ。「でも、誰に何をどう歌ったらいいのか、もうわからないんですよ…!」

 

 「そんなコージくんに、ぴったりの歌がありまーす!」突如横丁に響き渡る陽気な声。階上に現れたのは、「「…北野、波平!?」」目を丸くする住人たち。「ああ、こんな格好では誰だかわかりませんな。申し遅れました、わたくし、北野、」「「北野波平だぁ!!!」」みな階段に駆け寄る中、流れ落ちる涙をこらえようと必死にうつむいているコージ。サングラスを外す北野と、その横には大橋の姿。ふと、大野の姿に気がつくと、「おお!こんなところでなにしてんだ、大ちゃん!」親し気に声を掛ける北野。「「大ちゃん!!?」」住人たちが驚く中、「そっちこそ、演歌の大御所北野波平が、こんな汚い横丁に何の用があるんだい、平ちゃん!」「「平ちゃん!!?」」気さくに返す大野にまたも横丁がどよめく。久しぶりだなあ!と大野に歩み寄る北野。「…ダンナ、北野波平と知り合いなのか!?」住人の声に答えたのは北野。「知り合いなんてもんじゃあねえよ!俺と大ちゃんは、ライバルだからな!」「「ライバル!!?」」「…ライバルにしちゃあ、随分と差がついちまったけどな。」笑いながら返す大野。「いやぁ歌はどっこいどっこいだ!ただちょっと、俺の方が、色男だったってだけでな。」茶目っ気たっぷりに腰をクイクイと動かしてみせる北野に、周囲の空気も和む。「で、その大先生が何の用で?」大野の問いかけに、コージを見つめる北野。「見てもらいたいものがあるんだ。」大橋が北野に一枚の紙を渡す。コージに歩み寄り、へたり込んでいるところへそれを差し出す。「…曲も詞もオキナワが書いた。これをもらってほしいやつがいるらしいんだが…」「…オラ、受け取れねえです…」「そんなこと言わず、受け取ってやってくれよ!」ずい、と差し出される楽譜から目を逸らすコージ。北野が困っていると、再び階上から声が響く。

 

 「なにもったいぶってんだよ!かっこつけてねーで受け取れよ、この田舎モン!」「っ……。オキナワぁ…!」ついにコージの目からは涙が溢れ出す。ギターを抱えたオキナワが姿を現す。「よお。」「……あぁ。」「デビュー、なくなったんだってな。」「耳が早ぇな…。」「テレサは」「くにに帰ったよ…。」「…おう。」「うん…」「ならもろもろ丁度いい!…お前がなんもかんもよ、夢も希望も女もプライドも、ぜーんぶなくなったらよ!俺とちょうどよくなると思ってたよ。」階段を降りてくるオキナワ。楽譜を掴み、コージに近寄る。コージは再び顔を伏せる。「気軽な気持ちで見るなよ。俺の気持ち全部乗せてある。」「じゃあ見ねえ!」「…いやちょっとは見ろよ。」「ちょっとも見ねえ!」「見ろって!」「見ねえ!」もはや楽譜を押し付けようとするオキナワを必死で避けるコージ。「帰ってけれ!」「ここはもともと俺の横丁だよ!」(「お前のじゃねえよ!」とヤジを飛ばす住人。)「そんな思い背負えねえよ…。オラ、余計なもの捨てて自分だけになって、なのに、自分のことだけで重荷に感じてんだぁ。今さら新しく何かを背負い込むなんて…」「…どした。」「おっかねえんだ!」体を丸めて震えるコージ。「…情けねえこといってんじゃねえ!」コージの胸倉を掴み、殴りかかるオキナワ。逃げ出すコージを追いかけなおも殴りかかろうとする。とっさに転がっていたビール瓶を手に取り、振りあげたところでハッ、と手を止めるコージ。「おう、いい顔してんじゃねえか。そういう顔してる方が好きだぜ。」「…っ!見ねえからな!」「見ろよ!」ビール瓶を手放し、オキナワにつかみかかるコージ。「…おめえが歌えばいいだろ!」オキナワもコージにつかみかかる。「俺じゃダメなんだよ!どんなに思い込めて曲を作ったって、俺一人じゃ客には届かねえ。…俺はな、誰かの助けを借りねえと、自分の思いを伝えらんねえんだよ。」コージから手を離し、立ち上がる。「北野のおっさんも言ってただろ。歌は自分自身でなければならないって。」オキナワの言葉にきょとん、とする北野。「そんなことは言ってない」「言ったよ!」「言ってましたよ。」オキナワ、大橋に続けて否定され、「…じゃあ言った!」と急に開き直る北野。再びコージに向き直るオキナワ。「これを否定されたら、自分の全てが否定される、そんな曲を書いた。なのに、歌う前から否定しないでくれよ。な…?」よろよろと立ち上がるコージ。ようやく受け取ってくれる、そう思い安堵の声を漏らす住人たちや師匠たちだったが、「……堪忍してけろ。」楽譜を受け取らず、オキナワに向かって土下座をするコージ。見下ろすオキナワの顔には、静かな激情が浮かんでいる。「…俺も男だ、一回吐いたゲロは飲みこめねえ。これは置いていくからな!」そう言うとコージの丸まった背中に楽譜を押し付け、立ち去る。「おいオキナワこれ…!」預かっていたギターを渡そうと慌てて歩み出た陛下を、「返せよっ!」と殴るオキナワ。「なんで~!」と言いながら吹っ飛んでいく陛下。

 

 オキナワが姿を消しても、コージは土下座をしたまま、身体は小さく震えている。そんなコージを見つめながら、穏やかな表情を浮かべる北野と大野。「オキナワに言われたよ。俺とコージはよく似てるって。」「奇遇だな。俺も、コージと俺は同じだと言ったことがある。」「あ、そうかぁ!じゃ、大丈夫だな。」「うん。」「どっちに転んでも、歌は捨てない。存分に悩め!」高らかに笑う北野。「あ~、腹が減ったなあ…」と言いながらバーベキューの網に近づく。「先生それは…!」大橋が慌てるもすぐに踵を返し、「よし!肉食いにいこう、肉!この辺にうめえ猪肉食わせる店があんだよ!」北野に誘われる大野を羨望の視線で見つめる住人たち。「お前たちも行くか!」と北野に呼びかけられ、歓喜の声を上げる。「店から苦情が来るくらい、食って食って、食いまくるぞ~~~!」上機嫌の北野に続く一行。これまでダンナと呼んできた大野にも、「大ちゃん!」と声を掛け肩を組む。

 

 一人横丁の真ん中に残されるコージ。皆が立ち去り、しばらくして、ゆっくりと背中の楽譜に手を伸ばす。体を起こし、楽譜をどうしようか逡巡していた、その時。バン!!!と大きな音と共に、建物に立てかけられていた板を蹴倒して中から戌亥が現れる。驚き尻もちをつくコージ。「安心してんじゃねぇぞぉ!!!」そう言ってコージをじっと見る戌亥。睨み付けているようにも見える。「…仕事だ、コージ。前座であの曲を歌え。」「…!だども、行代さんは…」「行代はこねえよ。おめえ一人で歌うんだ。」「…だども、オラ、歌えねえです…」自信なさげに返すコージに苛立つ戌亥。「…コージよお、これは俺が必死で頭下げてとってきた仕事なんだよ。こちらの必死に対しての、穴埋めをすべきじゃねえのか?」「…すいません。」コージを残し、立ち去る戌亥。「…逃げんなよ!」振り向きざまに言い残す。(立ち去ろうとして何かを踏ん付け、あっ!!と嫌な声を出して靴についたそれを地面に擦り付ける。が、数歩歩いたところでまた踏ん付けてしまい、今度は踏んだ方の靴を脱いで投げ捨ててどすどすと立ち去ってゆく。)

 

 今度こそ一人きりになり、地面に落とした楽譜を見つめるコージ。葛藤しながらも、楽譜を掴み、じっと見入る。次第に溢れる涙を拭いながら立ち上がり、楽譜をぐしゃぐしゃと丸めて捨てようとする。手を振りあげて、だけどやっぱり捨てられず、丸めたそれをズボンのポケットに押し込む。そして歩き出すコージ。

 

【収容所】

 階上にはマリアン、アイリーン、橋本の姿。そわそわと何かを待っている。そこへ刑事たちの声が聞こえてくる。「ほら、こっちこっち、こっちだよテレちゃん!」「テレちゃんさん、こっちです!」導かれて現れたテレサ。その姿を見て、歓声を上げる橋本たち。「テレサ!!」「みなさん…!!」階段を駆け下り、駆け上がり、抱擁するアイリーン、橋本とテレサ。マリアンだけは、感情を何とか抑えようとするように、階上の手すりにもたれテレサに背を向けている。喜びの再会を微笑み見守る刑事たち。「テレサさんの供述のおかげで、外国人ブローカーの壊滅に至りました。それなのに結局、強制送還になってしまい申し訳ない…」「いいンデス。」「送還まで、まだ少し時間があります。短いですが、ご友人との時間を楽しんでください。」そう言い残し刑事たちは立ち去る。再び明るい声を上げながら、階段を上がる三人。「他の皆サンは…?」「エドゥアルダさんはパスポート切れてたし、シャオはそもそも偽造パスポートだったからね。ま、ここのどっかにいるんじゃない!?」明るく橋本が答えるが、責任を感じて落ち込むテレサ。「…でもネ!あそこにいるよりはず~~~~~っとマシダヨ!テレサのおかげであたしたち、解放されたんだカラ!」アイリーンの励ましに少し安堵の表情を浮かべる。「ほら、姐さんも」橋本に促され、ちらりとテレサを振り返るマリアン。「…姐サン!」駆け寄り、マリアンを抱きしめるテレサ。マリアンも泣きそうになりながら、しかし、「アイツは…あの男はどうしたんダヨ!」とテレサの肩を揺さぶる。「ここに呼ぶべきなのは、私たちじゃなくて、あの男デショウ!?」宥めようとする橋本とアイリーン。テレサが静かな表情で口を開く。

 「ここにいる間中いつも…いつもいつもいつも、いつもいつもいつもいつも、頭の中でコージの歌が鳴ってマシタ。」穏やかで、幸福感に満ちた顔で話すテレサ。「だったら!!!」「でも、会うのは怖いデス。」瞳を潤ませ、そう告白する。悔しそうなマリアン。「…でも、呼んでも来られなかったみたいよ。」唐突な橋本の言葉に一同が目を向ける。胸元からごそごそと一片のチラシを取り出す橋本。「コージくん、今日これに出るみたいだから。」「プラネット…ギャラクティ、コ!?なにこれ全然関係ないジャナイ!!」覗き込んだアイリーンが憤怒するも、再びチラシをよく見せようとする橋本。「これ、ここ!前座、海驢耕治って、コージくんのことでしょう!?」驚き、チラシを覗き込む三人。

 

【コンサート会場】

 ステージ上、リハーサルを進めるAD。「海驢耕治さん入られま~す!」奥から戌亥とコージが現れる。ADの説明を受けながら、やりとりをする戌亥。「呼びこまれたら出てきて、ここに立っていただいて」「…おう。」「で、曲は…」「カラオケが入ったテープ、渡しただろ。」「…ああ、なんか、30曲くらい入ってましたけど!」「コージ、お前何がいい。」突然話を振られ、おどおどと笑って、「オラはなんでも…」と返すコージ。「なんでもいんだとよ。」「なんでも、と言われましても…」「じゃあ一曲目に入ってるやつ。」「わかりました!では司会者の紹介の後、こちらで…」話の途中で、プロデューサーが姿を現す。途端に態度が変わり、ゴマをすり出す戌亥。「びっくりしたよ~行代が出ないなんて。」「ほんっと~に申し訳ございません。今日はこの、コージが精一杯努めさせていただきますので。」ぺこり、と頭を下げるコージ。「この子一人で大丈夫?」「このくらい無名の新人の方が、プラネットさんの良い引き立て役になると思いまして…」「この後天気が崩れるみたいなんだよね。」「あっ、それでしたらうちのコージはリハなしで、ぶっつけ本番でいきましょう!本番も一番を歌い終わったらブチッとぶっちぎっていただいて構いませんので!」「そう。じゃ、よろしく頼むよ。」「あっ、あの、それでですね、プラネットさんがテレ東で持ってる冠番組、あれにですね、ぜひうちの行代を…」「無理無理!」売り込みが失敗し、舌打ちをする戌亥。コージを振り返り、「せいぜい、ご迷惑をおかけしないようにやれよ。」そう言い残しプロデューサーを追いかける。「…はい。」所在無げに立ち尽くしながら、ヘラ、と笑って答えるコージ。一人で奥へ引っ込んでいく。

 

 会場に振り出す雨。スタッフが客を誘導している。客席の通路に、舞台上部のテラスに、つめかけるプラネット・ギャラクティカの女性ファンたち。(ほぼほぼ女装)「やだ降ってる~~~!ヤンもマーも何も言ってなかったわよねえ!!?」と客席に話しかけるファンあり、興奮して舞台に上がってしまうファンあり(ヨシコちゃん)。自然とプラネットコールが始まり、司会者の登場に歓声が上がる。

 「みなさんお待たせしました!いよいよプラネット・ギャラクティカの登場です!」黄色い歓声。「…の、前に!」どよめき。「フロントアクトとして、演歌歌手の海驢耕治さんに歌って頂きます!」「ふろ、フロント?」「アシカって言った?」ざわめく客たち。「では、どうぞ~!」不穏な空気の中、不安げに登場するコージ。「誰だよ!」「早くプラネット出せよ!」客席の野次に申し訳なさそうに身を縮こませる。空き缶が投げ込まれ、驚き足を止めるコージ。司会者が慌てて缶を拾い、「物は、投げないでください~!」情けない声で懇願する。どんどん激しくなる野次の中、「では張り切ってどうぞ!」と無理やり歌を始める司会者。「…海驢耕治です。では、聞いてください。カラオケの一番目に入っていた曲です。」スタンドマイクに向き合うコージ。「カラオケの一番目ってなんだよ!」イントロが始まってもなお野次がおさまらず、ざわめきの中、『星屑のワルツ』を弱弱しく歌い出す。

 

 「おい!お前ら聞けよ!!!」客席から叫ぶ声。ハッとして目を向けるコージ。スタッフの制止を振り払い、ステージに上ってきたのはオキナワだった。「あいつもっといい歌歌えんの知ってっからさ!」「オキナワ…」「ほら、コージ歌え、歌えよ!!」「オキナワ、もういいから!」唖然とやり取りを見ていた客席だったが、二人が知り合いと気づくとさらに激しく野次を飛ばす。歌え、と急かすオキナワ、飛び交う中傷の言葉。何とかワンコーラス歌い終えると、「すみませんでした…」と頭を下げ、後ろへ引っ込もうとするコージ。「コージ、あの歌歌え!」そうオキナワが呼びかけるも、「…オキナワ、すまねえ。」と踵を返す。「はい、お疲れ様でした~!」皮肉る声と共に、コージの退場を促す拍手が起きる。取り押さえられながら悔しそうに足掻くオキナワ。コージの姿が舞台から消えそうになったその時。

 

 「シャラップ!シャアラアアアアアアアップ!!!!」そう叫びながら客を掻き分けテラスに姿を見せたのは、マリアン、アイリーン、橋本、そしてテレサだった。「テレサぁ!!」目を丸くし、思わず一歩駆け寄るコージ。「どうして…!まだ、日本にいたんだか…?」頷くテレサ。「取り調べ、受けながらいつも、頭の中でコージの歌が流レテタ…」「…いつも…?」泣きそうになりながら微笑むコージ。テラスの手すりから身を乗り出すマリアン。「いつもいつも、いつもいつもいつもだってサ!」唇を噛みしめるコージに、テレサが必死で語りかける。「…さっき、久しぶりにコージの歌聞いたら、全然、ダメになってた。さっきの歌…歌詞もわからないところがアッテ…でも、前はわからなくても気持ちは伝わったヨ。」目をそらさず、コージも懸命に見上げてテレサの言葉に耳を傾ける。「何が足りないんだろって思ったことがアッテ…。そもそもコージには、コージのことだけ頑張ってほしくて。私のために何かを頑張るコージは、見たくなくて。私は私のことを頑張るって…じゃあ私って何?って思ったりして…。…うまく言えないヨ…!」諦めそうになるテレサを、ステージ上のオキナワが励ます。「テレサ、全部言えよ!うまく言えなくていいから!」

 その言葉を聞き、テレサが叫ぶ。「…アーー!」「あぁ…!」「アア…!!!」「あああァーーー!!!」泣きながら叫び合う二人。「なにこれ!」静かに見守っていた客席がどよめくが、構わずテレサが叫ぶ。「それ、さっきの歌、サンハイ!!!」促され、慌てて再び『星屑のワルツ』を歌うコージ。今度は、想いを全て乗せるように、魂を吐き出すように。「今でェも…好ゥきィだ…死ぬほォどォにィ…!!!」その歌声を聞き、晴れやかな笑顔を浮かべるテレサ。「…今ワカッタ。さっきの歌に足りなかったもの、それはワタシ。ワタシです。コージはワタシとコージでコージだから、だからワタシがいないとコージの歌じゃない。ワタシもコージとワタシでワタシだから、コージがいないとワタシもワタシじゃない。」

 

 「…オキナワ…!」驚いて振り返るコージ。「ああ…」オキナワも驚いている。「この歌、テレサと一緒に作ったんだべか?」「違うよ、俺一人で作ったよ!」コージの顔つきが変わる。力強い目で、オキナワに告げる。「…オキナワギター!」「あいよ!一発かましてやろうぜ!」ギターを抱え直すオキナワに、歩み寄るコージ。「…一人で背負わせてくれぶし。」驚きながら、しかしコージの強い思いを感じ取り、ギターを差し出すオキナワ。「ほらよ。安物のギターだからよ、濡らして構わねえぜ。」頷き、ギターを受け取るコージ。再びマイクに向かう。「もう一曲、聞いてください。」そう言うとポケットの中、ぐしゃぐしゃに丸められた楽譜を取り出し、マイクに付ける。客席からは一層酷い野次が飛び、あちらこちらからゴミが投げ込まれる。構わずコージは歌い出す。柱にもたれかかりその後姿を見つめるオキナワ。柵にしがみつきながらコージを見つめるテレサ

 

「ひとりで生きィていィけェるゥのとォ~…つよがり放した手ェだァけェれどォ~…夜と、朝ァの境目あたりに見ィるゥ夢でェ…お前の名前を呼んでいたァ~…」

 雨が降り出し、空は暗くなる。濡れながら歌うコージがスポットライトで照らされる。野次に掻き消されそうになりながら、想いを込めて歌うコージ。

「おォ~い、おォ~い、ねぇ~…届いていィるゥかァ~い…もォっと、傍まで、来ィてくゥれよォ~…心の中まァで、入っておォいでェ~……」

 雨が激しくなる。雷が鳴る。それでも構わず、自分の全てを乗せて歌うコージ。

「俺がァ~…俺と言う時はァ~…俺とォ、お前で俺だからァ~…俺のォ~…俺節ィ…おまァァ、えェぶゥしィ~…」

 じっとコージを見つめていたオキナワが、目を赤く潤ませて視線を逸らす。

「なんでもわかってくゥれェるゥからァ~…必死で隠したこォとォだァけどォ~…くゥじィけ、まみィれェの暮らしの中でェ…お前の影ェをさァがァしィてたァ…」

 テレサはじっと、じっとコージを見つめ続けている。

「おォ~い、おォ~い、ねぇ~…どこまでい、こ、おォ~…もォっとずゥっと遠くまでェ…黙ったまんまで歩こうよォ~…」

 いつしか野次は止み、会場の全ての人間がコージの俺節に聞き入っていた。

「俺がァ~…俺と言う時はァ~…俺とォ、お前で俺だからァ~…俺のォ~…俺節ィ…おまァ、えェぶゥしィ~…」

「俺のォ…俺節ィ…」

 

「すいません!!!」

 突然会場に響く声。歌が止まる。現れた刑事が、無念そうに告げる。「…飛行機の時間です。」「テレサ!」引き留めようとするマリアンたち。テレサを見つめるコージ。テレサは立ち上がり、静かに、優しく、美しく微笑む。コージへ投げキッスを送り、刑事たちと共に会場を去る。ハッとして、コージに向き直るマリアンたち。コージもマイクに向き直る。大量の雨に降られ、それでも次々とコージの頬を伝う、大粒のものが涙だとわかる。

 

「おまァァ、えェ…………、ぶゥ、………しィィィ……」

 

 静まり返る会場に、パチ、パチと拍手が鳴り始める。瞬く間に会場全体に広がり、盛大な拍手に包まれながら、コージはゆっくりと頭を下げる。

 

 

【みれん横丁】

 「『嵐の中必死に歌う姿は、多くのファンの心を打った、素晴らしい歌唱だったといえよう。』」新聞記事を読み上げながら、三人の住人が幕の前を歩いてくる。「俺にも見せろよ!」「これは俺が拾った新聞だ!」「じゃあ早く読めよ!」喧嘩になりながら、続きが読み上げられる。「『これからの活躍が期待される。新人、五人組アイドルの、………プラネット・ギャラクティカであった』…」途端に険しい顔になる三人。「はぁ!?それで終わりかよ!」「コージのことは!?」「どこにも書いてねえよ…」「なんでだよ!!!あんなにすげえ歌、歌ったのによお!!!」憤怒する三人。幕が上がり、誰もいないみれん横丁が現れる。「…俺ちょっと、別の新聞拾ってくる!」「やめとけ!…どうせどこも同じだ。考えてみりゃあよお、まだデビューもしてない新人が、新聞に載るわけねえんだよな…」意気消沈する三人。「…俺ら三人だけでも、よくやったって、褒めてやろうぜ。」「俺らだけか…」

 すると階上に他の住人が現れ、「なんでコージが載ってねえんだよ!」と叫ぶ。ハッ、と見上げた三人の顔が、ぱあっと明るくなる。「…お前らも、見に行ってたのか!?」「当たり前だろ!みんなで金集めてチケット買ってよお…!」さらに他の場所から現れた住人たちも、「おっかしいだろ!」と憤慨している。コージの雄姿を見守り、コージの歌に心を打たれたのは、三人だけではなかったのだ。新聞への文句でにぎわう横丁。「そういや、当のあいつらはどこいったんだよ?」「さあ、見かけてねえけど…」

 

 その時、「おい!来たぞ!横丁の星だ!」双眼鏡をのぞいていた覗き魔の声に、全員が一斉に横丁の奥を見る。いつも通りの姿で現れた、コージとオキナワ。「お前、新聞なんか載るわけねえだろがよお!」「だども、ばっちゃんが…」コージを小突くオキナワも、コージも、どこか嬉しそうで晴れやかな表情を浮かべている。「コージ!!!」横丁の仲間たちが二人に駆け寄る。(いつのまにかプラギャラの応援うちわを取り出している者も。)肩を叩かれ、声を掛けられ、驚いたり、喜んだりしながら歩み出るコージとオキナワ。舞台の一番前に立ち、オキナワに促されると、手に握っていた新聞を高く放り上げるコージ。仲間たちもそれを見上げて歓声を上げ、そして二人並んで腰を落としたコージとオキナワは、揃って顔を上げる。誇らしげな笑顔。キラキラと輝く、希望に満ちた瞳で、まっすぐに前を見つめていた。

俺節 一幕

俺節千穐楽から2か月経ち、ようやくあらすじをまとめることができました…

あらすじと言っても、自分の記憶とメモだけに頼ったものなので、正確性には全く自信がありません。そこはこう、秀でた方のブログなりをお読みいただければと…

ただただ、舞台俺節の中に散りばめられた、登場人物たちの血の通った言葉たち、あの場所で感じたものを、自分の感覚と記憶で残したくて書いたものです。

読みづらい箇所も多々あると思いますが(特にコージの歌唱部分は、聞いたままを残したかったので、字として読むとわけのわからんことになっています…)、あの空間の雰囲気が少しでも伝わればいいなあと思います。

 

 

一幕

 

津軽の駅】

 舞台を覆う幕に映る、激しい吹雪。その前をゆっくりと歩いてくる、腰の曲がった老婆と、後ろから借金の取り立て屋が二人。孫一人育ててる婆さんのところへ毎月取り立てに来るのも気分悪いんだわ、と嫌味を言われても老婆は、「そんなもんだべかぁ!」ととぼけたように受け流す。あの孫、ろくに人の目も見てしゃべれねえやつだったじゃねえか。せいぜい孝行してもらうんだな。そんな取り立て屋の言葉も聞かず歩き出す老婆、悪態をついて去っていく取り立て屋たち。

 吹雪の向こう、駅のベンチに俯き腰掛けるコージ。寒さに肩をビクンと震わせたり、腕をさすったりしながら電車を待っている。幕が上がる。老婆はコージの元へ。「ばっちゃん!」立ち上がり駆け寄るコージ。「ばっちゃん、堪忍な…。」「東京は謝りながら行くとこじゃね。」背負っていた包みをコージに手渡す老婆。「これ…せびろ?…ぜんこどした?…ばっちゃん!」「それさえ着てれば、おめも、一丁前の都会の人間だ。なんも恥ずかしいことはね。恥ずかしいことはねんだ…」「ばっちゃん…」「…おめ、一人か。おめに友達も作ってやれなかったな。」「そんなもん、ばっちゃんが気にすることでね。」ベンチに腰を下ろす老婆。「おめ、東京に何しにいくんだ。」「…オラ、もう負けたくね。笑われんのもこりごりだ。でも、オラんだって武器あるって気付いたべ。世の中、とっくりかえしてやれるもの!」力強い表情に決意が滲む。暗闇へ走り去るコージ。

 

【東京・北野プロダクション前】

 行き交う人々をキョロキョロと眺めながら、背広姿でカバンひとつを胸に抱き歩くコージ。不安、喜び、好奇心が入り混じったような表情。舞台の中央に辿りつき、「海鹿耕治ともうします。なにとぞ、よろしくおねがいします!」と叫び、額を地につけて土下座をする。すぐ傍で談笑し始める男たち。しばらくしてその中の一人が土下座しているコージに気付く。「君、何してんの!?弟子入り希望の人?」「はい!」正座になって男たちを見上げるコージ。目をキラキラと輝かせている。邪魔だからもっとあっちでやって。そんな冷たいあしらいにも「はい!」と威勢よく返事をして、舞台端へ移動し再び土下座をする。しばらくすると、北野先生がおいでたぞ!という声。それを聞いて取り巻きたちが集まってくる。付き人の女性に手を引かれ、『真夏の果実』を歌いながらスキップで目の前を通り過ぎてゆく北野。それを目を丸くして見つめるコージ。ハッと我に返り、声を上げる。「北野波平先生でいらっしゃいますか!?」「おお、そうだよ~」「オラ、先生の大ファンで!」「そうか、それはありがとう!」そう言うと再びスキップで建物の中へ姿を消す北野。「弟子にしてけろ!!」叫んで後を追おうとするコージだが、取り巻きたちに止められる。「今どき演歌やりてえなんて変人、誰も弟子にしたくねえよ!」と笑われ、追い払われそうになる。

 

 そこへ、「まあまあそうつれないこと言いなさんな!」ギターをかき鳴らしながら現れた黒い革ジャン、黒いズボンにリーゼントの男。「その子、かれこれ四時間はそこで土下座してたぜ。たいした根性じゃねえか!…ま、それを四時間見守ってた俺もたいした根性だが。」「優しい人だな…」「よく言われる。」戸惑いながらも、警戒心の無い顏でオキナワを見つめるコージ。「オキナワ!お前よくまた顔を出せたな!」苛立つ取り巻きの男(大橋)がオキナワに詰め寄る。「彼を弟子に!そして俺のこともそろそろ許してください。」頭を下げたオキナワと、追い返そうとする大橋始め取り巻きたちが揉める中、建物から出てくる北野。女性誌の取材なのに男ばっかりじゃないか!と怒っていたが、オキナワに気付くと、「おおオキナワじゃねえか!」と気さくに声を掛ける。「財布泥棒なんかの相手する必要ないですよ!」止める大橋に反論するオキナワ。「財布泥棒なんかじゃねえよ!財布の中身をちょっと拝借しただけで…」「それを財布泥棒って言うんだよ!」言い返されてとぼけるオキナワ。

 

 「さ、先生いきましょ。」大橋に促され立ち去ろうとする北野に、それまで隅の方で体を硬直させ立ち尽くしていたコージが「弟子にしてけろ!」と駆け寄り、土下座をして思いを叫ぶ。「後生です、人殺し以外なんでもします!」人殺しって…と取り巻きたちに笑われながらもコージは続ける。「北津軽郡から出てきました、ばっちゃん置いて、俺には歌しかねって出てきたんす。」ゆっくりとしゃがみ、コージと目線を合わせる北野。「兄ちゃん。兄ちゃんが歌が好きなのはよくわかった。でもよ、ここにいる人間、全員歌しかないんだよ。」と穏やかにコージを諭す。しかし食い下がるコージは、「北野先生以外に本気の人いるように見えねえですけど。」と口走る。「お前ら!言われてるぞ!」愉快そうに笑う北野。怒り出す取り巻きたちに、焦るコージ。「喧嘩売るつもりはねえんです!けんど、こん中で一人でも、本当に歌しかねえって人がいるなら……会ってみてえから、一歩前へ出てくんねえか!?」立ち上がり、勢いよく取り巻きたちの方へ踏み出す。どよめき、後ずさる取り巻きたち。

 緊張感ある睨み合いの中、やりとりを眺めていたオキナワが豪快な笑い声をあげる。「お前面白えな!面白えよ!おい、北野のオッサン!一曲、一曲歌わせてみようぜ!それで決めりゃいいじゃねえか。」大橋が止めようとするも、「もうお前も、こいつの歌が聞いてみたくなっちゃってんだろ?」と説得して、コージに歌うチャンスを与える。「『なみだ船』でいいか。歌えんだろ?」「はい!」力強く答えるコージ。意を決して、オキナワのギターに乗せて歌い出す。「涙のォォォォォ…」力を込めた声で歌い出すが、北野たちの方を振り向くと、声が出なくなってしまう。喉を押さえ、挙動不審になるコージ。「…もう一回だな?」仕切り直そうとギターを弾きだすオキナワだったが、コージが慌ててギターのネックを掴んで演奏を止める。「なんだよ!!」「みんな、見てるからちょっと…。」「はぁ!?」「人前で歌うの、めぐせくて…」モジモジとはにかむコージ。「めぐせえってなんだよ?」そんなやりとりをしている間に北野は立ち去り、大橋からはもう来んなよ!と釘を刺され、取り残されるコージとオキナワ。

 

 「なんなんだよお前!」「…いっつもだ…!いっつも同じこと繰り返してきた…」頭を抱え、地面に崩れ落ちるコージ。あまりの落ち込みように思わず、「まあ…そんなに落ち込むなよ。」と励ますオキナワだったが、「オラじゃなくてアンタが歌えばよかったんだ!」と逆上するコージ。「俺はこっち専門だからよ!」とギターを掲げるオキナワ。「北野は自前の作曲家集団抱えてるからよ、俺も入り込んでやろうと思って弟子入りしたんだけど、まあいろいろあって…クビだ。」「いろいろって…?」コージの疑問をさりげなく流し、「よし、飲みにいくぞ!」と誘うも、土下座をしたままのコージ、「ぜんこがねえす…。」「なんだよ!」オキナワの大声にビクッと体を震わせる。「ついでに宿も…」と恥ずかしそうに笑う。少し考えた後、「ようし!俺の城に連れてってやるよ。東京で一番の場所だぜぇ。」そう明るく呼びかけ、張り切って歩き出すオキナワ。コージのカバンを掴み、投げてよこす。慌てて受け止めたカバンを抱きしめるコージ。「迷子になんなよ!」と先導するオキナワの後に続き歩き出す。

 

【みれん横丁】

 ボロボロの建物が寄せ集められた通りに、ボロボロのなりをした住人たちが姿を現し、『みれん横丁のテーマ』を歌い出す。「良いも悪いも、あきら~めて、苦笑いで、飲もう…」歌の最後には諦めとやりきれなさが漂う。そこへオキナワが現れ、俄かに活気づく住人たち。「北野波平に許してもらえたのか!?」「俺の伝授した土下座はしたのか?」口々に声を掛ける。オキナワは「懐のちっちぇー野郎ばっかだぜ。」と不満げかつどこか自慢げに語る。その後ろについてきたコージは、住人たちから白い粉を売りつけられそうになったり、足を踏んだと因縁を付けられたりと散々に絡まれ困っている。「見ねえ顔だな。」「身ぐるみはがせ!」もみくちゃにされたところをオキナワが止める。「そいつは俺の友達だ!」「オキナワの友達でも、俺らの友達じゃねえからな!」再びもみくちゃにされそうになったところで、「落ち着きたまえ諸君!」と声を上げながら登場したのは、軍服を着た小太りの男。

 「陛下!」さっと手を引く住人たち。「陛下…?」「横丁の陛下。皇族の生き残りを名乗ってるが、まあ、結婚詐欺師だ。」オキナワがこっそりとコージに説明する。お前たちも行く場所がなくて初めてここに来た時、仲間として受け入れてもらったから今があるんだろう?と住人たちを諭す陛下。確かにそうだった…と納得する住人たち。酒箱の上に乗り、親愛のしるしに、と、手に持っていた袋から肉の串を取り出し、コージに手渡す陛下。「…ばんべきゅ?…いんだべか!?」おずおずと手を伸ばすコージ。集まってきた住人たちに囲まれ見守られながら、オキナワに促され、肉を口に入れる。「…おいしいです!」笑顔で答えるコージに、一気に場の空気が和む。「それで、これは何の肉なんです?」車のブレーキ音。何かにぶつかる鈍い音。住人たちが一斉に振り向く。「あっちで犬が轢かれたぞ!」「何犬だ?」「秋田犬だ!」「よーし、とってこい!バーベキューだ!」目を丸くして、みるみる青ざめるコージ。口元を押さえ、走り出した住人たちにぶつかりフラフラとよろける。これでコージも仲間だな!と喜ぶ住人たちをよそに、ゴミ箱の蓋を取り、勢いよく嘔吐するコージ。ぐったりとその場にへたり込んでしまう。

 

 「おい!すっげえもん拾ってきたぞ!外人の女だ~!!」両手両足を掴まれ、運ばれてくる金髪の女。それがテレサだった。俄かに沸き立つ男たち。「順番を決めよう!」陛下の一声でテレサの前に一列に並び、最前列の男がズボンを下ろす。たどたどしい日本語で必死に「やめてクダサイ」と懇願するテレサに構う様子もない。が、「ちょっと待って!…病気持ちかもしれない!」と騒ぎ出す最前列の男。「よし、コージに味見させよう!お前、ズボン脱げ!」と明るく提案するオキナワ。えぇっ!?と戸惑って後ずさりするコージをまたもやもみくちゃにして、無理やりズボンを脱がせようとする住人たち。

 大騒ぎになっているところへ、子分を従えたヤクザが登場する。「おーいたいた!」ドスの効いた声に住人たちは動きを止める。「悪いな、こいつはうちの商品なんだ!」子分がテレサを捕まえる。「お前ら、まさか一緒になってこいつを逃がそうとしてんじゃねえだろうな?」睨まれて否定する住人を、子分がコージの目の前すれすれで殴り飛ばす。驚き怯え、座り込んだまま動けないコージ。子分たちに引き摺られ、連れていかれるテレサ。「助ケテ…誰か助けてクダサイ…」泣きながら救いを求めるが、誰も動こうとしない中、ただひとり。コージだけが、うずくまり呻き声を出して葛藤した末、「ちょ、ちょっと待ってください!」と声を上げる。「あは、なんだかうまく言えないけど…このままその人連れていかれるの、オラなんか嫌だなぁ。」へら、と笑みを含みながら立ち上がるコージ。慌てて止めようとするオキナワ。「ああいう方たちには逆らわない方がいいんだよ。」「東京じゃそうだべか。」「おおそうだよ、お前の田舎でもそれは同じだろ?」「んだな。どこでも一緒だな!」途端に牙をむいて殴りかかろうとするコージ。それでもオキナワがなんとか止め、「すいません!どうぞ行ってくだせえ。」と頭を下げるも、「いや、俺はなんかムカついたなぁ!」と戻ってくる子分、そのまま勢いよくコージを殴る。「おい、もっとやってやれ。」というヤクザの一声で、殴られ、腹を蹴り飛ばされるコージ。間に入ったオキナワも殴られる。「テレサ!勝手なことをすると、見ず知らずの方々にも迷惑がかかるんだぞ!」「ハイ、スイマセン、スイマセン、帰りマス、帰りますカラ…」目の前でコージたちが痛めつけられる姿に、ショックを受けるテレサ

 フラフラの状態で、オキナワに首根っこを掴まれ、一緒に土下座をして謝るコージ。「すいませんでしたぁ!」「すいませんでしたぁ…」立ち去り際、オキナワに蹴りをまた一つ、コージには唾を吐きかける子分。コージの体に力がこもる。「まてぇ…」「…あン?今俺に言ったか?」「謝れぇ…」「なんでお前に謝らなきゃなんねえんだよ!」再び殴られ倒れ込むが、ゆらゆらと気迫がのぼるように立ち上がるコージ。「オラにでね。せびろに謝れ。ばっちゃんのせびろに謝れ!」「…殴られすぎて頭おかしくなったんじゃねえの?」「オラこの背広にくにしょってんだぁ。これだば二度とばっちゃんに顔合わせられねえべさ!」殴られても殴られても立ち上がるコージ。「謝れ!やんだば、殺せぇ!」叫んだ直後、背後から頭を強く殴られる。目を回しながらもなんとか耐えて、ふらふらと鉄柱に身を預けるコージ。「ホームレス殺して捕まっちゃたまんねえよ。」と引き上げようとするヤクザたちを呼び止める。

 「今度はオラの番だ。今度はオラが、オラの武器で、おめぇらを殴るべ。」目を閉じ、天を仰ぐコージ。「……凍てつくゥ…よお、おォなァァ…港でェ…ひとォりィィ…」腹の底から響いてくるような低い声で、『港』を歌い出す。思わず足を止めるヤクザたち。息をのんで見守る住人たち。「あんたのォォォ…帰ェりィをォォ…待ァァァってェ…おりますゥゥ…」歌いながら、オキナワの方へ手を伸ばすコージ。ハッとしてギターをたぐりよせ、コージの歌に合わせてかき鳴らすオキナワ。「流氷ォ…来る前にィ…帰ってェ…来るゥとォ…言ったァ…あんたのォ…ことば信じィ…」コージが歌いながら振り向くと、ヤクザたちもビクッと体を震わせる。気迫あふれる歌声とギターの音だけが響き渡る。「きょォォもォ…日がァ暮れるゥ…渡り鳥さえェ…眠れぬ港ォ…!」「「あァ~ァァ、北のみなァ~とまちィ~!」」コージの思いに引っ張られるように共に歌う住人たち。「冬待つゥ………おォォ、んンゥ、なァァァァァ…!!」叫ぶように歌い終えると、目を回して体を投げ出し、倒れ込むコージ。我に返り再びコージに殴りかかる子分たちを止めるヤクザ。「…二番まで聞いたら、謝っちまうとこだったぜ。」そう言い残し、助けなきゃ、と言うテレサを引き摺り、連れて行くヤクザたち。同時に、コージ!と駆け寄る住人たち。「死んだかぁ…?」「よし、身ぐるみはがせ~!」性懲りもなく飛び掛かるのをオキナワが止める。「治療だ!」と皆でコージを担ぎ上げると、横丁の奥へ運んでゆく。(運びながら住人の誰か 5/30「しょんべんかけとけ!」6/1「酒かけとけ!」)一人残ったオキナワは、興奮した表情を浮かべ、皆の後を追いかける。

 

【ストリップ小屋】

 『カスバの女』を歌うマリアンと、周りで踊る踊り子たち。小屋はショーの真っ最中。テレサが慌てて裾から現れ、踊り子たちに合流する。激しくビブラートをかけ歌い上げるマリアン(踊り子たちもすごい揺れてる)だったが、ショーが終わると「誰も聞いてないヨ!」と憤慨しながら楽屋へ引き上げる。一方こちらも怒り心頭のエドゥアルダ。「見タ!?見タヨネ!?あれ絶対そうダヨネ!?正面のオッサン、盗撮してたヨネ!?」「エドゥアルダちゃん?ここのお客さんほとんどオッサンダカラ~」とアイリーンが嗜めようとするも怒りが収まらない。「ワタシが股をパカーッ!と開いたら、カバンをグググーッ!と近づけるの。あれ絶対カメラ入ってタヨ!」「そういう時はサ、あえて、こっちから近づいていくンダヨ!」マリアンの言葉に皆が集まる。「そしたら相手もアタシのアタシを覗き込んでくるから、しょんべんひっかけてやればいいのサ~!!」「そんなに都合よく出まセンヨ~!」とアイリーン。「三十年踊ってれば、舞台の上でできないことなんてナイネ~!」張り切って踊り出すマリアン。踊り子たちに向けてM字開脚、から腰を振りあげてみせる。賑やかな雰囲気の中、天真爛漫に尋ねるシャオ。「あれェ?マリアン姐さんってなんしゃいでしたっけェ?」「シャシャシャシャオ!!」アイリーンが慌てて止めるも時すでに遅し、凍り付く楽屋。恐る恐る、M字開脚したままのマリアンを見る面々。「…その質問に答えたら、世界から戦争が無くなるっていうんなら、教えてあげてもイイケド。イイケド~!」腰を振りあげながら答えるマリアン。

 

 「だ、大丈夫デスッ!わ、私トイレ…!」シャオが慌てて扉を開けると、小屋主が立っている。「ま、マネジャ…」「お前も無断外出かぁ?」「違いますトイレデス!」弁明するも、手持ちのティッシュ箱で頭を叩かれるシャオ。「ダメだ!ウクライナみたいなことになりかねないからなぁ!」そう言い、踊り子たちを見回す小屋主。「エビバディ!わかってますか!?そこのブラジルコンビ!」突っかかろうと近づくマリアン、止めようとするエドゥアルダ。マリアンも思い切り叩かれる。「フィリピン、アンダスタン!?」「ファイ!!」全力で返事をするも叩かれるアイリーン。「福建省!」答える間もなく叩かれるシャオ。小屋主はテレサにも詰め寄ろうとするが、橋本が立ちふさがり宥める。「橋本さん…君は僕の味方だよねぇ?」「え?い、いえいえいえいえ!」慌てて否定する橋本の胸倉をつかむと乱暴に口づけ、挙句グーで殴って卒倒させる小屋主。どでーんと仰向けに倒れる橋本さん。「エビバディ、アンダスタン!?」「…ハイ」「ハイッ」「ファイ!!」「…グッ!」満足げに楽屋を去っていく。

 

 「橋本さん!!」駆け寄る踊り子たち。エドゥアルダがテレサを叱責する。「バカなことするからこれダ!」「ハイ…」「パスポート取り上げられてるのに逃げても無駄ダヨ!」「ハイ。」さらにマリアンも続く。「まだまだお金稼ぐんデショ!?」「ハイ…」「そのために仕事頑張るんデショ!?」「ハイッ…!」俯きながら返事をするテレサを、「はい、はい、はーい!っテ!いろんな返事するようになったネ、テレサ!」「日本人ミターイ!」と揶揄するアイリーンとシャオ。堪えきれず呟きを漏らすテレサ。「…ワタシはお金を稼ぐヒト。家族はお金を使うヒト…」「そんな言い方!」咎めるようなマリアンの声にハッとする。「スイマセン…」「別に私に謝らなくてもいいけど…」「いえ!皆さんにも、一度、ちゃんと謝りたいと思っテ…」床に平伏し謝罪するテレサ。「このたびの件につきましては、すべてワタクシの不徳の致すところでゴザイマス!」踊り子たちはしばし呆気にとられた後、「…テレサ堅いヨー!」「どっかのシャチョさんに冗談で教えられたんじゃナイノ~」と笑い出す。「もういいんだよ。お腹空いた!出前頼む人!」エドゥアルダの提案に、皆ドヤドヤと畳の上に集まる。テレサを励ますように肩を抱き、注文を聞くエドゥアルダ。(テレサの注文 5/30「おまかせ」 6/1「辛いの」→エドゥ「辛イノッテ!!」 6/8「麻婆豆腐」→エドゥ「蕎麦屋に麻婆豆腐あったっケ…?」 6/10「コンニャク」→「コンニャクコンニャク!?コンニャクなんかナイヨ!!」 6/18「もんじゃ焼き」→「もんじゃ焼き。ねえヨそんなもん蕎麦屋にバカ!!」 6/30「白子ポン酢」→「白子ポン酢。…居酒屋メニューじゃネエカ!!」)

 ワイワイと話す踊り子たちに背を向け、座り込んだまま小さく鼻歌を歌うテレサ。横丁で聞いた、『港』のメロディーだった。それに気が付き、ニヤニヤと近づいてテレサを囲む踊り子たち。「…いいメロディーだネ!」と声を掛けるマリアン。パアッと顔が明るくなるテレサ。「この曲、知ってマスカ!?」「名前は知らないけど…演歌、ってやつだネ。」「エンカ……」うっとりとその言葉を口にする。「…エエンカ?」「エエノンカ?」自らの胸をわさわさと触りながらふざける踊り子たち。大声で笑いながら暗転。

 

【みれん横丁】

 「I love you~♪OK~…暇、すぎるぜェ~~~♪」横丁の階段に腰掛け、ひとり弾き語るオキナワ。階段の上から住人(殺し屋)が現れる。「オキナワかぁ。コージどした。」「放火魔に紹介してもらって働きにいったよ!」ふてくされている様子のオキナワ。立ち上がり階段を降りる。「お前も働け~!」「俺はまだ二百五十円も持ってんだよ。」ポケットから取り出した小銭を見せつけると、目を丸くする殺し屋。「どうしたそんな大金!?」「へへ…俺とコージがデビューすりゃ、この何百倍も稼げるんだぜ!」目を輝かせながら話すオキナワ。「だけどコージはあれから一度も歌えてねえじゃねえか。」殺し屋の言葉で再び面白くなさそうな表情に戻る。「…めぐせえんだとよ。」「めぐせえ?」「恥ずかしいんだって!呆れるわ。」言い捨てるオキナワを諭すように語り掛ける殺し屋。「…なあ、オキナワ。俺この横丁でそんなやついっぱい見てきたぜ。自分に自信がなくて、なんか生きてるだけで恥ずかしいんだよな。…お前が、一人前にしてやれよ。」

 

 階段上、二人が話している反対の方から、工事現場用の上着を羽織ったコージと住人たちがガヤガヤと帰ってくる。「くせぇか!」と嬉しそうに体のニオイを嗅がせているコージ。住人たちにもすっかりと馴染んでいる。「オキナワ~!こっちさ来て、労働者のかぐわしきにおいを堪能しろよぉ~。」上着の前をがばっと広げ、体を揺らしてアピールするコージ。「や~だよっ。」「なしてさぁ~!この、汗と泥とこのホコリのにおいこそ、この横丁のにおいだべな!」両腕でガッツポーズをするように天を仰ぐ。コージもすっかりこの横丁の仲間だ!あの歌歌おうぜ!と住人たちから声があがり、『みれん横丁のテーマ』を皆で歌い出す。が、歌が始まった途端、はにかんで所在なげに体を縮こませるコージ。おいどうした、お前も歌え!と声を掛け、再び歌い出す住人たちだったが、コージは困り笑いで逃げ出してモジモジと壁に身を寄せる。「プロ目指してるやつはこんなとこで歌わねえかぁ!」「いや、オラは…」「こいつめぐせえんだとよ。」呆れ半分で助け舟を出すオキナワ。

 

 そこへギターを背負った一人の男がふらりと現れる。「あれ…大野のダンナじゃねえか!?」歓声を上げ、我先にと階段を降りて男に駆け寄る住人たち。ぽかん、とその様子を見つめるコージと、面白くなさそうに階段を上りコージの傍で胡坐をかくオキナワ。殺し屋も階上に残り、大野に歌を請う住人たちを見ている。陛下が一歩歩み出て仕切り出す。「お前たち!ダンナはプロとして歌ってらっしゃるんだ!タダで歌ってもらおうとするなんて失礼だろう!ダンナはいくらでやってるんでしたっけ?」「三曲千円。」「よし、金を集めよう!私が三百円カンパする!」おお、というどよめき、各々取り出した小銭を陛下に預ける。「集まりました、三百二十六円!」(金額が違う日あり)「足りねえじゃねえか!お前ら日銭稼いできたんだろう?」「いや、飯代は残しとかねえと…」へへへ、と笑う住人たちに、「じゃあ歌なんか聞いてる場合じゃねえな。」と呆れて立ち去ろうとする大野、しかし住人たちが縋りつく。「ただ飯食って荷を引くだけなら馬や牛と一緒だ!昼間の俺たちは動物だよ、畜生だよ!でも日が暮れて、一杯やりながら歌を聞く…その時ようやく人になれるんだ。牛や馬は歌聞かねえからな!」「ダンナ、俺たちを人間にしてくれ!」

 住人たちの悲痛な叫びに、しばしの沈黙の後、「…五木ひろしでいいか?」とギターを構える大野。わあっと歓声が上がる。大野の歌う『暖簾』に、皆じっくりと聞き入っている。訝し気な顔で見守っていたコージもまた、歌が始まると表情が変わる。大野の歌に聞き入り、今にも泣きそうなくしゃくしゃの顔になっていく。歌が終わり、住人たちが熱い拍手を送る中、コージが呟く。「オキナワ…あの人、変わった人だな…」「確かに、髪型と眼鏡と顔のバランスが絶妙だな。」淡々と返すオキナワに、「そうでなくて!まだ挨拶もしてねえのに、オラのために歌ってくれた…」感無量の様子で話す。だが住人の一人が「ダンナ!俺嬉しいよぉ…俺のために歌ってくれて…」と声を上げると驚き、納得のいかないような顔をして身を乗り出す。他の住人たちも次々と「バカ言え!ダンナは俺のためだけに歌ってくれたんだよ!」「いや、俺のためだ!」「俺だけのために歌ってくれたんだよ!」と主張し争い始める。コージも慌てて立ち上がり、手を上げて入っていこうとするが蚊帳の外。(片手を振ってみたり、両手を振りながらぴょこぴょこと跳び上がってみたり。)そのうちにもみくちゃにされる大野。オキナワも下に降りてさりげなくその混乱に混ざりこむ。

 

 大野が住人たちを振り払って立ち去ると、「なんだよ、みんなしがねえ流しの歌ありがたがっちゃってよぉ。」と悪態をつくオキナワ。「いい歌だったけどなぁ…」思い出しながら、ほわん、としゃべるコージに、「コージ!飲みに行こうぜ!」と声を掛ける。「でも、ぜんこがねぇ。」そう言われると、財布を取り出して自慢げに掲げるオキナワ。「それ…!」「おい、お前!財布盗んだだろ!」怒りながらどかどかと戻ってくる大野。「やべぇ」サッと財布を隠し体を硬直させるオキナワ。しかし大野は別の住人をスリだと勘違いして追いかけていく。その隙に、軽やかに階段を上るオキナワ。コージの肩を抱き誘う。「たまにはぱーっとよぉ!景気のいい店行こうぜ!」「へぇ?」戸惑うコージ。殺し屋が「じゃあ、お言葉に甘えて…」とついていこうとすると、二人で振り返り、手を振ったり苦笑いをしたりしてやんわりと断る。

 

【ストリップ小屋・舞台】

 照明を薄暗く落とした店内。営業終了のアナウンスにも構わず、中央に張り出すステージ脇に丸椅子を並べ、何かを待つ客の男たち。その声に応えステージへひらりと上がる小屋主。「お待たせいたしました!当店自慢の踊り子ちゃんたちと夢の六十分!トゥナイトがっちりはめまショー!」盛り上がる客たち。そこへオキナワとコージがやってくる。「オキナワ、この店…?」不審げな顏をするコージを、強引に丸椅子に座らせるオキナワ。小屋主の卑猥な紹介と共に幕が上がり、ステージにエドゥアルダが登場する。凄みのある形相で客を睨みつけて回るエドゥアルダ。「エドゥアルダちゃん、笑顔っ!」小屋主に小突かれ、自己紹介と共に無理やりな笑顔でポーズを決める。だんだん険しくなってゆくコージの顔。ステージ上のエドゥアルダは見ないようにしながらも、興奮してステージに手を伸ばす隣の男の腕をはたいて止め、睨み付ける。(オキナワ、代わりに手を合わせて謝る。)コージだけが嫌悪と憤りを滲ませる中、「まずは五千円から!」エドゥアルダの競りが始まる。金額が徐々に上がっていくと、立ち上がって帰ろうとするコージ。「オキナワ…見損なったど。」「まあまあ、職業に貴賤なしって言うだろ?」「でもこんなのおかしいべ!」怒りをあらわにするコージを宥め、肩を掴んで再び着席させるオキナワ。そうこうしているうちに競りは進み、「八千円!」「他にありませんか?ありませんか?それでは、そちらの野球帽のお客様、エドゥアルダちゃん、お買い上げ~!!」野球帽の男に蹴とばされながら、一緒にステージの裏へ消えていくエドゥアルダ。

 

 次に呼び込まれたのはテレサ。「…けえる。」ステージ上のテレサを見ることもなく、再度立ち上がり、ずんずんと出口へ向かうコージ。競りが始まる。小屋主が最低額を告げる前に「一万円!」と声が上がり、盛り上がる客席。オキナワに呼び止められ、憤怒の形相で振り返るコージ。ステージ上に不安げに立つテレサの姿が目に入ると表情が一変、驚愕し、食い入るようにテレサを見つめながら、一段ずつ階段を降りステージに近づく。競りは過熱して行き、タンバリンを首にかけた男が一万五千八百円をコール、他の客は悔しそうに財布を覗きながらも、それ以上の額を付けることができない。コージも頭を掻きむしり焦りの表情を浮かべるが、声が出ない。「では、一万五千八百円で、こちらのお客様に決定です!」小屋主がそう告げた直後、「…一万六千!!!」静まり返る店内。皆が、叫んだコージを振り返る。「オラが、一万六千円払うべ、だから…」顔を見て、それが横丁で自分を助けようとした男だと気づくテレサ。「ではこちらのお客様に決定ということで…」小屋主が言うと、タンバリン男は猛然と怒り出し、さらなる高値をつける。コージも負けずに「二万!!!」噛みつくように値を上げていく。(細かく額を刻もうとする男に対し、一度に数千円単位で値段を上げていくコージ。)両者睨み合い、周りの客も盛り上がり、一気に白熱する店内。客の一人がタンバリン男に「兄ちゃん、五千円くらいだったら貸すぜ!」と助け船を出すも、「三万!!!」コージの勢いは止まらない。慌てて止めに入るオキナワ。「おいコージ無理すんなって!お前そんなもってねえだろ?」それでも興奮しステージに向かおうとするコージ。小屋主に本当に金を持っているのか疑われ、言葉に詰まるコージ。代わりに、そんな金は持っていない、と謝るオキナワ。「…ではこちらのお客様、一万五千八百円で落札でございます!」小屋主がタンバリン男の方に身を翻し、競りが決着を迎えようとしたその時。

 「貸シマス!!!」…静寂。手を上げて勢いよく叫んだステージ上のテレサに、そろそろと皆の視線が向く。「…ワタシ、貸シマス、お金。」再びそう告げ、コージを見、手のひらを向けて、あなたに、と示す。テレサの不安でいっぱいだった表情が、強張ってはいるが笑顔に変わる。見つめ合い、頷くコージ。ステージに片足をドン!と乗せ、手の平をめいっぱい広げて威勢よく叫ぶ。「五万!!!!!」再び静寂。客も小屋主も展開を見守る中、タンバリン男が口を開く。「…それは無理だよ~~~!そこで俺が『六万!!!』って言ってもさぁ~~、なんか違うじゃん!気持ちがそっち向いちゃってるじゃん!!」情けない声で抗議する男。テレサとコージは見つめ合い、束の間喜びの表情を浮かべる。「テレサ、それはねえよ…」と小屋主がテレサを咎め、腹を立てたタンバリン男は、「いいよいいよ!その子、金持ってないんでしょ?こうなったら嫌がらせで抱いてやるよ!」ステージ上に一万五千八百円を叩き付ける。改めてタンバリン男の落札を告げる小屋主。テレサの肩を抱き、ステージ裏に連れて行くタンバリン男。コージを振り返り、後ろ髪引かれながら暗闇に姿を消すテレサ

 

 諦めきれない様子のコージ。小屋主が金を拾っている隙に、幕の裏に駆け込んでゆく。すぐに、タンバリン男と腕を掴み合いステージ上に出てくる。「なんなの君は!」「堪忍してけろ!」「怒ってないから、ついてこないでよ!」「歌で、堪忍してけろ!」「歌ぁ?」「五万円ぶん歌うから、それで堪忍してけろ!」男の胸倉を掴んで嘆願するコージを、店員が二人がかりで引き摺り出そうとするが、タンバリン男がそれを止める。「いいよいいよ~!俺、聞いてみたいもん。五万円分の、う・た!」明らかに馬鹿にしている男。「歌ってみろよ、青年!!!」店員を振り切り、気迫の滲む形相でオキナワのもとに歩み寄るコージ。「オキナワ!…『北国の春』。」「…ああもう、どうなっても知らねえぞ!」

 ギターが鳴り響く。瞼を閉じ、意識を集中させるコージ。目を開き、「しらかばァ~、あおぞォらァァ、みィな~あみかァぜェ~」グッと力を込めて歌い出す。周囲の人々も息をのんで聞き入る。…が、客たちの方を振り返った瞬間、喉が詰まったように声が出せなくなるコージ。「……っ!」コージが歌えないと見るやいなや、店内の緊張が解け、「おい、連れてけ!」再びつまみ出されそうになる。コージは暴れ出し、他の客や小屋主を巻き込んでの掴み合い、殴り合いが始まる。殴られ倒れては立ち上がるコージ(相手の股間を掴んだり、腕に噛みついたりと泥くさく戦う)、援護しようとするオキナワ、その隙にタンバリン男に連れて行かれそうになるテレサ。小屋主までもが手にしているマラカスで客を蹴る殴るの大騒ぎ。舞台袖からその様子を覗いていたアイリーンが姿を現し、倒れたコージをさらに殴ろうとする男の後頭部を、カバンで思い切り殴って助ける。橋本はテレサに駆け寄ると、アイリーンと二人がかりで男から奪い返し、コージとオキナワも連れて裏へ逃げようとする。その寸前、コージは倒れていたタンバリン男の胸倉を掴み、その耳に向かって「あのふゥゥるさとへ、かえろかなァァ~!かァァァえろォかァなァァァ!!」叫ぶように歌う。なんなの!うるさいよ!と苦悶する男を床に打ち棄てて、踊り子たちとオキナワと共にステージの裏へと姿を消すコージ。

 

【ストリップ小屋・楽屋】

 壁に耳を付け、外の騒ぎを聞いているシャオとマリアン。シャオが様子を見に行こうとドアを開けると同時にアイリーンが顔を覗かせ、意味ありげな笑顔を浮かべる。直後コージ、オキナワ、テレサ、橋本が部屋に雪崩れ込んでくる。アイリーン、橋本、シャオはすぐまた外の様子を見に出ていく。「ここにいれば、外よりは安全ダカラ…」テレサに言われ頷くコージ。露出の多い衣装姿のマリアンを見て、慌てて目を逸らす。「どうぞ、座ってクダサイ。」振り向いて、じっと見ていたマリアンと目が合うテレサ。「はッ!」と鼻で笑うマリアン。オキナワ、それを見て「はッ!」とマネしてコージに鼻で笑ってみせ、ためらうことなく座敷に腰掛ける。一方はにかんで部屋の端に立ったままのコージに、急いで座布団をはたいて階段に置き、どうぞ、と勧めるテレサ。おずおずとそちらへ向かうコージ。自分の分も用意されると思い立ち上がるオキナワだったが、テレサはコージのことしか見ておらず、あえなく同じ場所にまた腰を下ろす。「さっきは、アリガトウゴザイマシタ。」「ううん、オラは何も…」「お茶、飲みマスカ!」「あっ、おかまいなく…」お互いもじもじと照れ笑いしながら会話する二人。

 

 勢いよく楽屋のドアが開く。入ってきたのは目の周りに大きな痣を作り、衣装も破れボロボロな姿になったエドゥアルダ。「あンの、変態野球帽!!」怒りを込めて叫ぶ。「お疲レサマ~!」驚く様子もなく声を掛けるマリアン。しかしコージは目を丸くし、口を手で押さえて驚くと、勢いよくエドゥアルダに駆け寄る。「大丈夫だべか!?」「ダレ!!??」思い切り不審がるエドゥアルダ。オキナワが間に入り、コージを引き離す。「オキナワ、あの人怪我してる!」「そうだな。」「救急車…救急車呼ぼう!」「呼べねえんだよ!」「なして!」「不法就労だからだよ。」「いいのいいの!よくあることダカラ!」マリアンが割って入る。「客もみんなわかってんダヨ、私たちが何も言えないッテ。わかっててやってんダヨ。」(その後エドゥアルダと手当てをするマリアンのやりとり 6/8マ「唾つけたからすぐ治ルヨ」エ「お姐さん唾ツケタノ!?痛いし汚イヨ!!」 6/18エ「唾ツケタノ!?ばっかじゃネエノ!?」) 

 「わかんねぇべ…」もどかしそうにオキナワに詰め寄るコージ。「違法なんだよ。いちゃいけねえ人たちってこと。」オキナワの言葉に、悲し気な微笑みを浮かべる。「そっか…じゃあオラたちと一緒だな。」「一緒じゃねえよ、俺たちは合法!」「でも、どこにいても、いちゃいけないとこな気がしてるべ…」「…言ってる意味がわかんねえよ。」コージの言葉に苛立つオキナワ。「ワカリマス。」静かな空気の中、テレサの声が響く。「ワタシ、ワカリマス…」コージの傍へ歩み寄るテレサ。「ア…アノ、ふ~るさと、が、かえるかな、か~える~かな~」ぎこちなく、しかし伸びやかな歌声で『北国の春』を歌う。驚きながら喜ぶコージ。「その歌知ってたの?」「いえ、さっき初めて聞きマシタ。」「上手だよぉ!ちょっと違うけど。」にこにこと褒めるコージ、嬉しそうなテレサ。(6/18 コージの足をわざと爪先で踏んでみるテレサ。驚いて笑うコージ。)「違うトコロ?」「ふるさと、”が”じゃなくて、ふるさと”へ”だ。」「ふるさと、ってどういう意味?」テレサから問われ、「えっと…ふるさとは、…なんて訳したらええべ…。えへへ、わっかんねえなぁ~」と、頭を掻きながら笑って答えるコージ。今度は教えられた歌詞を、ちょっぴりコブシをつけてみながら歌うテレサ。「ん、」と優しく相槌を打ちながら見守るコージ。歌い終えるとパチパチと胸の前で拍手を送る。

 

 和やかな空気が流れる中、「ヤメテ!その歌ヤメテ!!!」と叫ぶエドゥアルダ。驚き振り返るコージたち。楽屋のドアが開き、アイリーンが顔を出す。「ダイジョウブ~?」と尋ねると、再びドアを閉める。黙ってしまったエドゥアルダに歩み寄るテレサ。「すいません、ちょっとうるさかった、デスカ?」黙ったままのエドゥアルダに代わり答えるマリアン。「ふるさとっていうのは、帰りたくても帰れない場所のこと。あんたでいうウクライナダネ。」エドゥアルダは座り込み、膝に顔を埋め震えている。コージが「でも、この曲は…」と反論しようとすると、「帰って!もう外へ出ても大丈夫デショ。」マリアンに突き放される。返す言葉もないコージ。「テレサ、あんたまだまだ稼ぐんデショ?テレビ、ラジオ、ホンダのカブ、弟の学費!まだまだ稼いで、家族助けるんデショ?それじゃあこんな男、仕事の邪魔になるだけダヨ!」テレサも何も言い返せず俯いている。「あんたも、中途半端に優しくしないでくれるかナァ!こっちはそういう心、とっくに捨てて戦ってンダヨ!」マリアンの言葉にショックを受けるコージ。

 

 楽屋のセットが下がって行き、何もない暗い空間、オキナワとコージだけが立ち尽くしている。「…コージ、行くぞ。」「だども!」「わかってるよ。…帰れないからこそ、歌う歌だよな。」「ああ…」肩を落とすコージに、声を荒げるオキナワ。「お前がしっかり歌えばきっと伝わったよ!…でも、お前は歌えなかっただろ。」悔しそうに言い残し、コージを置いて立ち去る。悔しさ、悲しさ、虚しさの滲む暗い顔で、ふらふらと歩きだすコージ。スナックのセットが登場し、店のソファに崩れ落ちるように座ると、テーブルにつっぷしてしまう。

 

【スナック】

 カウンターにはスナックのママと話す二人の男性客、テーブル席には突っ伏したままのコージ。そこへ、千鳥足のオキナワがトイレから戻ってくる。「そもそも!そもそもだな!しょもしょも、オメーは何がしてぇんだ?ん?しょもしょも!」酷く酔っているオキナワ。志村けんの某殿様のような話し方になっている。「だからぁ!オラは歌手になるんだぁ。」こちらも酔っ払い、舌足らずで話すコージ。ヘラヘラと笑いながら、おかわりを注文する。「あんまり飲みすぎないでね?」心配(日によっては迷惑そうに)するママに注いでもらった酒をさっそく喉に流し込み、オキナワとぐだぐだと話し始める。「なれねぇよ~このままじゃ!しょもしょも!なんで歌えねぇのに歌おうとするの!」二人ともふにゃふにゃになりながら笑い合う。

 

 そこへ、「こんちー!」ギターを担いだ大野が、中央の階段を降りて店に入ってくる。後ろから追いかけるように客が入ってくる。「大野さん入ってくとこ見えたから。」「おっ、嬉しいこと言ってくれるねぇ。」「大野さん、こいつに一曲歌ってやってくれよ!」「あいよ!」「いい!歌なんか聞きたかねえよ!」自分の会社がうまくいかず、大企業への恨み言を呟く客と、それを励まそうとする客。そんなやりとりの中、ギターを奏で始める大野。曲は『いっぽんどっこの唄』。歌が始まれば聞き入る客たち。コージもうっとりした(酒のせいもあって目がかなりとろんとしている)表情でその歌を聞く。歌が進むにつれ、再び感極まって今にも泣きだしそうに顔を歪めるコージ。歌が終わると、「…まただ!…なして、オラが歌ってほしい歌がわかったんだぁ…」そう言ってふらふらと立ち上がり、大野の元へ歩み寄る。「いや、お前じゃなくてあちらのお客さんのために歌ったんだぞ?」オキナワのツッコミも届かない。

 大野の目の前に立つと、「すいません!弟子になります。」と、ふにゃふにゃした口調で告げて頭を下げるコージ。突然のことに混乱する大野。「弟子にしてくださいは言われたことあるけど、弟子になりますって、聞いたことねえよ…」「よろしくお願いします。」ヘラヘラと頼み込むコージ。「弟子はとらねえよ。」断られ、「どうしてだべかししょ~!」と大野に詰め寄ろうとするコージを、「すいませんこいつ酔っぱらってるんです~」と止めるオキナワ。「あっ!横丁の人間だろ?連れて帰れよ。」(6/18 コージの腕を掴んで「へ~い」と手を上げさせるオキナワ。されるがままの酔っ払いコージ。)しかし、「跡継ぎだよ、跡継ぎ!」客もコージの側につき、冗談半分のように大野を説得する。「ダメだ!」「なんでだべししょ~」コージは大野に泣きつく。「俺はお前の師匠じゃない!」「ししょーだ!」「師匠じゃないと言っているだろう!」「ししょーだ!」「師匠ではない!」「ししょーだししょーだししょーだ!」「ではないではないではない!」「ししょーだって言ってるべ!!!」言い合いの末、興奮して大野を思い切り殴ってしまうコージ。勢いよく倒れ、「何なのお前!!」とコージの熱量に怯えて叫ぶ大野。

 

 ハッとして謝りながら説明しようとするコージ。「あの!オラ、北津軽郡から…じゃなくて!えっと、ばっちゃんが!…ええと…だから…。なのにだめで!今…」うまく言葉が出てこず、頭を掻きむしるコージ。「ああ…あああ…ぁああーーー!!」突如叫ぶと、階段の裏へ走り去ってしまう。驚いて固まる大野や客たちに、笑顔を向けて誤魔化して、コージを連れ戻しに行くオキナワ。だが直後、コージ自ら再び飛び出してくる。そして力いっぱいに歌い出す。「凍えそうなカモメ見つめ泣いていました、あァ~ァァ~…津軽海峡、冬ゥ景色ィィィィ…」(『津軽海峡冬景色』)皆がポカンとして見守る中、さらに「何があァってももういいのォ~~」(『天城越え』)と歌い続けるコージをオキナワが止める。「お前が歌える時と歌えない時の違いを教えてくれよ!」怒鳴るように訴えるオキナワ。「そんなのオラにもわかんね!」泣きそうになりながら怒鳴り返すコージ。

 尻もちをついたまま黙っていた大野が、立ち上がり、口を開く。「…言いたいことがうまく言葉にできなくて、やっと喉から出てきてみたら、歌になっちゃったんだろ?」「…そうです。」涙声で答えるコージ。「お前、そんなんじゃ生きづらいだろう?」「…はい。」「ただ、それは俺も同じだ。」何か、想いを巡らせている様子の大野。再び口を開く。「…給料はねえぞ!」ハッとして、顔を上げるコージ。「…はい!」「あれこれ聞かれるのは嫌いだ。質問は最低限にしろ。」「はい!」「悪いが、俺の言うことは絶対だ。」「「はい!!」」しれっと隣に立ち、一緒に返事をするオキナワ。驚いたように隣のオキナワを見るコージ。「お前も?」怪訝な顔をする大野に対し、「俺たち、コンビでやらせてもらってますから!ししょ~~」急に態度を変えて、ゴマすり声を出すオキナワ。「…ついてこい。俺のショバ、案内するわ。」ニヒルに笑い、出口へ続く階段を上る大野。顔を見合わせて喜び、勢いよく抱き合うコージとオキナワ。コージが改めて「ししょ~!」と呼ぶと、振り返り、手の先をクイクイと動かして二人を呼ぶ大野。わぁっ、とまた顔を見合わせ、続いて階段を駆け上っていくコージ。「悪いけどつけといて!」と言うオキナワに、「今日はおごるわ!」とママや客も喜んでくれている。「ありがとよ!」二人の後を追うオキナワ。

 

【大野の”ショバ”/工事現場】

 階上に料理屋のセット。店内にはスーツ姿の三人の男女。青森の訛りが出て、慌てて標準語に直してしゃべる若い女性と、気を使ってあれこれと話をするが空回りし続ける上司の男。そしてその気遣いをことごとく無下にする若い男性。かみ合っていない様子の三人を見て、こういう場合はどんな歌を歌う?と問いかける大野。「若い人たちがつまらなそうで、上司の人は形無しだぁ。」「ここは若者の好きな歌謡曲!」コージとオキナワが答えるが、大野は違うという。「あっ、流しだ。珍しいなぁ。君たちは知らないかもしれないけどね。一曲お願いしてみようか。」そう言うと、大野に声を掛ける上司。相変わらず興味のなさそうな若者たち。大野が歌い出す。曲は『おふくろさん』。若い女性が、ハッとして大野を振り向く。

 

 「…それでどうなったんだ?」階下には工事現場のセット、作業着姿の住人二人。コージが階段を駆け下りながら、その後の様子を語り出す。若い女性に訛りがあって、下ろしたてのスーツを着ていることから、まだ故郷から上京してきたばかりなのだと思い、『おふくろさん』を選んだ。歌に感動した若い女性はゆっくりと立ち上がり、上司の男と見つめ合うと、腕を絡め、肩に頭を預け、寄り添いながら店を出ていく。「私の寂しさわかってくれるの、係長さんだけだ!…って、二人で夜の街に消えていっただ…」股間を押さえ、ニヤニヤと笑い合うコージと住人たち。

 

 そこへ買い物に出てきたテレサと橋本が通りかかる。テレサの姿を見るやいなや、嬉しそうにそわそわし始めるコージ。テレサもコージに気付き、ゆっくりと歩み寄り二人で話し始める。(照明が当たっていない時にも小声で言葉を交わしている。)

 

 階上では大野とオキナワが次の店へ移動する。大人数で騒ぐ学生グループ。ごめんね、今日は客層が違って…と店員が言うように、歌を聞くような雰囲気ではない。しかしグループの中の一人が大野に気付いて歌をリクエストする。大野が選んだのは『紅い花』。

 

 スポットライトがコージとテレサを照らす。「あえて、小さい声デ歌うの?」「小さい声で歌うと、みんな聞こうとして自然に静かになるんだって!」会話を楽しむ二人に、橋本が水を差す。「テレサちゃん、いこ。」急かされ、名残惜しそうに立ち去るテレサ。見送るコージ。しかしテレサはすぐにコージの前に引き返し、「また、偶然会いたいデス。」と告げる。「うん…。」と嬉しそうに頷くコージ。今度こそ立ち去るテレサと、仲間たちの元に戻りひやかしを受けながら、しかしそれすらも嬉しそうな様子で引き上げていくコージ。

 

 大野とオキナワは次の店へ。店内には個性的な動物たちを連れた男女。「うわ、くっさ!」「今はやりのペットバーってやつだな。コージ、お前なら何を歌う?」

 

 階下ではコージが現場用の上着を羽織り、ヘルメットをかぶって出てくる。「それで?お前はなんて答えたんだよ。」住人に問われ、「ん~、よくわかんねかったぁ~」のんびりと答えるコージ。それからフェンスの前で座り込み、談笑しながらテレサが通りかかるのを待つ。(日によって隣に座る住人の腕時計(実際はつけてない)を覗き込んでみたり、身を乗り出して通りの向こうまで覗き込んでみたり。終始落ち着かずそわそわとしている。)

 

 そこへ再びテレサと橋本が現れる。囃し立てる仲間を「しーっ」と人差し指を唇に当てて牽制し、しかし表情からは隠し切れない喜びを零しながら、立ち上がってテレサを待つコージ。ヘルメットを脱いで腕に抱え、髪の毛をわしゃわしゃと整えたりしながらそわそわ。テレサが目の前にやってくると、また嬉しそうに二人でおしゃべりを始める。(コージ、テレサの服を指さして褒め、胸の前で小さくぱちぱち拍手をしている。)

 

 照明が階上のペットバーを照らす。ワニを連れた女が気になるオキナワ。「あの…噛まれてません?」「噛むわよ。ワニだもの!」リクエストを受け、大野が歌い出したのは、『命くれない』。

 

 再びコージとテレサ。「命くれない。死ぬまで一緒って、愛の歌だべ。」「ワカッタ!ペットと、ずっと一緒?」「んだ!」笑い合う二人。大野が歌い終わり、オキナワと共に店を去る。ライトは階下のコージたちを照らす。「師匠の歌は、すぐに客の心に入り込むんだ。」「…コージは?歌わないの?」困ったようにはにかむコージ。「…オラの歌は、のどまで出かかるけど、そっから先はなかなか出てきてくれねえんだ…」「コージの歌は、シャイ、ネ。」「?…わっかんねぇ。」照れ笑いをするコージ。

 

 するとテレサは、伸びやかな歌声で『北国の春』を歌い出す。楽屋で歌った時よりもずっと上手になっている。「その歌歌って、怒られねえの?」「あれからみんな歌ってるヨ。」「そう…」嬉しそうなコージ。「ねえ、コージのふるさとはどんなトコロ?」ワクワクした様子で尋ねるテレサ。「オラのふるさとは……雪が、いっぱい降るよ。」手を広げて動かし、雪が降る様子を表現するコージ。「同ジ!ウクライナも雪、いっぱい降るヨ。」「とーーっても寒くて!」自分の腕を抱きしめ、凍えるマネをする。「同じだヨ!」盛り上がる二人だったが、「でも、」ふとふるさとを思い出したのか、しんみりと遠くを見つめるコージ。「…すごく、…いいとこだったよ。」「…同じ、だヨ。」少しだけ悲しそうに、微笑み合う二人。少しの沈黙。「…私のふるさとの山梨県もさあ!雪いっぱい降るよ!さむいよ~。一緒だね!!」明るく水を差す橋本。コージとテレサ、困ったように笑う。「あと、信玄餅がおいしいよ!あっ!食べる!?いつも持ち歩いてるから!」胸元から信玄餅の包みを取り出す。「人肌にあったまってるよ!」コージに強引に包みを渡し、食べ方を教えようとする橋本。「橋本さん、行きマショウ!」テレサに呼ばれ、はい、とコージから離れる。一緒に立ち去ろうとするテレサを呼び止めるコージ。「あの!…次は、その…偶然は嫌だな。ここで!待ってるから…」「…私も同じこと言おうと思ッテタ。」笑顔を交わし、食べないで、と耳打ちするテレサ。頷くコージ。(6/18 コージ、「どうすれば…?」と信玄餅を持て余し自らテレサに尋ねる。)二人を見送りながら、手に持った包みを遠くへ放り投げる。躊躇なくノールックで。

 

【スナック】

 場面は再びコージが弟子入りしたスナック。大野の歌が終わり、拍手をする客たちとコージ、オキナワ。客から代金を受け取って大野に渡すコージ、弟子らしさが板についている。階段を新しく客が降りてくる。「あ~終わっちゃったか~!」「タダ聞きすんなよ~」客も和気藹々とし、店全体が明るい雰囲気。後から来た客がリクエストをするも、「ちょっと出すもん出してくるわ!その間弟子がつなぐから。」と言い残してトイレへ行ってしまう大野。

 

 驚いて慌てるコージ。階段の手すりを握りしめながら客の様子をじっと見る。「コージ落ち着け、これはただの場つなぎだ。」自らも緊張した様子で声を掛けるオキナワ。「大丈夫、今、あのお客さんが何を歌ってほしいか、予想してるところ!」客たちの「旭なんてどうだ?」「おっ、いいねぇ~」という会話が聞こえる。「…わかったぁ!」興奮した様子で振り向くコージ。「あのお客さんたちが歌ってほしいのは、小林旭だ!」「…お前の予想を信じよう!」ツッコミを飲みこみ、ギターを構えるオキナワ。「『北へ』でいいか?」さっそく音合わせを始める二人。「はァ~~~!」(超高音)「高いよ!聖歌隊にでもなるつもりか!」「ハァァァ~~~!」(低くうねる声)「しゃくるな!!」そんなやりとりの間に、北野と大橋、連れの女性の三人組が来店するが、二人は気づかない。

 「いいかコージ、小さい声でもいいから、人前で歌うことに慣れろ。」コージに言って聞かせるオキナワ。頷くコージ。「へば。」小林旭の『北へ』を歌い出す。最初は落ち着いて、高音では盛り上がるように、丁寧に歌うコージ。客の拍手に、顔を見合わせて嬉しそうに笑顔を浮かべるコージとオキナワ。コージは客の方へ駆け寄り、手を差し伸べながら歌って場を盛り上げる。一番を歌い上げ、また大きな拍手をもらい、興奮した様子で喜ぶコージとオキナワ。

 

 しかしテーブル席の北野たちは拍手もせず、白けた様子。「この店の流しって、コレ?」嫌味な口調で尋ねる大橋。「いえ、いつもは…」と答えるママ。「先生の馴染みの流しがこの店にくるって聞いたから来たけど、のど自慢の若造のカラオケだった。店、間違えたみたいだわ。」「はぁ…」困惑した様子で大橋からお代を受け取るママ。立ち去ろうとする一行に、「あれ?お前大橋じゃねえか!」気づいて声を掛けるオキナワ。「呼び捨てにするな!」「ということはそっちは…北野波平だな!」どよめき、階段を上りかけていた北野に注目する客たち。おもむろにサングラスを外し、堂々と挨拶する北野。「どうも、北野、波平です!」すらすらと自己紹介の口上を始める。「先生、こいつらファンの方じゃないんで。」止めに入る大橋。「あ、そうなの?」「オキナワですよ。」「おお!オキナワかぁ!お前元気にしてたか!」「なんだよ北野のオッサン、俺らの顔忘れちまったのかよ~!」「オッサンって言うな!」苛立つ大橋。フランクなオキナワに対し、コージは北野に頭を下げた後は、店の隅で恐縮したように身を固くしている。行きましょう、と大橋に促されて再び階段を上ろうとする北野。

 

 「…待ってけろ!」突如声を上げ、階段に駆け寄るコージ。「北野先生はどう思っただ。オラの歌、…のど自慢だって思ったんだべか。」不安と自信の入り混じった表情で北野を見上げる。北野は笑顔で答える。「悪い悪い、こいつは口が悪くてね。口が悪いし臭いしで困ってるんだよ。」えっ!と慌てる大橋。(鼻をつまんで大橋をおちょくるオキナワ。)北野はコージに語りかける。「『名もない港に桃の花は咲けど 旅の町には安らぎはないさ』と君は歌った。情景がよ~く浮かんだよ。表現力はあるようだね。」そう評価され、コージの顔がパアッと明るくなるが、「だが、その情景の中に君の姿が見えなかった。」切り捨てるような北野の言葉に今度は困惑の色を浮かべる。「君は誰のために歌っていたんだ。」「それはもちろん、お客さんのために!」前のめりになって答えるコージ。「ではお客さんのために歌っていたその時、君はどこにいたのかね?」「どこ、って…」「質問の意味がわかんねえよ!」割って入るオキナワ。「では質問を変えよう。お客さんのために歌うとはどういうことかね。」「心を込めて…」胸に手を当て、自信を持ってそう答えるが、北野は笑ってあしらう。「心を込めて。よく聞く言葉だ。では今君が込めた心とは、具体的にはどんな心のことだね。」尋ねられ、答えられないコージ。「歌の景色の中に君の姿が見えなかった。客のために歌いすぎたんだ。流しの悪い癖だ。」話の途中、大野が帰ってくるが、北野の姿を見て再び姿を隠す。「君の歌の中には君がいない。以上だ。」断言する北野。誰も言い返せず、店内は静まり返る。呆然とするコージ。北野は身を翻すと、店を出るべく階段を上り始める。

 …と、思ったら再びコージたちを振り返り、「君の歌は、差出人の書いていない手紙のようだったよ。そんな手紙、気味が悪くて読む気になれやしない。君の歌の差出人は、もちろん君であるべきだ。だったら堂々と差出人に君の名前を書いて出したまえ!」階段を降りながら、演説のように語り続ける北野。「まだ、続きますね?」諦めた様子の大橋。「客のために歌うことの何が悪いんだよ!」思わず反論するオキナワに北野は猛然と詰め寄る。「客のため?何様だ!自分の無い歌が、誰かのためになるもんか!」「でも…!自分自分じゃ、客の心はどうなるんだよ!」「客は歌い手の背中に自分を重ねる。客は歌い手の中に自分を見るのだ。だから歌の景色の中にはまず君が立つべきだ。歌の中に嵐が吹き荒れるならびしょ濡れになるべきは君だ。歌で大地が割れるなら奈落の底に落ちるべきは君だ。歌で誰かが死ぬのならば君が死ね!…だが、その屍を見て、客は涙を流して悲しむだろう!」北野の気迫に、誰も言葉を発することができない。「…歌は、君自身でなければいけない。今歌っている歌を否定されたら君自身が否定される、そんな歌を、歌いたまえーーー!」両腕を広げ大演説を締めくくる北野。息をのむように、黙ったままのコージたち。「…先生、そろそろ。」大橋に促される北野だが、「場を白けさせてしまったお詫びに、一曲歌わせていただこう。」そう言うと、おもむろに「ち~らし~♪寿司~な~ら~♪」軽妙に、そしてとても上機嫌で、某CMソングを歌い出す。「先生!余計、変な空気になるので…」「そうか、残念だなぁ~」渋々出口へと向かう。最後にもう一度、思い出したように振り返り、「北野、波平でした。」そう言い残して立ち去っていく。自然と拍手が沸き起こる。一方で悔しそうに俯くコージと、そんなコージを心配そうに見つめるオキナワ。「…俺はお前が、お前の歌を歌ってるとこ、ちゃんと見たことあるからな。」そう励ますが、打ちひしがれるコージには届いていない様子。

 

【ストリップ小屋・楽屋】

 ラジオから流れる明るいアイドルの曲。(プラネット・ギャラクティカ『今夜はプラネット』)わいわいと談笑する踊り子たち。「最近みんな明るいネー!」ふんっ、ふんっ、と脚を高く上げながら言うマリアン。テレサが明るくなった、という話になるとすかさず手を上げるアイリーン。「ファイファイファーイ!橋本さんに聞いたんだケド、」「アイリーン!」橋本の制止も聞かず、マリアンに駆け寄って嬉しそうに続ける。「テレサ、買い物のたびにこないだの男と会ってるんダッテ~!」眉を顰めて振り返るマリアン。「青森の男なんダッテ~!」続くシャオ。「演歌歌手目指してるンダッテ~!!」エドゥアルダまで乗ってくる。あたふたするテレサ。「ミンナに言ッチャッテル!!!」「ごめ~ん…」手を合わせる橋本。「ゴメンナサイ、マリアン姐サン…」「別に、謝ることじゃないよ。」一層盛り上がる踊り子たち。(本当に小躍りしてる。)テレサも安堵するが、「男と会うなとは言ってナイヨ。惚れるなって言ったンダヨ。」マリアンの言葉に再び表情が曇る。「…でも、テレサが好きなら、ねぇ!」励まそうとするアイリーン。「この仕事を続けるなら、あんな男、邪魔になるだけダヨ。」そう切り捨てるマリアン。気まずい沈黙が流れる。場を収めようと、エドゥアルダが陽気な調子で口を開く。「…ま、まあ、巡業もあるしネ!」熱海、箱根、名古屋…テレサたちは踊り子の一団として、各地の小屋を渡り歩いていた。「いいじゃないねぇ、遠距離恋愛で、ねぇ?」なんとかテレサの恋を応援しようとする橋本だったが、「追いかけさせるのかい?自分の女が全国回って体売ってるのを許す男なんてロクなもんじゃないネ!かといってこの仕事をやめたらアンタの家族は食っていけない。どのみち、無理な二人なんダヨ…」割り切ったように、でもどこか寂しそうに呟くマリアン。

 

 「…マリアン姐さんは、恋したこと、ありまセンカ?」そう尋ねるテレサに、「ナイヨ!恋なんてしたことナイヨ!」背を向けて座り込んでしまうマリアン。言葉を失うテレサだったが、エドゥアルダは微笑んで話し始める。「嘘ヨ。姐さんもいっぱい恋して、いっぱい失敗したからこそ、今こうやって話してくれてるンダヨ。」胸が詰まるような表情でマリアンの背中を見つめ、「姐サン…!」駆け寄るテレサ。「私も、失敗したいデス。失敗してから考えマス。」床に崩れ落ちながら、泣きそうな声で続けるテレサ。「もう何年も、失敗できないことばっかりだったんデス…。お金のために、家族のために…。私、今失敗がしたいんデス!」切実に言葉を紡ぐ。けれどマリアンは取り合わない。「話しても無駄だネ!さあ皆、仕事の前に荷物をまとめておくんダヨ!箱根は海も温泉もあるヨ~!」テレサを無視して、明るく踊り子たちに話しかける。踊り子たちもはい、と返事をして支度を始める。エドゥアルダはテレサの肩に優しく手を置いて、ゆっくりと立ち上がらせ、慰めながら支度に誘う。そんな中何か複雑な気持ちを抱えている様子の橋本。コートを羽織ると、仲間たちを一瞥し、一人歩き出す。下がっていく楽屋のセットに代わり、みれん横丁のセットが現れる。

 

【みれん横丁】

 住人たちがたむろする横丁の一角の階段。住人たち、「犬はあれだな、噛むなぁ…」などと話している。橋本は身を護るようにコートの前をギュッと締める。そして意を決して、住人たちに話しかける。「あのっ!」「おう、どうした姉ちゃん。」「さては殺してやりてぇほど憎んでる男がいるんだな!?それならこの人に頼めば、ひとり五万でやってくれるぞ!」「まいどあり!」勝手に話を進めていく住人たち。「ち、違います!!あの…海鹿耕治さんは、こちらにいらっしゃいますでしょうか…」「コージ!?コージは友達だよ!」「友達は、七万はもらわねえと殺せねえなぁ…」「殺してほしいわけじゃありません!!」話が進まずやきもきする橋本。

 

 そこへ横丁の奥から、頭を掻きむしりながらコージが飛び出てくる。それを追いかけて出てくるエドゥアルダ。「だからァ巡業なんだッテ!」橋本を見つけると、駆け寄って肩を揺さぶりながら問いただすコージ。「巡業ってほんとだべか!?」「だから本当だって言ってんダロ!信じてナイノ!??」声を荒げるエドゥアルダ。混乱し、オキナワに縋りつくコージ。「オキナワ、どうする!?」「どうするったって…あの人はヤクザの商品だ、俺たちじゃどうにもできねえんだよ。」諦め顔のオキナワになおも縋りながら、何かを閃くコージ。「連れ出そう…オキナワ、連れ出そう!」「そんなの無理だよ!」一方、予想外の場所で落ち合った橋本とエドゥアルダ。「エドゥアルダちゃんも来てたの?」「テレサがかわいそうダカラ。あの男を焚き付けに来たンダヨ!」

 コージを諦めさせようと説得するオキナワ、諦めないコージ、そこへ覗き魔が割って入る。「でもよコージ、あいつらビザ切れてんだろ?すぐに捕まるぜ。ヤクザのとこにいるからやっていけてるんだ。」「覗き魔さん…」切なげに覗き魔を見つめるコージ。「しかもパスポートはヤクザが取り上げてんだろ。逃げたところでパスポートが無けりゃよお…」「覗き魔さん……どうしてそんな詳しいんだべか?」「…ずっと覗いてたんだろ。」ぺろ、と舌を出して再び覗き業務に戻る覗き魔。「な?どっちに転んでもうまくいかねぇってことだ。」とコージを宥めるオキナワ。それを聞いて、エドゥアルダが苦しそうに口を開く。「…うまくいかなくたっていいンダヨ。あの子に失敗させてやりてえンダヨ。薄々だめだって気づいてることでも、飛び込ませてやりテエノ。…ねえ、一緒に失敗してあげてくれないカナァ?」コージにそう問いかける。「……オキナワ。」「だめだ。」「オキナワ!」「だめだって!」取り合わず、階段の方へ去っていくオキナワをなんとか振り向かせようとするコージ。「一人じゃどうにもなんねから、オキナワぁ!」「やっぱり出んのな、声!テレサのことになると!」呆れたように突然振り返って応じるオキナワに驚くコージ。「…あぁもう、これもデビューへの試練ってことかよ。おい、みんな集めてくれ!作戦会議だ!」意を決して声を上げるオキナワ。「オキナワぁ…!」目を潤ませるコージ。手を取り合い喜ぶエドゥアルダと橋本。「これは、大勝負だぞ!」

 

【みれん横丁・夜】

 すっかり暗くなった深夜の横丁。荷物を担いで小屋主の後に続く踊り子たちを、街灯が頼りなく照らす。「ろくでもない一座だったな。もう二度と呼ばねえよ。」「あんたも最低な小屋主だったヨ!」小屋主のぼやきに、マリアンが呟く。「まともな小屋主なんかいるのかよ…っておい、今言ったの誰だ!?」振り向いて踊り子たちに詰め寄る小屋主。サッとテレサの陰に隠れるマリアン。(6/18 隠れた上で「くされチンピラよ!」とさらに罵倒するマリアン。)「何揉めてんだよ!」ヤクザが現れ一喝すると、身を縮こまらせて頭を下げる小屋主。「なんでもありません!お疲れ様でございます、こちら、パスポートです。」手にしていたセカンドバッグを渡す。

 するとアイリーン、シャオ、橋本と目を見合わせて小さく頷くエドゥアルダ、突然芝居がかった声で話し始める。「この辺、最近痴漢が多いらしいのヨネ~~」ね~、と調子を合わせる踊り子たち。テレサとマリアンだけが、何が起こっているのかわからず怪訝な顔をする。「触らせてやりゃあいいじゃねえか。」と返すヤクザに、「痴漢のせいで、おまわりさんいっぱいイルノヨ~。…ワタシはビザ切れてるし!シャオなんて偽造パスポートだから見つかったら一発でアウトだヨ!!」「何が言いてえんだよ!」「だから!裏道使って行きましょうよってだけのハ~ナ~シ~~~。」額同士をくっつけるほどの超至近距離で睨み付けるエドゥアルダ。しばしの睨み合いの末、「…わかった!案内しろ。」と了承するヤクザ。「あっ、ハイ~!」態度を一変させ、腰が低くなるエドゥアルダ。不審がるマリアンに小声で「勝手なことしてゴメン!」と一言告げると、「こちらでごじゃいましゅー!あんよがじょうず、あんよがじょうず!」と手拍子をしながら一行を横丁の奥へと誘導する。(6/18 「あんよがじょうず」に続けて「おにさんこちら」)「この横丁、前にも来たことありませんでしたっけ…?」子分が気付きそうになると、シャオやアイリーンも一緒になって囃し立ててごまかしながら誘導を続ける。

 

 その時、突然ライトが点灯し、眩しく横丁を照らす。そこにはそれぞれにプラカード、スコップや標識、武器のようなものを掲げる住人たちの姿があった。拡声器を持ったオキナワが階上に現れ、呆気にとられるヤクザや小屋主をよそに、「反対だ!反対だ!なにもかも反対だ~!!!」と叫び出す。それを合図に「反対!反対!」と住人たちが一斉に叫びはじめ、じりじりと一行に詰め寄る。「で、デモですかね?」「明け方二時だぞ!?」戸惑うヤクザたち。舞台手前の建物の窓がそろ~っとスライドし、コージが恐る恐るデモの様子を覗いている。ヤクザたちに見つかりそうになるとサッと隠れ、またそろ~っと顔を覗かせる。オキナワが拡声器に声を乗せる。「諸君!この中に部外者が紛れ込んでいる!」どよめく住人たち。「我々の意思に賛同してくださる協力者だ!ありがたく、寄付をいただこう!」そう告げると、一斉に住人たちが飛び掛かり、ヤクザたちはもみくちゃにされる。

 そのタイミングを見計らって建物から走り出るコージ、「テレサ!」名前を呼び、手を伸ばす。驚くテレサ、橋本たちに守られながらコージの元へ駆け寄る。踊り子たちもコージの隠れていた建物の下、階段付近に避難する。手を取り合う二人。「テレサ!」「コージ!」「行こう。」「ドコヘ!?」「どこでもいいよ。さぁ!」テレサの手を引き、走り出そうとするコージ。「パスポート!」エドゥアルダに言われ振り返り、「オキナワ、パスポート!」大声で叫ぶコージ。「あいよ!」階上から指示を出すオキナワ、もみくちゃの団子状態の中から、セカンドバッグを抱えた小屋主が押し出され、ふらふらと前に出てくる。そこへ駆け寄ったのはマリアン。自分のバッグで小屋主を一発、二発、強烈に殴り倒し、セカンドバッグを奪い取る。歓声を上げる踊り子たち。「言ってくれればもっと上手いやり方あったヨ!!」咎めながらもバッグからパスポートを取り出し、テレサの胸に押し付けるマリアン。パスポートを受け取ると、手を握ったまま再び駆け出すコージ。舞台から降り、客席間の通路へ走り出る。

 

 「テレサァ!その男もダメになるぞ!」ヤクザの声に、足を止めるテレサ。突然止まったテレサに驚き振り向くコージ。「ジャパニーズマフィアはしつこいぞ。その男も一緒にダメになる。それでもいいのか、ウクライナァ!!!」顔から血の気が引いていくテレサ。「…っ、行こう!」再び手を取って駆けだそうとするコージ。しかし、テレサはその手を自ら振りほどく。「えぇ…?」「…やっぱり行けナイ。」何が起きたのかわからない、そんな表情でテレサを見つめるコージ。「テレサ、自分の意思で戻ってこい。そしたら許してやる。」ヤクザの言葉に、グッと気持ちを飲みこみ、ゆっくりと身を翻すテレサ。一歩ずつ、ヤクザたちの方へ歩き出す。「テレサ、なして!!」コージの声に足を止める。「……家族、大事ダカラ。まだまだ、お金稼がなきゃイケナイ。」「仕事なら他にあるべ!」「コージも大事、ダカラ…」「オラのことはいいから。テレサはどうしたいんだべ!」「…私が我慢するのが一番、コージ大事にできるみたい、ダカラ…」そう告げて、また歩き出すテレサ。「テレサ、だめダヨ!!!」エドゥアルダたちの呼びかけもテレサには届かない。手を伸ばし、名前を呼び、それでも自ら背を向けたテレサをそれ以上追うことのできないコージ。頭を抱え、苦しみ、もがく。舞台上ではテレサがヤクザの目の前まで来て、しかし最後の一歩を躊躇っている。「さあ、もうちょっと、もうちょっとだテレサ。」呼び寄せようとする小屋主。痺れを切らしたヤクザが「テレサァ!」と怒鳴る。弾かれたようにオキナワが叫ぶ。「いいのかよコージ!!」「…あああああ!!!」言葉にならないコージの絶叫。「コージ、全部吐き出しちまえ!!」オキナワが呼びかけた、次の瞬間。

 

 「生まァれる…まえェかァらァ…結ゥばれていたァァ…」コージの想いが歌になって飛び出す。『命くれない』…テレサの動きが止まる。「あなたァ…お前…夫婦みィちィ…!」胸に手を当て、テレサに手を伸ばし、歌い続けるコージ。「いィィのちくれェェなァいィィ…いのち、くれなァい…ふゥたァァりィ連れェェェェ…」テレサだけを見つめるコージ。コージを見つめるテレサ。周りのすべての目が二人を見つめる。ヤクザの方に向き直るテレサ。その表情は晴れやか。静かに頭を下げ、(他の日には敬礼や、スカートの裾をつまんで膝を折って挨拶し、)くるりと身を翻しコージの元へ駆けてゆく。コージもまたテレサに駆け寄り、腕を広げてその体を受け止める。仲間たちの歓声に包まれ抱き合う二人。「そうはいくかよ!」殴りかかる子分たち、再び始まる乱闘、なんとかテレサの手を掴み、舞台後方へと逃げるコージ。子分たちが飛び掛かろうとしたその時、コージ、テレサ、踊り子たち、住人たちが一斉に歌い出す。「人目を忍んで隠れて泣いた…そんな日もある傷もある…」皆の歌声が、気迫が、徐々にヤクザたちと小屋主を舞台前方へと追い込んでいく。コージはしっかりとテレサの手を握っている。「命くれェェなァいィィ、命、くれなァいィィ…!ふたァり連れェェェ…!」

 ついに舞台から転げ落ちる男たち。「今のうちに!」仲間の声に顔を見合わせて頷くと、通路へ降りて走り去るコージとテレサ、後を追うオキナワ。「アディオス、テレサ!」エドゥアルダが祝福を送る。子分たちも急いで追いかけようとするが、「もういいデショ!」マリアンの叫びがそれを止める。「…テレサの分まで私たちが稼ぐからさ。」ヤクザが手下を呼び戻す。マリアンの言葉に応じるように、覚悟を決めて(諦めのようにも見える)笑うエドゥアルダ、不安そうな表情を浮かべるアイリーン…踊り子たちもそれぞれの思いを持って再び歩き出す。「…二人とも、幸せになんなきゃ、嘘ダカラネ!」コージたちの走り去った先を見つめながら呟くマリアン。その背を足蹴にするヤクザ。『命くれない』の終わりの伴奏が流れ、幕が下りる。

俺節 あらすじ(一幕)

俺節の素晴らしい台詞たち、素晴らしいシーンたちを記憶に残したい、と思って個人的記録として書き始めたんですけど、東京楽が終わったのでちょっとずつアップしてみようかと思います。間違ってる部分もあるかと思いますが、雰囲気で読んでいただければ…。個人的に好きな台詞、熱かった台詞は何度か確かめたので合ってるかなあと思います…(どの台詞だよ問題)

 


一幕

 

【駅】

 幕に映る吹雪。その前をゆっくりと歩いてくる腰の曲がった老婆、後ろから借金の取り立て屋が二人。孫一人育ててる婆さんのところへ取り立てに来るのも気分悪いんだわ、と嫌味を言われても老婆は「そんなもんだべかぁ!」とぼけたように受け流す。あの孫、ろくに人の目も見てしゃべれねえやつだったじゃねえか。せいぜい孝行してもらうんだな。そんな取り立て屋の言葉も聞かず歩き出す老婆、悪態をついて去っていく取り立て屋たち。

 吹雪の向こう、駅のベンチに俯き腰掛けるコージ。寒さに肩をビクン、と震わせたり、腕をさすったりしている。老婆はコージの元へ。「ばっちゃん!」立ち上がり駆け寄るコージ。「ばっちゃん、堪忍な…。」「東京は謝りながら行くとこじゃね。」背負っていた包みをコージに手渡す老婆。「これ…せびろ?…ぜんこどした?ばっちゃん!」「それさえ着てれば、おめも、一丁前の都会の人間だ。なんも恥ずかしいことはね。恥ずかしいことはねんだ…」「ばっちゃん…」「…おめ、一人か。おめに友達も作ってやれなかったな。」「そんなもん、ばっちゃんが気にすることでね。」ベンチに腰を下ろす老婆。「おめ、東京に何しにいくんだ。」「…オラ、もう負けたくね。笑われんのもこりごりだ。でも、オラんだって武器あるって気付いたべ。世の中、とっくりかえしてやれるもの!」力強い表情に決意が滲む。

 

【東京・北野プロダクション前】
 行き交う人々をキョロキョロと眺めながら、背広姿でカバンひとつを胸に抱いて歩くコージ。不安、喜び、好奇心が入り混じったような表情。舞台の中央に辿りつき、「海鹿耕治ともうします。なにとぞ、よろしくおねがいします!」と叫び、額を地につけて土下座をする。すぐ傍で談笑する男たち。しばらくしてその中の一人が土下座しているコージに気付く。「君、何してんの!?」弟子入り志望の人?邪魔だからもっとあっちでやって。そんな冷たいあしらいにも「はい!」と返事をして、舞台左端へ移動して再び土下座するコージ。

 しばらくすると北野が登場。付き人の女性に手を引かれながら『真夏の果実』を歌い、スキップで通り過ぎる北野に、目を丸くしながら抱きしめていたカバンをぽろっと落とすコージ。「北野波平先生でいらっしゃいますか!?」「おお、そうだよ~」「オラ、先生の大ファンで!」「そうか、それはありがとう!」そう言うと再びスキップで建物に入って行ってしまう北野。「弟子にしてけろ!!」叫んで後を追おうとするコージだが、取り巻きに止められる。「今どき演歌やりてえなんて変人、誰も弟子にしたくねえよ!」と笑われ、追い払われそうになるコージ。

 そこへ、「まあまあそうつれないこと言いなさんな!」ギターをかき鳴らしながら現れた黒い革ジャン、黒いパンツにリーゼントの男。「そいつ、かれこれ四時間はそこで土下座してたぜ。たいした根性じゃねえか!…ま、それを四時間見守ってた俺もたいした根性だが。」「優しい人だな…」「よく言われる。」戸惑いながらも、ぽうっとした表情でオキナワを見つめるコージ。「オキナワ!お前よくまた顔を出せたな!」オキナワと取り巻き(大橋)が揉める中、建物から出てくる北野。女性誌の取材なのに男ばっかりじゃないか!と怒っている。「おおオキナワじゃねえか!」と気さくに声を掛ける北野。財布泥棒なんかの相手する必要ないですよ、と止める大橋。「泥棒じゃねえよ!財布の中身をちょっと拝借しただけで…」「それを財布泥棒って言うんだよ!」

 そんな中で再び、「弟子にしてけろ!」と土下座するコージ。「後生です、人殺し以外なんでもします!」「北津軽郡から出てきました、ばっちゃん置いて、俺には歌しかねって出てきたんす。」ここにいる人間、全員歌しかないんだよ。と穏やかに断る北野。しかし食い下がるコージ、「北野先生以外に本気の人いるように見えねえですけど。」怒る取り巻きたち。「喧嘩売るつもりはねえんです!けんど、こん中で一人でも、本当に歌しかねえって人がいるなら…会ってみてえから、一歩前へ出てくんねえか!?」立ち上がり、勢いよく取り巻きたちの方へ踏み出すコージ。どよめき、後ずさる取り巻きたち。「お前面白えな!面白えよ!おい、北野のオッサン!一曲聞いてみて、それから決めたらどうだ。」「彼を弟子に!そして俺のこともそろそろ許してください。」ちゃっかり頭を下げるオキナワ。大橋が止めようとするも、「もうお前も、こいつの歌が聞いてみたくなっちゃってんだろ?」と説得して、コージに歌うチャンスを与える。

 「『なみだ船』でいいか。歌えんだろ?」「はい!」力強く答えるコージ。意を決して、オキナワのギターに乗せて歌い出す。「涙のォォォォォ…」力を込めた歌声で歌い出すが、北野たちの方を振り向くと、声が出なくなる。喉のあたりを押さえて挙動不審になるコージ。「…もう一回だな?」仕切り直そうとギターを弾きだすオキナワだったが、コージが慌ててギターのネックを掴んで演奏を止める。「なんだよ!!」「みんな、見てるからちょっと…。人前で歌うの、めぐせくて…」モジモジとはにかむ。「めぐせえってなんだよ?」そんな間に北野は立ち去り、大橋からはもう来んなよ!と吐き捨てられ、取り残されるコージとオキナワ。

 「なんなんだよお前!」「…いっつもだ…!いっつも同じこと繰り返してきた…」頭を抱え、地面に崩れ落ちるコージ。「まあ…そんなに落ち込むなよ。」励ますオキナワに、「オラじゃなくてアンタが歌えばよかったんだ!」と逆上するコージ。「俺はこっち専門だからよ!」(ギターを掲げる。)「北野は自前の作曲家集団抱えてるからよ、俺も入り込んでやろうと思って弟子入りしたんだけど、まあいろいろあって…クビだ。」「いろいろって…?」コージの疑問をさりげなく流し、「よし、飲みにいくぞ!」とオキナワが誘うも、土下座をしたまま、「ぜんこがねえす…。」「なんだよ!」オキナワの大声にビクッとするコージ。続けて「ついでに宿も…」と言い、恥ずかしそうに笑う。「ようし!俺の城に連れてってやるよ、東京で一番の場所だぜぇ。」カバンを投げられ、慌てて胸に抱くコージ。「迷子になんなよ!」とオキナワに先導され、戸惑いながら後についていく。

 

【みれん横丁】
 ボロボロの建物が寄せ集まった通りに、ボロボロのなりをした住人たちが姿を現し、『みれん横丁のテーマ』を歌い出す。「良いも悪いもあきらめて苦笑いで飲もう…」諦めとやりきれなさが漂う。オキナワが現れ、俄かに活気づく住人たち。「北野波平に許してもらえたのか!?」「俺の伝授した土下座はしたのか?」口々にオキナワに声を掛ける。オキナワは「懐のちっちぇー野郎ばっかだぜ。」と不満げかつどこか自慢げ。その後ろ、ついてきたコージは、白い粉を売りつけられそうになったり、足を踏んだと因縁を付けられたりと散々に絡まれ困っている。「見ねえ顔だな。」「身ぐるみはがせ!」もみくちゃにされて、オキナワが止める。「そいつは俺の友達だ!」「オキナワの友達でも、俺らの友達じゃねえからな。」
 再びもみくちゃにされそうになったところで、「落ち着きたまえ諸君!」登場したのは軍服を着た小太りの男。「陛下!」(実のところは結婚詐欺師。)お前たちも行く場所がなくて初めてここに来た時、仲間として受け入れてもらったから今があるんだろう?と住人たちを諭す。住人たちが落ち着くと、酒箱の上に乗り、親愛のしるしに、と、手に持っていた肉の串を渡す。「…ばんべきゅ?」集まってきた住人たちに囲まれ見守られながら、オキナワに促され、肉を口にするコージ。「…おいしいです!」一気に場の空気が和む。「それで、これは何の肉なんです?」車のブレーキ音。何かにぶつかる音。住人たちが一気に振り向く。「あっちで犬が轢かれたぞ!」「何犬だ?」「秋田犬だ!」「よーし、とってこい!バーベキューだ!」目を丸くして、みるみる青ざめるコージ。走り出した住人たちにぶつかりフラフラとよろける。これでコージも仲間だな!と喜ぶ住人たちを横目に、ゴミ箱の蓋を取り、勢いよく嘔吐する。ショックを受け、ぐったりとその場にへたり込むコージ。
 そこへ「おい!すっげえもん拾ってきたぞ!外人の女だ~!!」両手両足を掴まれ、運ばれてくるテレサ。俄かに沸き立つ男たち。「順番を決めよう!」陛下の一声でテレサの前に一列に並び、最前列の男がズボンを下ろす。「ちょ、ちょっと待ってクダサイ!」慌てるテレサ。「ちょっと待って!…病気持ちかもしれない!」と騒ぎ出す最前列の男。「よし、コージに味見させよう!お前、ズボン脱げ!」と明るく提案するオキナワ。えぇっ!?と戸惑って後ずさりするコージをまたもやもみくちゃにしてズボンを脱がせようとする住人たち。
 大騒ぎになっているところへ三人組のヤクザが登場する。「おーいたいた!悪いな、こいつはうちの商品なんだ!」下っ端がテレサを掴まえる。「お前ら、まさか一緒になってこいつを逃がそうとしてんじゃねえだろうな?」否定する住人を、コージの目の前すれすれで殴り飛ばす下っ端。驚き怯え、倒れ込んだまま動けないコージ。引き摺られ、連れていかれるテレサ。「助ケテ…誰か助けてクダサイ…」泣き声のように救いを求めるが、誰も動こうとしない。ひとり、コージだけが、うずくまり呻き声を出して葛藤した末、「ちょ、ちょっと待ってください!」と声を上げる。「あは、なんだかうまく言えないけど…このままその人連れていかれるの、オラなんか嫌だなぁ。」へら、と笑いまじりに立ち上がるコージ。慌ててコージを諭すオキナワ。「東京じゃああいう方たちに逆らわない方がいいんだよ。お前の田舎でもそれは同じだろ?」「んだな。どこでも一緒だな!」途端に牙をむいて殴りかかろうとするコージ。オキナワが止めるも、「なんかムカつくなぁ!」と、腹を立てた下っ端に殴られる。「おい、もっとやってやれ。」という親玉の一声で、殴り飛ばされ、蹴りを入れられるコージ。止めようとしたオキナワも殴られる。「テレサ!勝手なことをすると、見ず知らずの方々にも迷惑がかかるんだぞ!」「はい、すいません、すいません、帰ります、帰りますカラ…」目の前で痛めつけられるコージたちの姿にショックを受けるテレサ
 フラフラのまま、オキナワに首根っこを掴まれ、一緒に土下座をして謝るコージ。「すいませんでしたぁ!」「すいませんでしたぁ…」立ち去り際、オキナワに蹴りをまた一つ、コージには唾を吐きかける下っ端。コージの体に力がこもる。「まてぇ…」「…あン?今俺に言ったか?」「謝れぇ…」「なんでお前に謝らなきゃなんねえんだよ!」再び殴られるが、ゆらゆらと気迫がのぼるように立ち上がるコージ。「オラにでね。せびろに謝れ。ばっちゃんのせびろに謝れ!」「…殴りすぎて頭おかしくなったんじゃねえの?」「オラこの背広にくにしょってんだぁ。これだば二度とばっちゃんに顔合わせられねえべさ!」殴られても殴られても立ち上がるコージ。「謝れ!やんだば、殺せぇ!」背後から頭を激しく殴られ、目を回しながらもなんとか耐えて、ふらふらと鉄柱に身を預ける。
 「今度はオラの番だ。今度はオラが、オラの武器で、おめぇらを殴るべ。」目を閉じ、天を仰ぐコージ。「……凍てつくようなァァ…港でェひとォりィィ…」気迫のこもった声で、『港』を歌い出す。思わず動けなくなるヤクザたち。息をのんで見守る住人たち。「あんたのォォォ…帰ェりィをォォ…待ァァァってェ…おりますゥゥ…」オキナワの方へ手を伸ばすコージ。ハッとしてギターをたぐりよせ、コージの歌に合わせてかき鳴らすオキナワ。「あァ~ァァ、北の港町」住人たちもコージの思いに引っ張られるように共に歌う。「冬待つゥ…おォォ、んンゥ、なァァァァァ!!」絶叫のように歌い終え、目を回して体を投げ出し、倒れ込むコージ。我に返ったように再びコージに殴りかかる下っ端たちを止める親玉。「…二番まで聞いたら、謝っちまうとこだったぜ。」助けなきゃ、と言うテレサを引き摺り、連れて行くヤクザたち。それと同時に、コージ!と駆け寄る住人たち。「死んだかぁ…?」「よし、身ぐるみはがせ~!」飛び掛かるのをオキナワが止め、「治療だ!」とコージを担ぎ上げ、横丁の奥へ運んでゆく。(5/30「しょんべんかけとけ!」6/1「酒かけとけ!」)一人残ったオキナワ、興奮した顔を浮かべ、みんなの後を追いかける。

 

【ストリップ小屋】
 『カスバの女』を歌うマリアンと、周りで踊る踊り子たち。テレサが慌てて裾から現れ合流する。おかしなビブラートをかけ歌い上げるマリアン(踊り子たちもすごい揺れてる)だったが、ショーが終わると「誰も聞いてないよ!」と怒りながら楽屋へ引き上げる。一方こちらも怒っているエドゥアルダ。「見タ!?見タヨネ!?あれ絶対そうダヨネ!?正面のオッサン、盗撮してたヨネ!?」「エドゥアルダちゃん?ここのお客さんほとんどオッサンだから~」とアイリーンが嗜めようとするも怒りが収まらない。「ワタシが股をパカーッ!と開いたら、カバンをグググーッ!と近ヅケルノ。あれ絶対カメラ入ってタヨ!」「そういう時はサ、あえて、こっちから近づいていくンダヨ!」マリアンの言葉に皆が集まり注目する。「そしたら相手もアタシのアタシを覗き込んでくるから、しょんべんひっかけてやればいいノサ~!!」「そんなに都合よく出まセンヨ~!」とアイリーン。「三十年も踊ってたら、舞台の上でできないことなんてナイネ~!」張り切って踊り出すマリアン。踊り子たちに向けてM字開脚、から腰を振りあげる。明るい雰囲気の中、「あれェ?マリアン姐さんってなんしゃいでしたっけェ?」「シャシャシャシャオ!!」シャオの爛漫な疑問にその場が凍り付く。恐る恐るマリアン(M字開脚したまま)を見る面々。「…その質問に答えたら、世界から戦争が無くなるっていうんなら、教えてあげてもイイケド。イイケド~!」腰を振りあげながら答えるマリアン。
 「だ、大丈夫デスッ!わ、私トイレ…!」シャオが慌てて扉を開けると、小屋主が立っている。「ま、マネジャ…」「お前も無断外出かぁ?」「違いますトイレデス!」弁明するも、手持ちのティッシュ箱で頭を叩かれるシャオ。「ダメだ!ウクライナみたいなことになりかねないからなぁ!エビバディ!わかってますか!?そこのブラジルコンビ!」突っかかろうと近づくマリアン、止めようとするエドゥアルダ。マリアンも思い切り叩かれる。「フィリピン、アンダスタン!?」「ファイ!!」全力で返事をするも叩かれるアイリーン。「福建省!」「ハイ!」やっぱり叩かれるシャオ。小屋主はテレサにも詰め寄ろうとするが、橋本が立ちふさがり宥める。「橋本さん…君は僕の味方だよねぇ?」「い、いえいえいえいえ!」橋本の胸倉をつかむと乱暴に口づけ、挙句グーで殴って卒倒させる。どでーんと仰向けに倒れる橋本さん。「エビバディ、アンダスタン!?」「…ハイ」「ハイッ」「ファイ!!」「…グッ!」満足げに楽屋を去る小屋主。
 「橋本さん!!」駆け寄る踊り子たち。「バカなことするからこれダ!」テレサを責めるエドゥアルダ。「ハイ。」「まだまだお金稼ぐんデショ!?」「ハイ…」「そのために仕事頑張るんデショ!?」「ハイッ…!」マリアンの叱責のたびに様々な「はい」で返事をするテレサを、「はい、はい、はーい!ッテ!」「日本人ミターイ!」と揶揄するアイリーンとシャオ。「…ワタシはお金を稼ぐヒト。家族はお金を使うヒト…」堪えきれずつぶやきを漏らすテレサ。「そんな言い方!」咎めるようなマリアンの声にハッとする。「スイマセン…」「別に私に謝らなくてもいいけど…」「いえ!皆さんにも、一度、ちゃんと謝りたいと思ッテ…」床に平伏すテレサ。「このたびの件につきましては、すべてワタクシの不徳の致すところでゴザイマス!」土下座で謝罪する。踊り子たち、しばし呆気にとられた後、「…テレサ堅いヨー!」「どっかのシャチョさんに冗談で教えられたんじゃナイノ~」と笑い出す。「もういいんだよ。お腹空いた!出前頼ム人!」エドゥアルダの提案に、皆ドヤドヤと畳の上に集まる。テレサを励ますように注文を聞くエドゥアルダ。(5/30「おまかせ」6/1「辛いの」→エドゥ「辛イノッテ!!」6/8「麻婆豆腐」→エドゥ「蕎麦屋に麻婆豆腐アッタッケ…?」6/10「コンニャク」→「コンニャクコンニャク!?コンニャクなんかナイヨ!!」6/18「もんじゃ焼き」→「もんじゃ焼き。ねえよそんなもん蕎麦屋にバカ!!」(エドゥさんノリつっこみ))
 ワイワイと話す踊り子たちに背を向け、座り込んだまま小さく鼻歌を歌うテレサ。それは『港』のメロディー。それに気が付き、ニヤニヤと近づいてテレサを囲む踊り子たち。「…いいメロディーダネ!」とマリアン。パアッと明るい顔になるテレサ。「この曲、知ってマスカ!?」「名前は知らないけど…演歌、ってやつダネ。」「エンカ……」うっとりとその言葉を口にする。「…エエンカ?」「エエノンカ?」自らの胸をわさわさと触りながらふざける踊り子たち。大声で笑いながら暗転。

 

【みれん横丁】
「I love you~♪OK~…暇、すぎるぜェ~~~♪」横丁の階段に腰掛け、ひとり弾き語るオキナワ。階段の上から住人(人殺し)が現れる。「オキナワかぁ。コージどした。」「放火魔に紹介してもらって働きにいったよ!」どこかふてくされている様子のオキナワ。「お前も働け~!」「俺はまだ250円も持ってんだよ。」「どうしたそんな大金!?」「俺とコージがデビューすりゃ、この何百倍も稼げるんだぜ!」話しながら表情が明るくなるオキナワ。「だけどコージはあれから一度も歌えてねえじゃねえか。」人殺しの言葉で再び面白くなさそうな表情に。「…めぐせえんだとよ。」「めぐせえ?」「恥ずかしいんだってよ!呆れるわ。」言い捨てるオキナワに、諭すように語り掛ける人殺し。「…オキナワ。俺この横丁でそんなやついっぱい見てきたぜ。自分に自信がなくて、なんか生きてるだけで恥ずかしいんだよな。お前が一人前にしてやれよ。」
 階段上、二人が話している反対側から、工事現場用の上着を羽織ったコージと住人たちがガヤガヤと帰ってくる。「くせぇか!」と嬉しそうにニオイを嗅がせているコージ。住人たちともすっかりと馴染んでいる。「オキナワ~!こっちさ来て、労働者のかぐわしきにおいを堪能しろよぉ~。」上着の前をがばっと広げ、体を揺らしてニオイをアピールするコージ。「や~だよっ。」「なしてさぁ~!この、汗と泥とこのホコリのにおいこそ、この横丁のにおいだべな!」(両腕でガッツポーズをするように天を仰ぐ。)コージもすっかりこの横丁の仲間だ!あの歌歌おうぜ!と住人たちから声があがり、『みれん横丁のテーマ』を歌い出す。が、歌が始まった途端、はにかんで所在なげにするコージ。おいどうした、お前も歌え!と再び歌い出す住人達だったが、コージは困り笑いで逃げ出し、店の壁に身を寄せる。「プロ目指してるやつはこんなとこで歌わねえかぁ!」「いや、オラは…」「こいつめぐせえんだとよ。」と呆れ半分で助け舟を出すオキナワ。
 そこへフラッとギターを背負った一人の男が現れる。「あれ…大野のダンナじゃねえか!?」歓声を上げ、我先にと階段を降りて男に駆け寄る住人たち。ぽかん、とその様子を見つめるコージと、面白くなさそうに階段を上りコージの傍で胡坐をかくオキナワ。人殺しも階上から住人たちを見ている。大野に歌を請う住人たち。陛下が歩み出、鎮めようとする。「お前たち!ダンナはプロとして歌ってらっしゃるんだ!タダで歌ってもらおうとするなんて失礼だろう!ダンナはいくらでやってるんでしたっけ?」「三曲千円。」「よし、金を集めよう!私が300円カンパする!」おお、というどよめき、そして各々取り出したお金を陛下に預ける。「集まりました、326円!」(金額が違う日あり)「足りねえじゃねえか!お前ら日銭稼いできたんだろう?」「いや、飯代は残しとかねえと…」へへへ、と笑う住人たちに、「じゃあ歌なんか聞いてる場合じゃねえな。」と呆れて立ち去ろうとする大野、しかし住人たちが縋りつく。「ただ飯食って荷をひくだけなら馬や牛と一緒だ!昼間の俺たちは動物だよ、畜生だよ!でも日が暮れて、一杯やりながら歌を聞く…その時ようやく人になれるんだ。牛や馬は歌聞かねえからな!」「ダンナ、俺たちを人間にしてくれ!」
 住人たちの悲痛な叫びに、しばしの沈黙の後、「…五木ひろしでいいか?」とギターを構える大野。わあっと歓声を上げる住人たち。五木ひろしの『暖簾』を歌う。皆じっくりと聞き入っている。階上で訝し気な顔をしていたコージもまた、歌が始まると表情が変わる。大野の歌に聞き入り、くしゃくしゃの泣き顔になっていく。歌が終わり、住人たちが熱い拍手を送る中、コージが呟く。「オキナワ…あの人、変わった人だな…」「確かに、髪型と眼鏡と顔のバランスが絶妙だな。」淡々と返すオキナワに、「そうでなくて!まだ挨拶もしてねえのに、オラのために歌ってくれた…」感無量の様子で話す。だが住人の一人が「ダンナ!俺嬉しいよぉ…俺のために歌ってくれて…」と声を上げると、驚き、納得のいかない顔をするコージ。他の住人たちも次々と「バカいえ!ダンナは俺のためだけに歌ってくれたんだよ!」「いや、俺のためだ!」「俺だけのために歌ってくれたんだよ!」と主張し争い始める。コージも手を上げて入っていこうとするが入れず。(片手を振ってみたり、両手を振りながらぴょこぴょこと跳び上がってみたり。)そのうちにもみくちゃにされる大野。オキナワも階下に降りてさりげなくその混乱に混ざりこむ。
 大野が住人たちを振り払って立ち去ると、「なんだよ、みんなしがねえ流しの歌ありがたがっちゃってよぉ。」と悪態をつくオキナワ。「いい歌だったけどなぁ…」ほわん、としゃべるコージに、「コージ!飲みに行こうぜ!」と声を掛ける。「でも、ぜんこがねぇ。」自慢げに財布を掲げるオキナワ。「それ…!」「おい、お前!財布盗んだだろ!」どかどかと怒りながら戻ってくる大野、サッと財布を隠し体を硬直させるオキナワ。大野は別の住人をスリだと勘違いして追いかけていく。軽やかに階段を上るオキナワ。「たまにはぱーっとよぉ!景気のいい店行こうぜ!」「へぇ?」戸惑うコージ。人殺しが「じゃあ、お言葉に甘えて…」とついてこようとすると、二人でそちらを振り返り、手を振ったり苦笑いをしたりしてやんわりと断る。

 

【ストリップ小屋・舞台】
 すでに照明を薄暗く落とした店内。営業終了のアナウンスにも構わず、中央に張り出すステージ脇に丸椅子を並べ、何かを待つ客の男たち。その声に応えステージへひらりと上がる小屋主。「お待たせいたしました!当店自慢の踊り子ちゃんたちと夢の60分!トゥナイトがっちりはめまショー!」盛り上がる客たち。そこへオキナワとコージがやってくる。「オキナワ、この店…?」不審げな顔をするコージを、強引に丸椅子に座らせるオキナワ。小屋主の卑猥な紹介と共に幕が上がり、ステージにエドゥアルダが登場する。凄みのある形相で客を睨みつけて回るエドゥアルダ。「エドゥアルダちゃん、笑顔っ!」小屋主に小突かれ、自己紹介と共に無理やりな笑顔でポーズを決めるエドゥアルダ。だんだんと険しくなるコージの顔。舞台上のエドゥアルダを見ないようにしながらも、興奮して手を伸ばす隣の男の腕をはたいて止める。(オキナワ、代わりに手を合わせて謝る。)コージだけが嫌悪と憤りを滲ませる中、「まずは五千円から!」エドゥアルダの競りが始まる。金額が徐々に上がっていくと、立ち上がって帰ろうとするコージ。「オキナワ…見損なったど。」「まあまあ、職業に貴賤なしって言うだろ?」「でもこんなのおかしいべ!」怒りをあらわにするコージを宥め、肩を掴んで再び着席させるオキナワ。そうこうしているうちに競りは進み、「八千円!」「他にありませんか?ありませんか?それでは、そちらの野球帽のお客様、エドゥアルダちゃん、お買い上げ~!!」野球帽の男に、蹴とばされながら共に舞台の裏へ消えていくエドゥアルダ。
 次に呼び込まれたのはテレサ。「…けえる。」舞台上のテレサを見ることもなく、再度立ち上がり、ずんずんと出口へ向かうコージ。競りが始まる。小屋主が最低額を言う前に「一万円!」と声が上がり、盛り上がる客席。オキナワに呼び止められ、憤怒の形相で振り返るコージ。舞台上に不安げに立つテレサの姿を見て表情が一変、目を丸くして驚愕し、食い入るようにテレサを見つめながら、一段ずつ階段を降りて舞台に近づく。競りは過熱して行き、タンバリンを首にかけた男が一万五千八百円をコール、他の客は悔しそうに財布を覗きながらも、それ以上の額を付けることができない。コージも頭を掻きむしり焦りの表情を浮かべるが声が出ない。「では、一万五千八百円で、こちらのお客様に決定です!」小屋主がそう告げた直後、「…一万六千!!!」一瞬静まり返る店内。皆が、叫んだコージを振り返る。「オラが、一万六千円払うべ、だから…」顔を見て、それが横丁で自分を助けようとした男だと気づくテレサ。「ではこちらのお客様に決定ということで…」小屋主が言うと、タンバリンの男は猛然と怒り出し、さらなる高値をつける。コージも負けずに「二万!!!」噛みつくように値を上げていく。(細かく額を刻もうとする男に対し、一度に数千円単位で値段を上げていくコージ。)両者睨み合い、周りの客も盛り上がり、一気に白熱する店内。客の一人がタンバリン男に「兄ちゃん、五千円くらいだったら貸すぜ!」と助け船を出すも、「三万!!!」コージの勢いは止まらない。慌てて止めに入るオキナワ。「おいコージ無理すんなって!お前そんなもってねえだろ?」それでも興奮し舞台に向かおうとするコージ。小屋主に本当に金を持っているのか疑われ、言葉に詰まるコージ。代わりに、そんな金は持っていない、と謝るオキナワ。「…ではこちらのお客様、一万五千八百円で落札でございます!」小屋主がタンバリン男の方に身を翻し、競りが決着を迎えようとしたその時。
 「貸シマス!!!」…静寂。手を上げて勢いよく叫んだ、舞台上のテレサに、ソロソロと皆の視線が向く。「…ワタシ、貸シマス、お金。」再びそう告げ、コージを見、手のひらを向けて、あなたに、と示す。テレサの不安でいっぱいだった表情が、強張った笑顔に変わる。見つめ合い、頷くコージ。舞台に片足をドン!と乗せ、手の平をめいっぱい広げて威勢よく叫ぶ。「五万!!!!!」再び静寂。客も小屋主も展開を見守る中、タンバリン男が口を開く。「…それは無理だよ~~~!そこで俺が『六万!!!』って言ってもさぁ~~、なんか違うじゃん!気持ちがそっち向いちゃってるじゃん!!」情けない声で抗議する男。テレサとコージは見つめ合い、束の間喜びの表情を浮かべる。「テレサ、それはねえよ…」と小屋主がテレサを咎め、腹を立てたタンバリン男は、「いいよいいよ!その子、金持ってないんでしょ?こうなったら嫌がらせで抱いてやるよ!」ステージ上に一万五千八百円を叩き付ける。改めてタンバリン男の落札を告げる小屋主。テレサの肩を抱き、舞台裏に連れて行くタンバリン男。コージを振り返り、後ろ髪引かれながら暗闇に姿を消すテレサ
 諦めきれない様子のコージ。金を拾うため小屋主が屈んだ隙をついて、幕の裏に駆け込んでゆく。すぐに、タンバリン男と腕を掴み合い再び舞台上に出てくる。「なんなの君は!」「堪忍してけろ!」「怒ってないから、ついてこないでよ!」「歌で、堪忍してけろ!」「歌ぁ?」「五万円ぶん歌うから、それで堪忍してけろ!」男の胸倉を掴んで嘆願するコージを、店員が二人がかりで引き摺り出そうとするが、タンバリン男がそれを止める。「いいよいいよ~!俺、聞いてみたいもん。五万円分の、う・た!」明らかに馬鹿にしている男。「歌ってみろよ、青年!!!」店員を振り切り、力のこもった形相でオキナワのもとに歩み寄るコージ。「オキナワ!…北国の春。」「…ああもう、どうなっても知らねえぞ!」
 ギターが鳴り響く。瞼を閉じ、意識を集中させるコージ。目を開き、「しらかばァ~、あおぞォらァァ、みィな~あみかァぜェ~」グッと力を込めて歌い出す。周囲の人々も息をのんで聞き入る。…が、客たちの方を振り返った瞬間、喉が詰まったように声が出せなくなるコージ。「……っ!」コージが歌えないと見るやいなや、店内の緊張が解け、「おい、連れてけ!」再びつまみ出されそうになる。コージは暴れ出し、他の客や小屋主を巻き込んでの掴み合い、殴り合いが始まる。殴られ倒れては立ち上がるコージ(相手の股間を掴んだり、腕に噛みついたりと泥くさく戦う)、援護しようとするオキナワ、その隙にタンバリン男に連れて行かれそうになるテレサ。小屋主までもが手にしているマラカスで客を蹴る殴るの大騒ぎ。舞台袖からその様子を覗いていたアイリーンが姿を現し、倒れたコージをさらに殴ろうとする男の後頭部をカバンで思い切り殴って助ける。橋本はテレサに駆け寄り、アイリーンと二人で男から奪い返し、コージとオキナワも誘導して裏へ逃げようとする。その寸前、コージは倒れていたタンバリン男の胸倉を掴み、その耳に向かって「あのふゥゥるさとへ、かえろかなァァ~!かァァァえろォかァなァァァ!!」叫ぶように歌う。なんなの!うるさいよ!と苦悶する男を床に打ち棄てて、踊り子たちとオキナワと共に裏へと姿を消すコージ。

 

【ストリップ小屋・楽屋】
 壁に耳を付け、外の騒ぎを聞いているシャオとマリアン。シャオが様子を見に行こうとドアを開けるとアイリーンが顔を覗かせ、意味ありげな笑顔を浮かべる。直後コージ、オキナワ、テレサ、橋本が部屋に雪崩れ込んでくる。アイリーン、橋本、シャオはすぐまた外の様子を見に出ていく。「ここにいれば、外よりは安全ダカラ…」テレサに言われ頷くコージ。露出の多い衣装姿のマリアンを見て、慌てて目を逸らす。「どうぞ、座ってクダサイ。」振り向いて、じっと見ていたマリアンと目が合うテレサ。「はッ!」と鼻で笑うマリアン。オキナワ、それを見て「はッ!」とマネしてコージに鼻で笑ってみせ、ためらうことなく座敷に腰掛ける。一方はにかんで部屋の端に立ったままのコージに、急いで座布団をはたいて階段に置き、どうぞ、と勧めるテレサ。おずおずとそちらへ向かうコージ。自分の分も用意されると思い立ち上がるオキナワだったが、テレサはコージのことしか見ておらず、あえなく同じ場所にまた腰を下ろす。「さっきは、アリガトウゴザイマシタ。」「ううん、オラは何も…」「お茶、飲みマスカ!」「あっ、おかまいなく…」お互いもじもじと照れ笑いしながら会話する二人。
 勢いよく楽屋のドアが開く。入ってきたのは目の周りに大きな痣を作り、衣装も破れボロボロな姿になったエドゥアルダ。「あンの、変態野球帽!!」怒りを込めて叫ぶ。「お疲レサマ~!」驚く様子もなく声を掛けるマリアン。しかしコージは目を丸くし、勢いよくエドゥアルダに駆け寄る。「大丈夫だべか!?」「ダレ!!??」思い切り不審がるエドゥアルダ。オキナワが間に入り、コージを引き離す。「オキナワ、あの人怪我してる!」「そうだな。」「救急車…救急車呼ぼう!」「呼べねえんだよ!」「なして!」「不法就労だからだよ。」「いいのいいの!よくあることダカラ!」マリアンが割って入る。「客もみんなわかってんダヨ、私たちが何も言えないッテ。わかっててやってんダヨ。」(その後エドゥアルダと手当てをするマリアンのやりとり 6/8マ「唾つけたからすぐ治ルヨ」エ「お姐さん唾ツケタノ!?痛いし汚イヨ!!」6/18エ「唾ツケタノ!?ばっかじゃネエノ!?」) 
 「わかんねぇべ…」もどかしそうにオキナワに詰め寄るコージ。踊り子たちは皆違法滞在者で、病院に行けばすぐに見つかり強制送還となってしまう。「ここにいちゃいけねえ人たちなんだよ。」オキナワの言葉に、表情が悲しく和らぐコージ。「…じゃあオラたちと一緒だな。」「一緒じゃねえよ、俺たちは合法!」「でも、どこにいても、いちゃいけないとこにいる気がしてるべ…」「…言ってる意味がわかんねえよ。」コージの言葉に苛立つオキナワ。「ワカリマス。」静かな空気の中、テレサの声が響く。「ワタシ、ワカリマス…」コージの傍へ歩み寄るテレサ。「ア…アノ、ふ~るさと、が、かえるかな、か~える~かな~」ぎこちなく、しかし伸びやかな歌声で『北国の春』を歌う。驚きながら喜ぶコージ。「その歌知ってたの?」「いえ、さっき初めて聞きマシタ。」「上手だよぉ!ちょっと違うけど。」にこにこと褒めるコージ、嬉しそうなテレサ。(6/18 コージの足をわざと爪先で踏んでみるテレサ。驚いて笑うコージ。)「違うトコロ?」「ふるさと、”が”じゃなくて、ふるさと”へ”だ。」「ふるさと、ってどういう意味?」テレサから問われ、「えっと…ふるさとは、…なんて訳したらええべ…。えへへ、わっかんねえなぁ~」と、頭を掻きながら笑って答えるコージ。今度は教えられた歌詞を、ちょっぴりコブシをつけてみたりしながら歌うテレサ。「ん、」と優しく相槌を打ちながら見守るコージ。歌い終えるとパチパチと胸の前で拍手を送る。
 和やかな空気が流れる中、「ヤメテ!その歌ヤメテ!!!」と叫ぶエドゥアルダ。驚きそちらを見遣るコージたち。楽屋のドアが開き、アイリーンが顔を出す。「ダイジョウブ~?」と尋ねると、再びドアを閉める。黙ってしまったエドゥアルダに歩み寄るテレサ。「すいません、ちょっとうるさかった、デスカ?」「ふるさとっていうのは、帰りたくても帰れない場所のこと。あんたでいうウクライナダネ。」代わりに答えるマリアン。エドゥアルダは座り込み、膝に顔を埋め震えている。コージが「でも、この曲は…」と反論しようとすると、「帰って!もう外へ出ても大丈夫デショ。」マリアンに突き放される。返す言葉もないコージ。「テレサ、あんたまだまだ稼ぐんデショ?お父さんの借金、ホンダのカブ、弟の学費、まだまだ稼いで、家族助けるんデショ?それじゃあこんな男、仕事の邪魔になるだけダヨ!」テレサも何も言い返せず俯いている。「あんたも、中途半端に優しくしないでくれるかナァ!こっちはそういう心、とっくに捨てて戦ってンダヨ!」マリアンの言葉にショックを受けるコージ。

 楽屋のセットが下がって行き、何もない暗い空間、オキナワとコージだけが立ち尽くしている。「…コージ、行くぞ。」「だども!」「わかってるよ。…帰れないからこそ、歌う歌だよな。」「ああ…」肩を落とすコージに、声を荒げるオキナワ。「お前がしっかり歌えばきっと伝わったよ!…でも、お前は歌えなかっただろ。」悔しそうにそう言い残し、コージを置いて立ち去る。悔しさ、悲しさ、虚しさを浮かべた暗い顔で、ふらふらと歩きだすコージ。スナックのセットが登場し、店のソファに崩れ落ちるように座ると、テーブルにつっぷしてしまう。

 

【スナック】
 カウンターには二人の男性客がスナックのママと話している。テーブル席には突っ伏したままのコージ。そこへ、千鳥足のオキナワがトイレから戻ってくる。「そもそもそもそもだな!しょもしょも、オメーは何がしてぇんだ?ん?しょもしょも!」(志村けんのバ〇殿のような話し方のオキナワ。酷く酔っている。)「だからぁ!オラは歌手になるんだぁ。」こちらも酔っ払い、舌足らずなコージ。ヘラヘラと笑いながら、おかわりを注文する。「あんまり飲みすぎないでね?」心配(日によって迷惑そうに)するママに注いでもらった酒をさっそく喉に流し込み、オキナワとぐだぐだと話し始める。「なれねぇよ~このままじゃ!しょもしょも!なんで歌えねぇのに歌おうとするの!」二人ともふにゃふにゃになりながら笑い合う。
 そこへ、「こんちー!」ギターを担いだ大野が、中央の階段を降りて店に入ってくる。その後ろからもう一人客が来店。「大野さん入ってくとこ見えたから。」「おっ、嬉しいこと言ってくれるねぇ。」「大野さん、こいつに一曲歌ってやってくれよ!」「あいよ!」「いい!歌なんか聞きたかねえよ!」自分の会社がうまくいかず、大企業への恨み言を呟く客と、それを励まそうとする客。そんなやりとりの中、ギターを奏で始める大野。曲は水前寺清子『いっぽんどっこの唄』。歌が始まれば聞き入る客たち。コージもうっとりした(酒のせいもあって目がかなりとろんとしている)表情でその歌を聞く。歌が進むにつれ、再び感極まって今にも泣きだしそうに顔を歪める。歌が終わると、「…まただ!…なして、オラが歌ってほしい歌がわかったんだぁ…」そう言ってふらふらと立ち上がり、大野の元へ歩み寄る。「いや、お前じゃなくてあちらのお客さんのために歌ったんだぞ?」オキナワのツッコミも届かない。
 大野の目の前に立つと、感動を伝え、「すいません、弟子になります。」と、ふにゃふにゃした口調で告げて頭を下げる。突然のことに混乱する大野。「弟子にしてくださいは言われたことあるけど、弟子になりますって、聞いたことねえよ…」「よろしくお願いします。」ヘラヘラと頼み込むコージ。「弟子はとらねえよ。」断られ、「どうしてだべかししょ~!」と大野に詰め寄ろうとするコージを、「すいませんこいつ酔っぱらってるんです~」と止めるオキナワ。「あっ!横丁の人間だろ?連れて帰れよ。」(6/18 コージの腕を掴んで「へ~い」と手を上げさせるオキナワ。されるがままの酔っ払いコージ。)しかし、「跡継ぎだよ、跡継ぎ!」客もコージの側につき、冗談半分のように大野を説得する。「ダメだ!」「なんでだべししょ~」と大野に泣きつくコージ。「俺はお前の師匠じゃない!」「ししょーだ!」「師匠じゃないと言っているだろう!」「ししょーだ!」「師匠ではない!」「ししょーだししょーだししょーだ!」「ではないではないではない!」「ししょーだって言ってるべ!!!」ヒートアップの末、大野を思い切り殴ってしまうコージ。勢いよく倒れ、「何なのお前!!」とコージの熱量に怯えて叫ぶ大野。
 ハッとして謝りながら説明しようとするコージ。「あの!オラ、北津軽郡から…じゃなくて!えっと、ばっちゃんが!…ええと…だから…。なのにだめで!今…」うまく言葉が出てこず、頭を掻きむしるコージ。「ああ…あああ…ぁああーーー!!」突如叫ぶと、階段の裏へ走り去ってしまう。驚いて固まる大野や客たちに、へら、と笑って誤魔化して、コージを連れ戻しに行くオキナワ。だが直後、コージ自ら再び飛び出してくる。そして力を込めて歌い出す。「凍えそうなカモメ見つめ泣いていました、あァ~ァァ~…津軽海峡、冬ゥ景色ィィィィ…」(石川さゆり津軽海峡冬景色』)ポカン、とする周りの人たち。さらに「何があァってももういいのォ~~」(石川さゆり天城越え』)と歌い続けるコージをオキナワが止める。「お前が歌える時と歌えない時の違いを教えてくれよ!」怒鳴るように訴えるオキナワ。「そんなのオラにもわかんね!」泣きそうになりながら怒鳴り返すコージ。
 座り込んだまま黙っていた大野が言葉を発する。「…言いたいことがうまく言葉にできなくて、やっと喉から出てきてみたら、歌になっちゃったんだろ?」「…そうです。」涙声で答えるコージ。「お前、そんなんじゃ生きづらいだろう?」「…はい。」「ただ、それは俺も同じだ。」何か、想いを巡らせる様子の大野。再び口を開く。「…給料はねえぞ!」ハッとして、顔を上げるコージ。「…はい!」「あれこれ聞かれるのは嫌いだ。質問は最低限にしろ。」「はい!」「悪いが、俺の言うことは絶対だ。」「「はい!!」」しれっと隣に立ち、一緒に返事をするオキナワ。驚いたように隣のオキナワを見るコージ。「お前も?」「俺たち、コンビでやらせてもらってますから!ししょ~~」急に態度を変えて、ゴマすり声を出すオキナワ。「…ついてこい。俺のショバ、案内するわ。」ニヒルに笑い、出口へ続く階段を上る大野。顔を見合わせて喜び、勢いよく抱き合うコージとオキナワ。コージが改めて「ししょ~!」と呼ぶと、振り返り、手で”ついてこい”と伝える大野。わぁっ、とまた顔を見合わせ、続いて階段を駆け上っていくコージ。「悪いけどつけといて!」と言うオキナワに、「今日はおごるわ!」と客も共に喜んでくれている。「ありがとよ!」二人の後を追うオキナワ。

 

【大野の”ショバ”/工事現場】
 階上に料理屋のセット。店内にはスーツ姿の三人の男女。青森の訛りが出て、慌てて標準語に直してしゃべる若い女性と、気を使ってあれこれと話をするが空回りし続ける上司の男。そしてその気遣いをことごとく無視する若い男性。かみ合っていない様子の三人を見て、こういう場合はどんな歌を歌う?と問いかける大野。「若い人たちがつまらなそうで、上司の人は形無しだぁ。」「ここは若者の好きな歌謡曲!」コージとオキナワが答えるが、大野は違うという。「あっ、流しだ。珍しいなぁ。君たちは知らないかもしれないけどね。一曲お願いしてみようか。」そう言うと、大野に声を掛ける上司。相変わらず興味のなさそうな若者たち。大野が歌い出す。曲は森進一『おふくろさん』。若い女性が、ハッとして大野を振り向く。
 「…それでどうなったんだ?」階下には工事現場のセット、作業着姿の住人二人。コージが階段を駆け下りながら、その後の様子を語り出す。若い女性に訛りがあって、下ろしたてのスーツを着ていることから、まだ故郷から上京してきたばかりなのだと思い、『おふくろさん』を選んだ。歌に感動した若い女性はゆっくりと立ち上がり、上司の男と見つめ合うと、腕を絡め、肩に頭を預け、寄り添いながら店を出ていく。「私の気持ち、わかってくれるの、係長さんだけだ!…って、二人で夜の街に消えていっただ…」股間を押さえ、ニヤニヤと笑い合うコージたち。
 そこへ買い物に出てきたテレサと橋本が通りかかる。テレサの姿を見るやいなや、嬉しそうにそわそわとし始めるコージ。テレサもコージに気付き、ゆっくりと歩み寄り二人で話し始める。(照明が当たっていない時にも小声で言葉を交わしている。)
 階上では大野とオキナワが次の店へ移動する。大人数で騒ぐ学生グループ。ごめんね、今日は客層が違って…と店員が言うように、歌を聞くような雰囲気ではないが、グループの中の一人が大野に気付いて歌をリクエストする。大野が選んだのは、ちあきなおみの『紅い花』。スポットライトがコージとテレサを照らす。「あえて、小さい声で歌うノ?」「小さい声で歌うと、みんな聞こうとして自然に静かになるんだって!」嬉しそうに会話を楽しむ二人に、橋本が水を差す。「テレサちゃん、いこ。」急かされ、名残惜しそうに立ち去るテレサ。見送るコージ。しかしテレサはすぐ引き返してきて、「また、偶然会いたいデス。」と告げる。「うん…。」と頷くコージ。今度こそ立ち去るテレサと、仲間たちの元に戻りひやかしを受けながら(それすらも嬉しそう)引き上げていくコージ。
 大野とオキナワは次の店へ。店内には個性的な動物たちを連れた男女。「うわ、くっさ!」「今はやりのペットバーってやつだな。コージ、お前なら何を歌う?」階下ではコージが現場用の上着を羽織り、ヘルメットをかぶって出てくる。「それで?お前はなんて答えたんだよ。」仲間に問われ、「ん~、よくわかんねかったぁ~」のんびりと答えるコージ。それからフェンスの前で座り込み、談笑しながらテレサが通りかかるのを待つ。(日によって隣に座る住人の腕時計(実際はつけてない)を覗き込んでみたり、身を乗り出して通りの向こうまで覗き込んでみたり。終始落ち着かずそわそわとしている。)
 そこへ再びテレサと橋本が現れる。囃し立てる仲間を「しーっ」と人差し指を唇に当てて牽制し、しかし表情からは隠し切れない喜びを零しながら、立ち上がってテレサを待つコージ。ヘルメットを脱いで腕に抱え、髪の毛をわしゃわしゃと整えたりしながらそわそわ。テレサが目の前にやってくると、また嬉しそうに二人でおしゃべりを始める。(コージ、テレサの服を指さして褒め、胸の前で小さくぱちぱち拍手をしている。)
 照明が上段のペットバーを照らす。ワニを連れた女が気になるオキナワ。「あの…噛まれてますよ?」「噛むわよ。ワニだもの!」リクエストを受け、大野が歌い出したのは、瀬川瑛子命くれない』。再びコージとテレサ。「命くれない。死ぬまで一緒って、愛の歌だべ。」「ワカッタ!ペットと、ずっと一緒?」「んだ!」笑い合う二人。大野が歌い終わり、オキナワと共に店を去る。ライトは闇の中、階下のコージたちを照らす。
 「師匠の歌は、すぐに客の心に入り込む。」「…コージは?歌わないノ?」困ったようにはにかむコージ。「…オラの歌は、のどまで出かかるけど、そっから先はなかなか出てきてくれねえんだ…」「コージの歌は、シャイ、ネ。」「?…わっかんねぇ。」照れ笑いをするコージ。するとテレサは、伸びやかな歌声で『北国の春』を歌い出す。(最初に歌った時よりずっと上手になっている。)「その歌歌って、怒られねえの?」「あれからみんな歌っテルヨ。」「そう…」嬉しそうなコージ。
 「ねえ、コージのふるさとはどんなトコロ?」ワクワクした様子で尋ねるテレサ。「オラのふるさとは……雪が、いっぱい降るよ。」(手を広げて動かし、雪が降る様子を表現するコージ。)「同ジ!ウクライナも雪、いっぱい降ルヨ。」「とーーっても寒くて!」(自分の腕を抱きしめ、凍えるマネをする。)「同ジダヨ!」「でも、」盛り上がる二人だったが、ふとふるさとを思い出したのか、しんみりと遠くを見つめるコージ。「…すごく、…いいとこだったよ。」「…同ジ、ダヨ。」少しだけ悲しそうに、微笑み合う二人。少しの沈黙。「…私のふるさとの山梨県もさあ!雪いっぱい降るよ!さむいよ~。一緒だね!!」明るく水を差す橋本。コージとテレサ、困ったように笑う。「あと、信玄餅がおいしいよ!あっ!食べる!?いつも持ち歩いてるから!」(胸元から信玄餅の包みを取り出す。)「人肌にあったまってるよ!」コージに強引に包みを渡し、食べ方を教えようとする橋本。「橋本さん、行きマショウ!」テレサに止められ、はい、と信玄餅を残して離れる。一緒に立ち去ろうとするテレサを呼び止めるコージ。「あの!…次は、その…偶然は嫌だな。ここで!待ってるから…」「…私も同じこと言おうと思ッテタ。」笑顔を交わし、信玄餅は食べないで、と耳打ちするテレサ。頷くコージ。(6/18 コージ、「どうすれば…?」と信玄餅を持て余し自らテレサに尋ねる。)二人を見送りながら、手に持った包みを遠くへ放り投げる。(気持ち良いほどに躊躇なくノールック。)

 

【スナック】
 場面は再び、コージたちが大野に弟子入りをしたスナック。ちょうど大野の歌が終わり、拍手をする客たちとコージ、オキナワ。客から代金を受け取って大野に渡すコージ。弟子らしさが板についている。階段を新しく客が降りてくる。「あ~終わっちゃったか~!」「タダ聞きすんなよ~」客も和気藹々とし、店全体が明るい雰囲気。後から来た客がリクエストをするも、「ちょっと出すもん出してくるわ!その間弟子がつなぐから。」と言い残してトイレへ行ってしまう大野。
 驚いて慌てるコージ。階段の手すりを握りしめながら客の様子をじっと見る。「コージ落ち着け、これはただのつなぎだ。」自らも緊張した様子で声を掛けるオキナワ。「大丈夫、今、あのお客さんが何を歌ってほしいか、予想してるところ!」客たちの「旭なんてどうだ?」「おっ、いいねぇ~」という話し声。「…わかったぁ!」興奮した様子で振り向くコージ。「あのお客さんたちが歌ってほしいのは、小林旭だ!」「…お前の予想を信じよう!」「『北へ』でいいか?」さっそく音合わせを始める二人。「はァ~~~!」(超高音)「高いよ!聖歌隊にでもなるつもりか!」「ハァァァ~~~!」(低くうねる声)「しゃくるな!!」そんなやりとりの間に、北野と大橋、連れの女性の三人組が来店するが、二人は気づかない。
 「いいかコージ、小さい声でもいいから、人前で歌うことに慣れろ。」コージに言って聞かせるオキナワ。頷くコージ。「へば。」小林旭の『北へ』を歌い出す。最初は落ち着いて、高音では盛り上がるように、丁寧に歌うコージ。客の拍手に、顔を見合わせて嬉しそうに笑顔を浮かべるコージとオキナワ。コージは客の方へ駆け寄り、手を差し伸べながら歌って場を盛り上げる。一番を歌い上げ、また大きな拍手をもらい、興奮した様子で喜ぶコージとオキナワ。
 しかしテーブル席に座って歌を聞いていた北野たちは拍手もせず、白けた様子。「この店の流しって、コレ?」嫌味な口調で尋ねる大橋。「いえ、いつもは…」と答えるママ。「先生の馴染みの流しがこの店にくるって聞いたから来たけど、のど自慢の若造のカラオケだった。店、間違えたみたいだわ。」「はぁ…」困惑した様子で大橋から代金を受け取るママ。立ち去ろうとする一行に、「あれ?お前大橋じゃねえか!」気づいて声を掛けるオキナワ。「呼び捨てにするな!」「ということはそっちは…北野波平だな!」どよめき、階段を上りかけていた北野に注目する客たち。おもむろにサングラスを外し、堂々と挨拶する北野。「どうも、北野、波平です!」すらすらと自己紹介の口上を始める。「先生、こいつらファンの方じゃないんで。」止めに入る大橋。「あ、そうなの?」「オキナワですよ。」「おお!オキナワかぁ!お前元気にしてたか!」「なんだよ北野のオッサン、俺らの顔忘れちまったのかよ~!」「オッサンって言うな!」苛立つ大橋。フランクなオキナワに対し、コージは北野に頭を下げた以外は、店の隅で恐縮したように身を固くしている。行きましょう、と大橋に促されて再び階段を上ろうとする北野。
 「…待ってけろ!」突然叫び、階段に駆け寄るコージ。「北野先生はどう思っただ。オラの歌、…のど自慢だと思ったか。」不安と自信の入り混じった表情で北野を見上げる。「悪い悪い、こいつは口が悪くてね。口が悪いし臭いしで困ってるんだよ。」えっ!と慌てる大橋。北野はコージに語りかける。「『名もない港に桃の花は咲けど 旅の町には安らぎはないさ』と君は歌った。情景がよ~く浮かんだよ。表現力はあるようだね。」そう評価され、コージの顔がパアッと明るくなるが、「だが、その情景の中に君の姿が見えなかった。」切り捨てるような北野の言葉に困惑の色を浮かべる。「君は誰のために歌っていたんだ。」「それはもちろん、お客さんのために!」前のめりになって答えるコージ。「ではお客さんのために歌っていたその時、君はどこにいた?」「どこ、って…」「質問の意味がわかんねえよ!」割って入るオキナワ。「では質問を変えよう。お客さんのために歌うとはどういうことかね。」「心を込めて…」胸に手を当て、自信を持ってそう答えるが、北野は笑ってあしらう。「心を込めて。よく聞く言葉だ。では今君が込めた心とは、具体的にはどんな心のことだね。」尋ねられ、答えられないコージ。「歌の景色の中には君の姿が見えなかった。客のために歌いすぎたんだ。流しの悪い癖だ。」話の途中、大野が帰ってくるが、北野の姿を見て再び姿を隠す。「君の歌の中には君がいない。以上だ。」断言する北野。誰も言い返せず、店内は静まり返る。呆然とするコージ。北野は身を翻すと、店を出るべく階段を上り始める。
 …と、思ったら再びコージたちを振り返り、「君の歌は、差出人の書いていない手紙のようだったよ。そんな手紙、気味が悪くて読む気になれやしない。君の歌の差出人は、もちろん君であるべきだ。だったら堂々と差出人に君の名前を書いて出したまえ!」階段を降りながら、演説のように語りを続ける北野。「まだ、続きますね?」諦めた様子の大橋。「客のために歌うことの何が悪いんだよ!」思わず反論するオキナワに北野は猛然と詰め寄る。「客のため?何様だ!自分の無い歌が、誰かのためになるもんか!」「でも…!自分自分じゃ、客の心はどうなるんだよ!」「客は歌い手の背中に自分を重ねる。歌い手の中に自分を見るのだ。だから歌の景色の中にはまず君が立つべきだ。歌の中に嵐が吹き荒れるならびしょ濡れになるべきは君だ。歌で大地が割れるなら奈落の底に落ちるべきは君だ。歌で誰かが死ぬのならば君が死ね!…だが、その屍を見て、客は涙を流して悲しむだろう!」北野の気迫に、誰も言葉を発することができない。「…歌は、君自身でなければいけない。今歌っている歌を否定されたら君自身が否定される、そんな歌を、歌いたまえーーー!」両腕を広げ大演説を締めくくる北野。息をのむように、黙ったままのコージたち。「…先生、そろそろ。」大橋に促される北野だが、「場を白けさせてしまったお詫びに、一曲歌わせていただこう。」そう言うと、おもむろに「ち~らし~♪寿司~な~ら~♪」軽妙に某CMソングを歌い出す。(しかもとても上機嫌。)「先生!余計、変な空気になるので…」「そうか、残念だなぁ~」渋々出口へと向かう。最後にもう一度、思い出したように振り返り、「北野、波平でした。」そう言い残して立ち去っていく。自然とママや店の客から拍手が沸き起こる。一方で悔しそうに俯くコージと、そんなコージを心配そうに見つめるオキナワ。「…俺はお前が、お前の歌を歌ってるとこ、ちゃんと見たことあるからな。」そう励ますが、打ちひしがれるコージには届いていない様子。

 

 【ストリップ小屋・楽屋】
 ラジオから流れる明るいアイドルの曲。(プラネット・ギャラクティカ『今夜はプラネット』)わいわいと談笑する踊り子たち。「最近みんな明るいネー!」ふんっ、ふんっ、と脚を高く上げながら言うマリアン。テレサが明るくなった、という話になるとすかさず手を上げるアイリーン。「ファイファイファーイ!橋本さんに聞いたんだケド、」「アイリーン!」橋本の制止も聞かず、マリアンに駆け寄って嬉しそうに続ける。「テレサ、買い物のたびにこないだの男と会ってるんダッテ~!」眉を顰めて振り返るマリアン。「青森の男なんダッテ~!」続くシャオ。「演歌歌手目指してるンダッテ~!!」エドゥアルダまで乗ってくる。あたふたするテレサ。「ミンナに言ッチャッテル!!!」「ごめ~ん…」手を合わせる橋本。「ゴメンナサイ、マリアン姐サン…」「別に、謝ることじゃないよ。」一層盛り上がる踊り子たち。(小躍りしてる。)テレサも安堵の表情を浮かべるが、「男と会うなとは言ってナイヨ。惚れるなって言ったンダヨ。」マリアンの言葉に再び表情が曇る。「…でも、テレサが好きなら、ねぇ!」励まそうとするアイリーン。「この仕事を続けるなら、あんな男、邪魔になるだけダヨ。」そう切り捨てるマリアン。気まずい沈黙が流れる。場を納めようと、エドゥアルダが陽気な調子で口を開く。「…ま、まあ、巡業もあるしネ!」箱根、名古屋…テレサたちは踊り子の一団として、各地の小屋を渡り歩いていた。「いいじゃないねぇ、遠距離恋愛で、ねぇ?」なんとかテレサの恋を応援しようとする橋本だったが、「追いかけさせるのかい?全国回って体売ってるような女、追う男なんてロクなもんじゃないネ!」とまたもやマリアンに一蹴される。「どのみち、無理な二人なんダヨ…」割り切ったような、でもどこか寂しそうな顏で呟くマリアン。
 「…マリアン姐さんは、恋したこと、ありまセンカ?」そう尋ねるテレサに、「ナイヨ!恋なんてしたことナイヨ!」背を向けて座り込んでしまうマリアン。言葉に詰まるテレサだったが、エドゥアルダはマリアンの言葉を聞くと、微笑んで話し始める。「嘘ヨ。姐さんもいっぱい恋して、いっぱい失敗したからこそ、今こうやって話してくれてるンダヨ。」胸が詰まるような表情でマリアンの背中を見つめ、「姐サン…!」駆け寄るテレサ。「私も、失敗したいデス。失敗してから考えマス。」床に崩れ落ちながら、泣きそうな声で続けるテレサ。「もう何年も、失敗できないことばっかりだったんデス…。お金のためニ、家族のためニ…。私、今失敗がしたいんです!」切実に言葉を紡ぐ。けれどマリアンは取り合わない。「話しても無駄ダネ!さあ皆、仕事の前に荷物をまとめておくんダヨ!箱根は海も温泉もあるヨ~!」テレサを無視して、明るく踊り子たちに話しかける。踊り子たちもはい、と返事をして明るく振る舞い支度を始める。エドゥアルダはテレサの肩に優しく手を置いて、ゆっくりと立ち上がらせ、慰めながらテレサを支度に誘う。そんな中何か複雑な気持ちを抱えている様子の橋本。コートを羽織ると、仲間たちを一瞥し、一人歩き出す。下がっていく楽屋のセットに代わり、みれん横丁のセットが現れる。

 

 【みれん横丁】
 住人たちがたむろする横丁の一角の階段(住人たち、「犬は、噛むなぁ…」などと話している。)、橋本は恐怖を感じながら、身を護るようにコートの前をギュッと締める。そして意を決して、住人たちに話しかける。「あのっ!」「おう、どうした姉ちゃん。」「さては殺してやりてぇほど憎んでる男がいるんだな!?それならこの人に頼めば、ひとり五万でやってくれるぞ!」「まいどあり!」勝手に話を進めていく住人たち。「ち、違います!!あの…海鹿耕治さんは、こちらにいらっしゃいますでしょうか…」「コージ!?コージは友達だよ!」「友達は、七万はもらわねえと殺せねえなぁ…」「殺してほしいわけじゃありません!!」話が進まずやきもきする橋本。そこへ横丁の奥から、頭を掻きむしりながらコージが飛び出てくる。それを追いかけて出てくるエドゥアルダ。「だからァ巡業なんだッテ!」橋本を見つけて駆け寄り、肩を揺さぶりながら問いただすコージ。「巡業ってほんとだべか!?」「だから本当だって言ってんダロ!信じてナイノ!??」声を荒げるエドゥアルダ。
 混乱し、オキナワに縋りつくコージ。「オキナワ、どうする!?」「どうするったって…あの人はヤクザの商品だ、俺たちじゃどうにもできねえんだよ。」諦め顔のオキナワになおも縋りながら、何かを閃くコージ。「連れ出そう…オキナワ、連れ出そう!」「そんなの無理だよ!」一方、予想外の場所で落ち合った橋本とエドゥアルダ。「エドゥアルダちゃんも来てたの?」「テレサがかわいそうダカラ。あの男を焚き付けに来たンダヨ!」
 コージを諦めさせようと説得するオキナワ、諦めないコージ、そこへ覗き魔が割って入る。「でもよコージ、あいつら不法就労だろ?見つかりゃ強制送還だぜ?」「覗き魔さん…」切なげに覗き魔を見つめるコージ。「しかもパスポートは小屋主が取り上げてんだ。逃げたところでパスポートが無けりゃよお…」「覗き魔さん……どうしてそんな詳しいんだべか?」「…ずっと覗いてたんだろ。」ぺろ、と舌を出して再び覗き業務に戻る覗き魔。「な?どっちに転んでもうまくいかねぇってことだ。」とコージを宥めるオキナワ。それを聞いて、エドゥアルダが苦しそうに口を開く。「…うまくいかなくたっていいンダヨ。あの子に失敗させてやりてえンダヨ。薄々だめだって気づいてることでも、飛び込ませてやりテエノ。…ねえ、一緒に失敗してあげてくれないカナァ?」コージにそう問いかける。「……オキナワ。」「だめだ。」「オキナワ!」「だめだって!」取り合わず、階段の方へ去っていくオキナワをなんとか振り向かせようとするコージ。「一人じゃどうにもなんねから、オキナワぁ!」「やっぱり出んのな、声!テレサのことになると!」呆れたように突然振り返って応じるオキナワに驚くコージ。「…あぁもう、これもデビューへの試練ってことかよ。おい、みんな集めてくれ!作戦会議だ!」意を決して声を上げるオキナワ。「オキナワぁ…!」目を潤ませるコージ。手を取り合い喜ぶエドゥアルダと橋本。「これは、大勝負だぞ!」

 

【みれん横丁・夜】
 すっかり暗くなった深夜の横丁。荷物を担いで小屋主の後に続く踊り子たちを、街灯が頼りなく照らす。「ろくでもない一座だったな。もう二度と呼ばねえよ。」「あんたも最低な小屋主だったヨ!」小屋主のぼやきに、マリアンが呟く。「まともな小屋主なんかいるのかよ…っておい、今言ったの誰だ!?」振り向いて踊り子たちに詰め寄る小屋主。サッとテレサの陰に隠れるマリアン。(6/18 隠れた上で「くされチンピラよ!」とさらに罵倒するマリアン。)「何揉めてんだよ!」ヤクザの親玉が現れ一喝すると、身を縮こまらせて頭を下げる小屋主。「なんでもありません!お疲れ様でございます、こちら、パスポートです。」手にしていたセカンドバッグを親玉に渡す。
 するとアイリーン、シャオ、橋本と目を見合わせて小さく頷くエドゥアルダ、突然芝居がかった声で話し始める。「この辺、最近痴漢が多いらしいのヨネ~~」ね~、と調子を合わせる踊り子たち。テレサとマリアンだけが、何が起こったのかわからず怪訝な顔をする。「触らせてやりゃあいいじゃねえか。」と返す親玉に、「痴漢のせいで、おまわりさんいっぱいイルノヨ~。…ワタシはビザ切れてるし!シャオなんて偽造パスポートだから見つかったら一発でアウトだヨ!!」「何が言いてえんだよ!」凄む親玉。「だから!裏道使って行きましょうよってだけのハ~ナ~シ~~~。」負けじと、額同士をくっつけるほどの超至近距離で睨み付けるエドゥアルダ。しばしの睨み合いの末、「…わかった!案内しろ。」「あっ、ハイ~!」親玉の言葉に態度を一変させ、腰が低くなるエドゥアルダ。不審がるマリアンに小声で「勝手なことしてゴメン!」と一言告げると、「こちらでごじゃいましゅー!あんよがじょうず、あんよがじょうず!」と手拍子をしながら一行を横丁の奥へと誘導する。(6/18 あんよがじょうず、に続いておにさんこちら、と歌うエドゥアルダ。)「この横丁、前にも来たことありませんでしたっけ…?」手下が気付きそうになると、シャオやアイリーンも一緒になって囃し立てながらごまかして誘導を続ける。
 と、その時、突然ライトが点き、そこにはそれぞれにプラカード、スコップや標識、武器のようなものを掲げた住人たちの姿。拡声器を持ったオキナワが階上に現れ、呆気にとられるヤクザや小屋主をよそに「反対だ!反対だ!なにもかも反対だ~!!!」と叫ぶ。それを合図に「反対!反対!」と住人たちが一斉に叫びはじめ、じりじりと一行に詰め寄る。「で、デモですかね?」「明け方二時だぞ!?」戸惑うヤクザたち。舞台手前、右側の建物の窓がそろ~っとスライドし、コージが恐る恐るデモの様子を見ている。ヤクザたちに見つかりそうになるとサッと隠れ、またそろ~っと顔を覗かせる。オキナワが拡声器に声を乗せる。「諸君!この中に部外者が紛れ込んでいる!」どよめく住人たち。「我々の意思に賛同してくださる協力者だ!ありがたく、寄付をいただこう!」そう告げると、一斉に住人たちが飛び掛かり、ヤクザたちはもみくちゃにされる。
 そのタイミングを見計らって建物から走り出るコージ、「テレサ!」名を呼び、手を伸ばす。驚くテレサ、橋本たちに守られながらコージの元へ駆け寄る。踊り子たちもコージの隠れていた建物の下、階段付近に避難する。手を取り合う二人。「テレサ!」「コージ!」「行こう。」「ドコヘ!?」「どこでもいいよ。さぁ!」テレサの手を引き、走り出そうとするコージ。「パスポート!」エドゥアルダに言われ振り返り、「オキナワ、パスポート!」大声で叫ぶコージ。「あいよ!」階上から指示を出すオキナワ、もみくちゃの団子状態の中から、セカンドバッグを抱えた小屋主が押し出され、ふらふらと前に出てくる。そこへ駆け寄ったのはマリアン。自分のバッグで小屋主を一発、二発、強烈に殴って倒し、セカンドバッグを奪い取る。歓声を上げる踊り子たち。「言ってくれればもっと上手いやり方あったヨ!!」咎めながらもバッグからパスポートを取り出し、テレサの胸に押し付けるマリアン。パスポートを受け取ると、手を握ったまま再び駆け出すコージ。舞台から降り、客席間の通路へ走り出る。
 「テレサァ!その男もダメになるぞ!」親玉の声に、足を止めるテレサ。突然止まったテレサに驚き振り向くコージ。「ジャパニーズマフィアはしつこいぞ。その男も一緒にダメになる。それでもいいのか、ウクライナァ!!!」顔から血の気が引いたようなテレサ。「…っ、行こう!」再びテレサの手を取って駆けだそうとするコージ。しかし、テレサはその手を振りほどく。「…やっぱり行ケナイ。」「えぇ…?」何が起きたのかわからない、そんな表情でテレサを見つめるコージ。「テレサ、自分の意思で戻ってこい。そしたら許してやる。」親玉の言葉に、グッと気持ちを飲みこみ、苦しい苦しい表情を浮かべ、ゆっくりと身を翻すテレサ。ゆっくりと一歩ずつ、ヤクザたちの方へ歩き出す。「テレサ、なして!!」コージの声に足を止め、静かに答えるテレサ。「……家族、大事ダカラ。まだまだ、お金稼がなきゃいけないカラ。」「仕事なら他にあるべ!」「コージも大事、ダカラ…」「オラのことはいいから。テレサはどうしたいんだべ!」「…私が我慢するのが一番、コージ大事にできるみたい、ダカラ…」そう告げて、また歩き出すテレサ。「テレサ、だめダヨ!!!」エドゥアルダたちの呼びかけもテレサを止めることはできない。手を伸ばし、名前を呼び、それでも自ら背を向けたテレサをそれ以上追うことのできないコージ。頭を抱え、苦しみ、もがく。舞台上ではテレサが親玉の目の前まで来て、しかしそこから進むことを躊躇っている。「さあ、もうちょっと、もうちょっとだテレサ。」呼び寄せようとする小屋主。痺れを切らした親玉が「テレサァ!」と叫ぶ。「あああああ!!!」言葉にならないコージの絶叫、たまらずオキナワが「コージ、全部吐き出しちまえ!!」そう呼びかける。次の瞬間。
 「生まァれる…まえェかァらァ…結ゥばれていたァァ…」コージの想いが歌になって飛び出す。『命くれない』…テレサの動きが止まる。「あなたァ…お前…夫婦みィちィ…!」胸に手を当て、テレサに手を伸ばし、歌い続けるコージ。「いィィのちくれェェなァいィィ…いのち、くれなァい…ふゥたァァりィ連れェェェェ…」テレサだけを見つめるコージ。コージを見つめるテレサ。周りのすべてが二人を見つめる。親玉の方に向き直るテレサ。その表情は晴れやか。静かに頭を下げ、(他の日には敬礼や、スカートの裾をつまんで膝を曲げ、)くるりと身を翻しコージの元へ駆けてゆく。コージもまたテレサに駆け寄り、腕を広げてその体を受け止める。仲間たちの歓声に包まれ抱き合う二人。「そうはいくかよ!」殴りかかる手下たち、再び始まる乱闘、なんとかテレサの手を掴み、舞台後方へと逃げるコージ。ヤクザたちが飛び掛かろうとしたその時、コージ、テレサ、踊り子たち、住人たちが一斉に歌い出す。「人目を忍んで隠れて泣いた…そんな日もある傷もある…」皆の歌声が、気迫が、徐々にヤクザたちと小屋主を舞台手前へと追い込んでいく。コージはしっかりとテレサの手を握っている。「命くれェェなァいィィ、命、くれなァいィィ…!ふたァり連れェェェ…!」ついに舞台から転げ落ちる男たち。「今のうちに!」顔を見合わせて頷くと、通路へ降りて走り去るコージとテレサ、後を追うオキナワ。「アディオス、テレサ!」エドゥアルダが祝福を送る。手下たちも急いで追いかけようとするが、「もういいデショ!」マリアンの叫びがそれを止める。「…テレサの分まで私たちが稼ぐからさ。」親玉が手下を呼び戻す。マリアンの言葉に応じるように、覚悟を決めて(諦めのようにも見える)笑うエドゥアルダ、不安そうな表情を浮かべるアイリーン…踊り子たちもそれぞれの思いを持って再び歩き出す。「…二人とも、幸せになんなきゃ、嘘ダカラネ!」コージたちの走り去った先を見つめながら呟くマリアン。その背を足蹴にする親玉。『命くれない』の終わりの伴奏が流れ、幕が下りる。